義元左文字
義元左文字
俺とローズで道を進むと、城が見えて来た。
城とは言っても、かなり小さい。かろうじて天守閣と呼べる?という建物と、その横に櫓と思われる施設があるだけだ。石垣も無い。
但し、城の周りには堀が張り巡らされており、攻めるのには苦労しそうだ。
「ローズ、ここはどうなるんだ?」
「あの橋を見るっす。」
ローズが指した先には、堀の上に架けられた橋があり。そこが城へと繋がっている。
そして、そこには数人のNPCが立っていた。
「ふむ、あれをやっつければいいのか?」
「逆っす! あれは味方っす!」
「そうなんだ。じゃあ、これからここに敵が来るから、まずはあいつらを守れってことか?」
「そうみたいっすね~。あたいらの時は、敵があの橋に乗ると、あのNPCごと橋が落ちたっす。サモンも失敗したか?って焦ってたっすけど、クリアはできたっすね。」
「なるほど。じゃあ、俺達は橋に敵を近づけなけない方針だな。」
「了解っす!」
俺達がその橋の手前まで来ると、NPCが話しかけて来た。
「殿! ここは我らが死守します故、殿はどうか城の中へ!」
ふむ、パーティーリーダーの俺が信長って認識か。
で、ここで城に入っちゃうとダメそうだな。
「いや、ここは俺達で何とかするよ。」
「そうでござるか。ですが、もうそこに敵が迫っております! ご武運を!」
会話はそれだけだった。
ん? 自分達が前に出るとか言わないのか?
ここも結構適当だな。
振り返ると、10人くらいの集団が駆けて来た!
「よし、あいつらをやっつければいい訳か。」
「そうっす! あたいに任せて欲しいっす! ガードアップ!」
「分かった! パワーブースト!」
ローズが両手に斧を握り、その集団に突っ込んで行く!
俺も、まずはローズの攻撃力だけ上げておく。
敵のレベルは全員80。盾無しじゃ結構きついか?
「喰らうっす! ローリング『ダブルアタック!』アクシズ!」
ふむ、完璧に極まったな。彼女の攻撃タイミングは、もはや見なくても分かる。
ローズが回転しながら、両手の斧で、敵を切り刻んでいく!
そして、敵全てのHPゲージが一気に半分くらいまで減る!
しかし、敵はローズを取り囲み、フルボッコにするようだ。
「まだこれからっすよ~!」
それでもローズの攻撃は止まらない!
両手の斧での連続攻撃を手近な奴から浴びせて行く!
初撃から10秒もせずに、半分の敵が消えた。
ローズも敵の攻撃を喰らってはいるようだが、HPはまだグリーンだ。
う~ん、この調子じゃ俺は見ているだけだな。
ダメージキャンセルを唱えるよりも、回復魔法の方が、効率が良さそうだし。
更に10秒。敵が全部消えた。
「ヒール! ヒール! 流石はローズだな。ここはこれで終わりか?」
俺は申し訳程度に、ローズを回復してやる。
「いや、シンさん、まだっす! 後5回っす!」
「分かった!」
見ると、また来やがった。
しかし、パターンさえ分かっていれば、全く心配は無い。
先程と同様、おかわりが来る度に、それを数十秒で全滅させていく。
変わった事と言えば、最後の集団からサイコドレインでMPを補給したくらいか。
「ローズの独壇場だな~、俺も参加しよっかな?」
「あはは、あたいの見せ場を取らないで欲しいっす。」
う~む。これじゃ、前回の告白イベントと一緒だな。
「じゃあ、『沓掛城』に行くか!」
「はいっす! あっと、サモンからコールっす。」
「あ、俺もクリスさんからだ。」
コールは、外からはダメだが、同一ダンジョン内の味方になら利用できるので、こういう別行動しなければならない時にも重宝する。
『シンさん、こっちは全滅させましたわ。今から合流地点に移動しますわ。』
『了解! 俺達も終わった。こっちも移動するよ。』
サモンからは、無事、家康だけは逃がせたとのことだ。
敵の半分くらいをやっつけたら、脇道に逃げて行ったらしい。
ふむ、流石は後の天下人。引き際を心得ていると言うべきか?
途中、数人の小集団が何度か襲ってきたが、ローズが問題無く駆逐していく。
「あら、シンも早かったのね。ちゃんと家康は逃がしたわよ。」
「うん、ご苦労様。」
「こっちはアタッカー二人やからな。楽勝や。」
「あはは。こっちはローズの独り舞台だよ。俺の存在意義は無かったな。」
「そ、そんなことないっす! シンさんのダブルアタックが無いと、ああは行かないっす!」
「まあ、そんなとこやろな。で、タカピさん達はまだやけど、出て来たで。」
俺達は、まだ合流地点の『沓掛城』の前だったが、城からわらわらと敵が出て来た。
流石に数が多いな。50人は居るか?
「すみません。少し手間取りましたよ。」
「申し訳ないですわ。やっぱり私ではシンさんのようには行きませんでしたわ。」
良かった。これで全員無事合流だ。
しかし、クリスさんの範囲魔法なら瞬殺では?
あ~、俺達と同じやり方をしていた訳か。タカピさんを鍛えながら、クリスさんも練習していたと見るべきだろう。
「いや、丁度いいタイミングかと。」
俺が正面を指さす。
「せやな。ほな、わいとローズちゃんが引き付ける! 後はいつも通りや!」
「了解っす!」
「任せて!」
「これは暴れ甲斐がありそうですね~。」
「かしこまりましたわ。」
「じゃ、行くか!」
皆が一斉に迎撃に走る!
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「クリス、やっぱりお前にあのアイテムは反則やったな。」
「あらあら、申し訳ありませんわ。でも、いい感じに固まっていた敵が悪いのですわ。」
まあ、これはあの神器クエストで分かっていたことだが、彼女の範囲魔法による連続詠唱の威力は、凄まじいの一言であった。ほぼクリスさん一人で倒したな。
俺は最初に前衛にバフを与えて、後はすること無し。
お代わりが2度来たが、これも同様。
途中、前衛4人は、運良く範囲魔法に引っかからなかった奴を相手にしただけ。
それでも、彼等は最後の敵ボス、今川義元をフルボッコにできただけでもマシと見るべきか?
う~ん、やっぱ俺、要らなくね?
「で、あれ? これで終わりじゃないのか?」
「え? サモン、あたいらの時はこれでクリアだったっすよね?」
「そうやったはずやけど・・・。お、これは期待が持てるで! パターンが変わりおった!」
「シン! あっちよ! まだ増援が来るわ!」
カオリンが指した先、横道からまた敵の集団が来た!
「おっしゃ! 30人くらいか? クリス、お前はどうせMP切れやろ。少しはわいらにも遊ばせ!」
「あらあら、仕方ありませんわね。皆さん、宜しくですわ。」
先程の戦闘で、ストレスが溜まっていたと見え、前衛4人はその集団に突進する!
後は簡単だった。
これも2回おかわりが来たが、サモンも範囲魔法を使うという、鬼のような事はしなかったので、俺も4人に交互にダブルアタックを唱えた結果、これも瞬殺だ。
「やりましたよ! コンプリートです!」
「おお~! しかし、割と簡単だったな。何で誰もコンプしていなかったんだろ? あ! カオリンの助言か!」
「どうやらそのようね。シン! もっと褒めていいわよ~。」
「サモン、エンドレスナイトの籍、抜いてもいいっすか?」
「サモンちゃん、私も少し考えてしまいますわ。」
「わい・・・、嬉しいんやけど、なんか嬉しないわ~!」
そして、俺達が城の前に出現した扉を開けようとすると、後ろから声をかけられる。
ん? NPCか。鎧は着ているが、なんか、やたら小さい奴だな。
「拙者、木下藤吉郎と申します! 先程の戦闘を拝見したでござる。殿のお名前を残したいのですが、如何でござろうか?」
あ~、また名前が載る訳ね。
「ああ、構わない。」
「ありがたき幸せ! では、これからは殿に忠誠を尽くしたい故、是非お見知りおきを!」
NPCはそれで去って行ったので、俺達は笑顔で扉をくぐる。
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
俺達はギルドルームに戻り、いつも通りに祝勝会をする。
しかし、カオリン一人、首を捻っている。
「ん? カオリンどうした? 君のおかげでコンプできたんだし、今日の報酬アイテムはカオリンのつもりだぞ。」
「あ、ごめんなさい。でも、おかしいのよ。」
「ん? 何がおかしいんだ?」
「いえね、秀吉はあの時点ではまだ信長には仕えていなかったはずなのよ。彼はこの年に今川配下の武将に仕えるはずなのよ。まあいいわ。それでシン、何貰えたの? 早く見せて!」
ふむ、何か良く分らんが、問題はなかろう。
カオリンのリクエスト通り、俺は一振りの日本刀をテーブルに置く。
名前は『義元左文字』。
「これ、攻撃力は200なんで、かなりいいぞ! しかも、面白い事に、特殊効果が2個あって、両方???になっている。どういう仕組みだろ?」
「お! やっぱりか! わいらの時は『三好左文字』やったな。なるほど、攻撃力は一緒やけど、空きが1個増えて二つか。これはシンさん凄いで。やり方次第やけど、最強になるな。」
「そうっすね。現時点の最強の剣は『髭切の太刀』の、攻撃力240っすからね。」
「え! そうなの?! でも、その空き2個って?」
「あ、それはカオリンちゃん、一覧から、自分の好きな効果を選べますわ。でも、一度付けたら変更はできないから、皆悩むのですわ。」
「へ~、そんな武器もあるんですね~。確かににそれは悩みますね~。」
ふむ、これは後々の事を考えて選択しないといけないから、嬉しい悩みになるのは間違いないな。
「で、皆もカオリンでいいかな? 何処の手順が鍵だったのかは分からないが、今回は間違いなくカオリンの功績だと思う。」
「「「「異議な~し!」」」」
「皆、ありがとう! 嬉しいわ! これは今晩寝られないわね。」
カオリンは喜々として刀に手を伸ばす。
うん、カオリンがナイトで丁度良かった。
皆も笑顔だしな。




