気持ちのいい謝罪
気持ちのいい謝罪
ぼっちになったところで、ふと気付くと、メールが入っている。
どうやら、姉貴の授業中に貰ったようだ。ほぼ同時に3件着ている。
しかし、IDには見覚えが無い。
ふむ、これは例の情報欲しさの連中か?
まあ、見るだけ見てみるか。
『昨晩は大変失礼致しました。つきましては、直接謝罪させて頂きたいので、お手数ですが、お会いできる場所と時間を指定して頂ければ幸いです。 ID:ゴールドラッシュ』
あ~、昨日の連中か。しかし、朝っぱらから律儀だな。反省していたというのは間違いないようだ。他の2件もほぼ同じ内容だった。
特に断る理由も無いので、今からVRファントムのギルドルームに来てくれと返信する。
程無くして、インターホンが鳴ったので、モニターを不可視にしてから出る。
「昨日は本当に済みませんでした! ゴールドラッシュです。あ、後、銀狐とレッドカッパーもですが、宜しいでしょうか?」
「うん、分かった。入ってくれ。」
うん、さっきのメールをくれた連中だ。
しかし、ここまでしなくても、メールだけで充分に誠意は伝わったのだが。
ゴールドラッシュは金髪イケメン、高身長のがっしりタイプ。
銀狐は、中肉中背の狐人アバター。
レッドカッパーは、赤髪イケメンで、身長はちょっと低めのスレンダータイプ
ふむ、金銀銅か。分かり易いな。
彼らは部屋に入ると、並んで頭を下げ、詫びを入れる。
「うん、謝罪は受け入れた。それに、貴方達も、管理側に絞られただろうから、もういいだろう。昨日の事は水に流そう。」
「ありがとうございます! それで、図々しいお願いなんですが、管理側に僕達と和解したとメールを出して頂けないでしょうか?」
ゴールドラッシュがそう言うと、後の二人もまた頭を下げる。
「え? それは構わないけど、そこまでする必要があるの? そこの二人はレベルも1にされているし、もう充分では?」
「いえ、僕達のペナルティーはこれだけじゃないんです。今、『素戔嗚』の掲示板に、処罰者リストでIDが晒されているんです。」
「ん? 詳しく頼む。」
連中の話によると、こういう、管理側から処罰を喰らった奴は、素戔嗚チャンネルにIDが載ってしまうらしい。掲示期間は処罰の内容によって変わるが、最低の厳重注意でも1週間は晒されると。ただ、今回のように被害者と和解できれば、それは即座に削除される。削除されれば処罰歴としても残らないようだ。
ふむ、良く出来ている。
和解できなければ長期間晒される。そして、謝るなら早い方がいいと。こいつらがこんな時間に来たのにも納得だ。
「なるほど。必ずメールしておくよ。あ、後、少し聞いてもいいかな?」
「はい。どうぞ。」
「うん、そこの二人は、既にレベルを1まで下げられてしまった。はっきり言って、もう失う物は無いよね。なのに、わざわざ俺のところに謝りに来てくれた。IDを一旦削除して、再登録するという手もあったと思うけど?」
すると、赤髪が答える。
「それも考えたんだけど、それしちゃうと、今までの僕達の交友関係までリセットされちゃうよ。元何々だって言っても、変な目で見られそうだし。それに、一度は晒されてしまったIDでも、今なら胸張って、ちゃんと謝ったって言えるもの。こっちの方が全然気分がいいよ!」
うお! この返事は素晴らしいと思う!
俺も、もしなんかやってしまった時、彼と同じ事が言えるだろうか?
俺はその場で、今居る桧山さんに、彼等と和解した旨をメールする。
するとマッハで、掲示板のIDは既に削除したとの返信が来る。
彼女もきっとこの会話を聞いていたのだろう。
その後、ラッキークローバーについて尋ねると、経緯を教えてくれた。
ふむ、彼等は完全に奴に騙されていたようだ。
俺の持っているアイテムは、全てチートを駆使してPVPで儲けた、不正な物だと教えられ、一緒に懲らしめてやろうと言われたらしい。そして、証拠は押さえてあるので、訴えると脅せばすぐに吐き出すだろうと。
う~む、彼らのやった事は明らかに悪いのだが、なんか同情してしまう。
ちなみに、奴とは現在連絡が取れないらしい。あいつ、また削除したのか?
「うん、分かった。ありがとう。」
「「「こちらこそありがとうございました! そして、済みませんでした!」」」
フォーリーブスに関しては、どう出て来るか分からないが、今はとても気分がいい。
昨晩嫌な目に遭ったのに、嘘のようだ。
雨降って地固まるという奴か?
彼らが部屋を出ると、いきなり視界に字幕が表示される。
『【重要】IDを再登録する際の注意。現在、処罰歴が残っている方は、前IDが新IDの下に薄く表示されるようになりました。』
ふむ、サモンのは採用のようだ。しかも対応早いな。
俺は部屋を出て、闘技場に向かう。
今晩の試合の何かヒントにでもなればというのと、運が良ければメイガスを見つけられるかもとの理由だ。
予選は既に始まっていて、この時間だと、一対一の試合が多いようだ。
「ふむ、メイガスで、本気で勝ちを狙うならタイマンか? しかし、タイマンだとこのルール、圧倒的にアタッカーの方が有利だからな~。さて、どの試合を見るべきか?」
そう、魔法特化の奴はリキャストタイムの関係上、明らかに不利だ。
この大会で使用可能な装備は、特殊効果の無い武器と防具だけ。アクセサリーは使用不可だ。
リキャストタイムが関係無い、通常攻撃でも高い威力を発揮できる武器を使う方が絶対に有利なのだが、魔法系統の装備は、多分にそういう特殊効果に頼っているものが大半だ。
例えば、俺がローズから借りている杖、
ラインの杖:攻撃力+80 効果:魔力+20% 消費MP20%↓
の場合は、効果が両方引っかかってしまい、使えない。代わりに魔力+100とかならOKなのだが。
ただ、称号に関してだけは自由だが、それでもリキャストタイムが短くなる称号など、聞いた事が無い。
とは言え、何事にも例外はありそうなので、魔法特化の奴でも、強い奴が居るかもしれない。
「迷っていても仕方無い。適当に覗いてみるか。」
俺は闘技場NO.2の観覧席に入る。
丁度、今から開始のようだからだ。
「ふむ、一対一か。レベルは50台と。カオリンとかのレベルだな。」
両端のスタートラインの奥には、片方は槍装備、もう片方には盾と小剣装備の奴が控えている。
ちなみに、両手武器の場合、これだと槍だが、片手武器と同じ攻撃力でも、当たった時のダメージは3割増しである。なので、ローズのように片手武器を両手に装備しても、うまく使わないと両手武器の威力には及ばない。どう組み合わせれば有利かは、本人の戦闘スタイル次第である。
両者が同時スタートラインを越え、中央に走り込む!
視界に『FIGHT!』と表示が出る。
「スピーデンガードアップ!」
ランサーが呪文を唱える! スピードと防御を同時に上げる魔法だ。
ふむ、こいつ、ひょっとしたら、元は魔法職かもな。 間合いが詰まってきたところで、今度はガードがスキルを使う!
「城塞!」
うん、こいつは完全に盾役だな。防御力を倍増させて、その間に通常攻撃で削るつもりだ。
だが、この『城塞』を使ったのは失敗だろうな。確かに効果がある30秒間は無敵に近い硬さだろうが、このスキル、リキャストタイムが長く、1分かかる。
パーティーで魔物相手なら、これを使ってから突っ込めば、それこそいい盾なのだが、このように一対一なら、効果が切れた後を狙われそうだ。
案の上、ランサーは避ける事に集中し、スキルも温存して積極的に攻めて来ない。
ガードの奴はそれでも何回か攻撃を当ててはいるが、通常攻撃だし、バフの効果もあり、あまり削れていないようだ。
思った通り、30秒後、ランサーの反撃が始まる。
「パワーエンヒットブースト! 連続突き!」
ふむ、『パワーエンヒットブースト』は、攻撃と命中を同時に上げる魔法。ばらで唱えるよりもMP消費が多い。また、この『連続突き』は、槍スキルの初級。やはりこのランサー、元は魔法職、それもバッファーだな。
これにより、ランサーは、盾である程度は防がれるものの、着実にダメージを与えて行く。
もっとも、ガードの奴も黙ってやられるだけでは無く、隙を見てきっちり反撃している。
うん、腕はガードのほうがいい。
そして、ランサーは防御に難ありと見た。一撃で与えるダメージは、ガードの片手剣の方が少ない筈なのに、HPゲージは明らかにガードの方が残っている。
「ものままじゃ不味いか? 回復だ! フィジカルドレイン!」
う~ん、連続で唱えられれば、ランサーのやり方はかなりいいはずなのだが、15秒に一回じゃ、間に合わないかもな。吸えるのはHPの1/10だけだし。
「よし! リキャストタイム終了だ! 喰らえ! 六花繚乱!」
ガードの剣スキルだ!
一瞬6人に分身し、一斉にランサー目掛けて、剣を振り下ろす!
見事に極まったようだ。
ランサーのHPゲージが、一気にレッドゾーンに突入する!
後は見るまでも無い。
ランサーもスキルで反撃するが、威力も低く、あっさりとガードの勝ちとなった。
その後も何試合か見るが、特筆すべきものは無かった。
ただ、低レベルの試合だと、耐性の穴を突かれて、瞬殺されるというのはあったが。
基本的にはやはりアタッカー有利。そしてスキルによる攻撃で勝負がつくケースが多いようだ。
杖装備で勝ち上がる奴は、そういうデバフを利用しなければ厳しい感じだ。
これは団体、パーティー戦でも同様のようだ。
お互いに牽制しあって、開始直後は必ずばらけるので、ウィザードの最大の強みである、範囲魔法がそうそう使えないのである。
利点としては、遠距離から攻撃できることなのだが、それもアーチャー相手には劣る。
ただ、バッファーは活躍できるようだ。特に、『ダブルアタック』の効果は凄まじく、上級スキルに組み合わせて、一撃で葬っているケースもあった。もっとも、息の合ったパーティーでないと成功は厳しいようだが。
俺なら、今のうちの仲間になら、ほぼ成功させる自信があるので、改めて俺のチート性を思い知らされる。サモンが取れと言ったのにも納得である。
「う~ん、やはりメイガスっぽい人は居ないな~。また、居たとしても、これじゃ分らんな~。」
俺は会場の近くのベンチに腰掛け、一人愚痴る。
アタッカーが有利な上に、リキャストタイムが短縮できないので、そもそも魔法が使われる頻度が少ない。回復魔法とかはタイミングはあまり関係ないし。
また、カオリンのように、凄まじい連続攻撃を極める奴もたまに居るが、それは技術であって、俺のような最初から理が違うというものではない。俺にはあれを真似できないだろう。
「でも、シンさんクラスの奴なら、絶対に目立つはずっす!」
「おわ! 驚かすな! ローズか。うん、今日は。用事はもう済んだのか?」
「シンさん、今日はっす。はい、もう済んだっす。」
いつの間にか、ローズが俺の隣に腰掛けている。
ふむ、もう3時か。ローズの転院は無事に終わったようだな。
「だが、レベル90台の試合は参考になったな。『フェイント』一発で相手の連続攻撃を止めて、そこから反撃していくとか、凄い奴が居たぞ。」
「それは相当手慣れた奴っすね。サモンなら出来そうっすけど。それより、サモンから聞いたっすよ。また絡まれたらしいっすね! やっぱりシンさんは、外に出る時は私が一緒じゃないとダメです!」
ぶっ!
大方、サモンが心配して、ローズに張り付いていろと言ったに違いない。
どうやら、ローズは俺の保護者確定のようだ。
「あ~、あれはもう済んだ。一人を除いて謝りに来てくれたしな。サモンさんの提案も採用されたし、ああいう連中はこれから減るだろう。」
「え? あの仕様変更、サモンの案なんすか? サモンのくせにやるっすね~。そういや、ギルドホールで少し騒ぎになってたっす。何でも、三段重ねのIDを見たとか。」
ぐは!
それ、多分フォーリーブスだな。それも、再登録している時に、仕様変更された可能性が高い。三段重ねになると分かっていてやる程、馬鹿ではなかろう。
そして、あいつもあの連中と一緒に謝りに来ていれば、そうはならなかったはずなのに。
一週間程で元に戻るだろうが、自業自得だな。
その後もローズと一緒に観戦するが、戦術の参考にはなったが、メイガスらしき奴は居なかった。
そして、確かに変な奴には絡まれなかったが、俺の腕にはずっとローズが絡みついている。
悪い気はしないのだが、まだ付き合っている訳でもなし、恥ずかしいので嫌だと言ったら、あの称号に変えると脅される。なので、もう諦めてされるがままだ。




