愚者との会話
愚者との会話
「う~ん、やっぱり居ないか。少し疲れたな。一旦ギルドルームに戻ろう。」
朝からずっと粘って、もう5時。疲れたというより、飽きたと言うべきか? 自分の命がかかっているかもしれないメイガス探しなのだが、流石に息抜きをしたい。
「そうですね。デートの締めはやっぱり二人きりがいいです。」
「ぐは! ちょっと待てローズ、これはデートだったのか?」
「シンさんにはそうではなくても、私にとってはデートなんです~っ!」
う~ん、デートならば、もう少し雰囲気のありそうな場所や、遊べる所がいいのだが。
武器を振り回している奴や、魔法をぶっ放している奴を見ていただけなので、雰囲気もへったくれも全く無かったぞ。
しかし、これは俺もそろそろ決断をしなくてはいけないのだろうか?
俺も男だ。年下の、ドストライクの女性にちやほやされて、悪い気がする訳も無く。
だが、このまま彼女の好意に甘えていていい訳が無い。
それじゃどこかのジゴロだ。
そして、安易に付き合うのは、彼女を傷つけることになりかねない。
特に、ローズは一世一代、人生最後の大恋愛がしたいはずだ。
という事は、結婚を前提としたお付き合いか?
だが現状、俺は幽霊。彼女もリアルじゃ身動きできない病人。
ハードルは高いなんてものじゃない。最低限、俺が元の身体に戻るのが必須だ。
俺はそんなことを考えながら、ギルドルームに帰る為、ギルドホールの転移装置を目指して歩く。
当然、俺の手はローズに握られたままだ。
すると、声をかけられた。
「シ、シンさんですね。随分と待たせてくれるじゃないですか! と、とにかく話があります! さあ、こちらに!」
ぶっ!
振り返ると、昨日絡んできたのと、全く同じアバの奴が居た。
IDは隠密玉で見えなくしているのだろうが、こんな事する奴、フォーリーブスしか居ないだろ。
しかし、こんな所で待ち伏せせずとも、メールすればいいのに。
多分、メールじゃ無視されると思って、直接会いに来たのだろうが。
「あんた誰っすか? いかにも再登録したてって感じのアバっすね~。」
ローズも容赦が無いな~。分かって聞いているのがバレバレだ。
「あ、貴女には関係ない話です! さあ、シンさん!」
「いや、流石に見ず知らずの、しかもIDを伏せているような人について行くと、ママに叱られる。勘弁してくれ。」
ママとは、この場ではローズになるか?
おそらく、こいつが連れて行こうとしているのは、誰にも見られない場所、こいつが新に作ったギルドルームか、パーティールームだろう。
「ぼ、僕だって、隠したくて隠しているんじゃないんです! さ、さあ!」
こいつの目的も既に分かっている。
俺に和解したと、運営側にメールを送らせたいのだろう。
ふむ、話だけでも聞いてやるか。
もし、今朝の連中みたいに素直に謝るのなら、許してやってもいいだろう。実際、俺に被害は無い。というか、お釣りまである。
そして、奴のアイテムを根こそぎ奪ったことには、罪悪感が残っているのも事実である。返す気は毛頭ないがな。
「あ~、分かった。じゃあ、うちのギルドルームで話そう。少し準備したいから、数分後に来てくれ。」
「し、仕方ないですね。絶対ですよ! 入れてくれなかったら、訴えますからね!」
何を訴えるのか分らんが、俺もこいつとはもう終わりにしたい。
「シンさん、本当に甘いっすね~。でも、それがいいところなんですけど。」
ローズは呆れたように言うが、彼女も俺の意図は察してくれたようで、二人で転移装置に乗る。
ギルドルームに入ると、まずはモニターを不可視にする。
うちだけ特別扱いされているのがばれると、後々面倒だ。
「じゃあ、ローズはサモンさんに。俺はバットマンさんだ。」
「了解っす!」
そう、どうせ詫びるのなら、あの二人に対してもきっちりと謝らせたほうがいいだろう。
バットマンさんは、運良く彼のギルドルームに居たようで、すぐに来てくれるそうだ。
「サモンと、クリスさんは捕まらないっす。今、大和のイベントやってるみたいっすね。」
あ~、大化改新のイベントだろう。まあ、そこまで無理に呼ぶ必要もなかろう。
インターホンが鳴る。
出ると、バットマンさんだ。
「ID隠している奴も入れろって言っているのだ。構わないのだ?」
「あ~、構いません。連れてきて下さい。」
「了解なのだ。フォーリーブスも来るのだ。」
うん、彼も分かっている。
バットマンさんと、茶髪ジャージ姿の男が入って来た。
「じゃあ、まずは隠密玉の効果を外してくれ。あ、適当に座ってくれ。」
「レ、レベル60台の分際で何を偉そうに! でも、仕方ありませんね。」
ぶっ!
こいつ、自分の立場、分かってるのか?
バットマンさんは、俺達の隣のソファーに。フォーリーブスは正面のソファーに腰掛ける。
やっと奴のIDが確認できた。
ID:ライトニングサークル LV.1
ラッキークローバー
フォーリーブス
下の二つは若干薄い表示だが、見事な三段重ね。
そら、見た奴、びびるわ!
「で、用件は?」
「そ、それは・・、えっと、その・・、と、とにかく僕と和解したと、運営側にメールしてくれればいいんです!」
ぶはっ!
この期に及んで、こいつ、全くぶれないな~。
しかし、いくら何でもこれでは・・・。
「お前、シンさんと何をどう和解したのだ? 流石にそれだけじゃシンさんも困るのだ!」
「そうっす! 詫びの一つも無しって、意味不明っす!」
当然こうなるわな。
「外野は黙っていて下さい! 他人の手を借りないと、一人で話も出来ないんですか? 全く、相変わらずどうしようも無い人ですね。」
ふむ、俺は現在、ローズとバットマンさんの手を借りていると。
まあ、間違ってはいないのかもしれないが、どちらに主導権があるのか判っていないようだ。
「ふむ、なら話はこれで終わりだ。ギルドオーナーの権限で、今から貴方を強制退出させる。バットマンさん、わざわざお呼びして、申し訳ない。」
「うん、これじゃ仕方無いのだ。期待した僕が馬鹿だったのだ。」
「え、ちょ、ちょっと待って下さい! 貴方、僕に従わないと、酷い目に遭いますよ?」
こいつ、まだ脅すつもりか?
「ふむ、酷い目に遭うって、どういうことだ? 教えて欲しいな。」
立ち上がりかけたバットマンさんも、興味が出たらしく、座り直す。
「ぼ、僕はシステム管理部の新庄さんと知り合いなんですよ! 僕が頼めば、貴方のIDを削除するくらい、簡単なんです! さあ、分かったら、さっさとメールです! そう、この僕を怒らせないほうがいいね。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
流石にこれには全員絶句した。
三段重ねのIDの奴が何を言うかと思えば。
確かに、新庄と知り合いなのは間違いないだろうが、それは単に説教喰らっただけだろ!
しかし、この静寂も束の間。すぐに全員が笑い転げる!
「きゃははは! じゃあ、その新庄さんとやらに頼めばいいじゃないっすか~。ここに来る必要あったんすか~?」
「あは、あは、あはは~、なのだ。こ、このギャグは反則なのだ! 不意打ちは卑怯なのだ!」
「ぷっ。くくくく、いや~、サモンさんにも聞かせてやりたかったな。うん、怒らせたら怖いのは良く分ったよ。笑い死にさせる気か?」
フォーリーブスは、口をぱくぱくさせている。
そして、流石にこれで出て行くかと思ったが、奴は意外と粘り強かった。
「な、何を笑っているんです! ぼ、僕は本気ですよ! それで、どうなんです? メールする気になりましたか?」
「うん、メールしておくよ。また脅迫されたと。しかしこれ、脅迫になるのかな? 何しろ、全く理解不能だからな~。」
再び二人が笑い転げる。
「理解出来ないとは、思った以上に馬鹿なようですね! しかし、僕も手ぶらで帰る気はありませんよ。さあ、和解したとメールを!」
う~ん、追い出してもいいのだが、こいつ、何故そこまで拘る?
姉貴の話だと、昨晩のこいつの処罰は軽い。最初の奴も俺の悪口の書き込みだけで、桧山さんも、大した処分にはならないと言っていた。1週間も我慢すれば、掲示板に晒されたIDも消えて、元に戻るのでは?
「ふむ、じゃあ、何故俺と和解しなきゃならないんだ? お前、暫く潜らなきゃいいだけだろ?」
俺は素直に聞いてみた。
すると、バットマンさんが答えてくれる。
「あ~、それは、以前のIDは晒されていないからなのだ。存在していないIDを載せても無意味なのだ。そして、掲示板に晒されている状態は、分かり易く言えば、刑期なのだ。つまり、フォーリーブスは刑期を勤め上げる事がもう不可能なので、後は被害者と和解するしか、処罰歴を消す方法が無いのだ。」
うん、これなら納得だ。
サモンの提案は、思った以上に効果があったようだ。
このままだとこれから先、こいつはずっと三段重ねのままという事になる。
「い、いや、もう一つ方法がありますよ!」
フォーリーブスが口を挟む。
「ん? それは?」
「被害者のIDが無くなればいいんです! 被害者が居なければ罪状も存在できない。だから、僕と和解が嫌なら、IDを再登録する事をお勧めしますね。」
なるほど。そういう手もあるのか。
しかし、何この理屈?
「で、俺がそうすると思うか?」
「え? しないんですか? 僕が新庄さんに頼んで、貴方のIDを削除して貰う事も可能なんですよ? それなら、今のうちにアイテムだけでもこの人達に預けて、再登録した方がいいじゃないですか。あ、僕が預かってあげますよ。」
ふむ、こいつの言い分は、新庄パワーが通用するのなら有効かもな。
しかし、その大前提が大嘘な訳で。
うん、こいつとの会話は全く不毛だな。
俺がオーナー権限で退場させようとすると、なんと、その前に奴が消えた!
ふむ、俺を見張っていた人、この時間だと、新庄か桧山さんかは分からないが、遂にキレたと見るべきだろう。
「え? あいつ、消えたっすよ? シンさんが追い出したんすか?」
「あんな奴、追い出して当然なのだ。シンさんも、良くここまで話を聞いてやったのだ。」
「ま、まあ、そんな感じだ。それで、バットマンさん、本当に済まない。俺としては、バットマンさんにも謝らせたかっただけなんだけど。」
「シンさん、僕は全く気にしていないのだ。寧ろ、笑わせて貰えたので感謝なのだ。後、残念ながら、あれ以上の情報はまだ無いのだ。今晩、試合を見に行くのだ。」
「うん、そう言って貰えると助かります。そっちの方も引き続きお願いします。」
バットマンさんは、思い出し笑いをしながら部屋を出て行った。




