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VRファントム  作者: BrokenWing
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デフラグ

         デフラグ



「二人共、お疲れ様。」

「うん、カオリンもお疲れ様。」

「カオリン、どうもっす!」


 ふむ、もう6時か。

 カオリンの授業が終わり、ローズは立ち上がって頭を下げる。


「ローズちゃんは気にしなくていいのよ。それよりも問題はシンね。貴方、現時点では、間違いなくローズちゃん以下ね。はっきり言って小学生レベル! ローズちゃんも考え直すなら今のうちよ。あたしも心配になってきたわ。」


 ぐは!

 俺の記憶の抜け落ちは、深刻な域に達しているようだ。

 まあ、この世界では、歴史や地理なんてあまり関係ないが。

 ただ、前回の歴史物イベントのような場合は、ハンデになりそうだ。


「じゃあ、あたしは一旦落ちるわね。また晩に来るわ。」

「了解っす。あたいも少し疲れたっす。ちょっと落ちるっす。」

「うん、お疲れ様~。」



 二人が消えると、いきなり頭に声が響く。

 ふむ、このパターンは新庄か。


「シンさん、今いいですか?」

「あ~、構わないのですが、一応手順通りにお願いします。いきなりはかなり焦りますので。それで、何か分かったんですか?!」


 新庄から直接のパターンは珍しいし、今日丸一日で、何か成果があったのかもしれない。

 俺は期待に胸を膨らませた。


「す、すみません! 分かったのは分かったのですが、進展としてはあまり無いですね。」


 あら。やはりそう旨い話はないか。

 俺ががっくりしていると、新庄が続ける。


「これから私が話す事は、シンさんにとって、あまりいい話ではないかもしれません。ただ、間違いなくシンさんの存在に関わりますので。」

「やはりですか。詳しくお願いします。」


 新庄の話は、俺のPCのメモリー容量に関してだった。

 どうやら、俺がこの世界で経験した事、ゲームのステータスとかの情報以外は全て俺のPCに保存されていくらしい。

 そして、現在俺のPCのメモリーの使用率は85%。一日に、約1%ずつ増えて行っている計算だ。つまり、このままだと、俺のPCは後2週間でパンクする。

 悠長に勉強なんぞして、記憶容量を使い過ぎたかと思ったが、あれはあまり関係ないらしい。

 俺の場合、24時間起きていて、その間、外部からの情報が入るか、自分で何某か思考している。それが全て記憶として残ってしまうそうだ。

 ふむ、確かに教科書一冊を丸暗記したとしても、1ギガもないはずだ。


「う~ん、記憶を増やさない為には、無の境地にでもならない限り無理そうですね。ですが、それに関しては松井さんも言っていましたが、危険は伴うかもしれないけど、メモリーを増設するという話では?」

「はい、ですが、電源を切らずに直接メモリーの増設をするのは不可能です。」


 ふむ、それは俺も思っていた。


「では、外部メモリー、例えばPCを並列させるとかでは? それなら電源は切らずに済むのでは?」

「流石に別のPCを繋げるのは危険すぎると、許可が下りませんでした。なので、外部メモリーだけを増設したいのです。」


 やはりか。これも俺の考えと同じだ。大容量のUSBメモリーを繋げるという手だ。ただ、PC本体に直接ではないので、処理速度とか、多少の不具合はありそうだが。


「分かりました。確かにそれなら安全そうです。それで、今からその処理をするという事ですか?」

「はい、でも、その前に試したい事がありまして。」


 ん? 何だろう?

 しかし、試したいって。まあ、モルモットだから仕方ないか。


「それはシンさんのPCのデフラグ、最適化処理です。人間は寝ている間に記憶を整理しますが、今のシンさんにはそれが無い。つまり、情報が未整理のまま、どんどん放り込まれている状態です。もっとも、シンさんが思考する際に、多少の整理は行われているようですが、効率も悪いし、容量もかなり余分に食うと考えられます。ですが、これなら、少ない危険性でメモリーの空きも増えるはずです。シンさんの処理速度も上がるかと。」


 ぶっ!

 俺の処理速度って。

 こいつが俺に対してどう思っているかが理解できたな。


「分かりました。どうせ俺が反対しても、そっちで勝手にされたら無意味な訳で。報告してくれてありがとうございます。」


 あ。少し、嫌味が入ったか?

 まあ、これくらいは言っても構わないだろう。


「それはそうなんですが、上からも必ず説明してからにしろと言われています。私としても、もし失敗した時に化けて出られると嫌ですし。では、始めてもいいですか?」


 う~ん、これ以上化けようが無いと思うが、まあいい。

 考えてみれば、新庄は俺の着けていたBAを装着するとか、かなり無謀なことまでやってくれている。

 なら、感謝こそすれ、愚痴るのは筋違いか。


「失敗しても恨みませんよ。はい、お願いします。」



 俺の頭の中で、無数の光の筋が走り出す!

 そして、様々な状景が走馬灯のように駆け巡る。

 ふむ、臨死体験というか、夢を見ている感覚か?

 俺は極力何も考えないようにする。

 途中、何度も完全な無。漆黒の場面もあったが、処理の過程で発生した現象だろう。


「終わりました! シンさん、楽にして下さい。」

「ふむ、成功のようですね。特に違和感も無いですし、何か清々しい気分です。」

「それなら良かったです! ついでに、外部メモリーに、全く使っていない記憶を移しておきました。おかげで、メモリーの使用率は50%を切りましたよ。」


 ぐは!

 こいつ、今回はデフラグだけって話じゃなかったんかい!

 まあ、成功したならいいか?

 しかし、なんか、どんどん自分がAI化しているような気がする。


 新庄の用はこれだけだったようで、コールを切った。


 そこで、時間を確かめると、何ともう8時だ!

 自分としては、それ程時間が経過した感覚は無かったのだが、2時間くらいかかっていたようだ。

 まさに、夢を見ていたというか、寝ていたのかもしれない。



 TVを見ていると、タカピさんが来た。


「今晩は、タカピさん。今日は早いですね。」

「シン君、今晩は。はい、さっきまでシン君のデフラグ処理を見ていましたから、今日はNGMLからダイブですよ。とにかく成功して良かった。」


 うわ! タカピさん、今まで付き合ってくれていたんだ。

 俺が頭を下げると、タカピさんは続ける。


「それはいいのですが、問題はローズ君です。僕も色々、医師として聞かされましたよ。結果、彼女は近いうちにNGMLの医療施設に転院するそうです。親御さんの許可も既に取れているようですね~。」

「え! それって、もし俺が生き返れたら、彼女を手術するってことですか?!」

「連中はどうやらそのようです。僕としても、それで彼女が治るのなら、とも思うのですが、やはり実験動物的な扱いになるのは否めない。NGMLは元々そういう事をする為の機関なので、当然と言えば当然なのですが、何とも複雑な心境ですね。」

「そうですね。しかし、俺の事がローズにまで影響するとは思いませんでした。なんか俺、責任重大では?」

「あはは、シン君が気にする必要は無いでしょう。これは医師の分野です。僕も協力しますしね。」

「どうもありがとうございます。ところで、ローズはタカピさんの事を知っているのですか?」

「まだ知らされてはいないみたいですね。まあ、必要になれば僕から直接しましょう。」


 すると、ローズが帰って来た。

 噂をすればか?


「ローズお帰り。」

「シンさん、只今っす。タカピさん、今晩はっす。それで、タカピさんは出るっすか?」

「ローズ君、今晩は。うん、僕も皆が出たいなら異存ないですね~。PVPですか。僕は初めてなので、結構楽しみですよ。」


 更に、サモンとクリスさん、そしてカオリンが続けて入って来た。

 挨拶を済ますと、早速サモンが、大会に登録しに行こうと言い出した。


「それはいいのだが、サモンさん、姉貴はどうする? 登録するには全員で行かないといけないのでは?」

「あ~、せやった! シンさん、連絡取れへんかな?」

「ふわ~。まだ眠いわ~。そして、その必要は無いわね! カオリンちゃんと、クリスさん、初めまして。あ、一応タカピさんもね。IDはトリエステ。う~ん、『エステ』でいいわ。私はアラ・・いえ、そこのシンのリアル姉です。宜しくね。」


 ふむ、呼ばれて飛び出て・・・、いや、何でも無い。

 姉貴の神出鬼没性は健在のようだ。何事も無かったように、俺の隣に腰掛ける。

 しかし、皆はかなりびびったようだ。

 俺以外、目を丸くしている。


 姉貴は初期のジャージアバ。

 顔は普通の丸顔美少女系統で銀髪ロング。

 そこまではいいのだが、そのサイズは何だ? でかすぎだろ!

 150cmくらいの身長の、ほぼ1/3が顔である。

 俺からするとかなり不気味だが、その手の変態には受けるかもな。


「お義姉様、今朝はどうもっす! ところでそのアバ、初めて見るっすね。ガチャっすか?」


 早速ローズが突っ込む。


「あ~、これ、リリーズ当初はガチャの景品だったらしいけど、実際の身体とあまりにも差がありすぎるってことで、今は没アイテムらしいわね。私はモニターがてらの試着ね。」


 なるほど、納得だ。

 しかしこれ、目立つだろうな~。

 外に出たら間違いなく声かけられるぞ。


「うん、聞いています。僕はタカピ。エステさんにはリアルでもお会いしましたね。こちらこそ宜しくお願いします。あの時は力及ばず申し訳ない。」

「いえ、せん・・、こちらこそ、愚弟が大変お世話になっています。」


 ふむ、この二人は俺が死んだ時の事を言っているのだろう。

 俺も思わず頭を下げる。


「え? シンのお姉さんってことは・・・、あ、済みません。ここでは初めてですね。カオリンです。宜しくお願いします。」

「カオリンちゃんもごめんね~。貴女にも本当にお世話になっているわね。アラちゃん! あなたも頭を下げなさい!」


 姉貴は俺の頭を押さえつける。

 しかも、アラちゃんって。

 何故こうなる?


「クリスタルメアと申しますわ。クリスと呼んで下さいですわ。エステさん、宜しくですわ。」

「わ、わいはサモンです! 姐さん、今回はよろしゅう。あ、握手は遠慮しときますわ。あ、あれ、かなり効きましたで!」


 何故か姉貴は、サモンにだけは立ち上がって手を差し出す。

 サモンは反射的に握りそうになった手を、マッハで引っ込めている。

 ふむ、ある意味、サモンの方が本当のモルモットのようだ。

 幽霊の俺に痛覚があるかどうかはわからんが、俺も姉貴には触れないようにしよう。



 自己紹介が終わったので、早速サモンが皆を連れて登録しに行った。

 皆、すぐに帰ってきたのだが、姉貴は落ちたようだ。

 聞くと、二度寝するとの事だ。

 ふむ、大方、新庄に叩き起こされたってところか?

 また、登録会場で、何人か頭を押さえる人が居たと、タカピさんが心配そうに話すが、理由が分かるだけに何ともな~。


「それで、サモンさん、日時はどうなった?」

「あ~、それはやな、明日の晩9時から闘技場No.5、勝ったら10時からNo.3や。その後は未定でメールがあるらしいわ。一応、土曜まで、全員この時間でOKやって言うたら、そないなった。日曜の決勝は、わいらのクラスは8時からや。」


 ふむ、やっつけ仕事感がありありだな。

 まあ、殆ど何の準備も無く、メイガスを探す為だけのイベントだ。

 ぶっちゃけ、初戦のログさえ取れれば、後はどうでもいいのだろう。


「分かった、俺は、今回は応援に回るよ。うん、優勝できるといいな。」

「シン、なんか悪いわね。当然、出るからには優勝よ! サモン、策はあるの?」

「う~ん、カオリンちゃん、ある言うたらあるし、無い言うたら無いわ。相手さんもあるし、はっきし言うて、出たとこ勝負やな。」

「まあ、そうだろうな。それでサモンさん、試合まで、レベルは上げていいのか?」

「それはやな、わいらの今の合計レベルは457。平均レベル70台のクラスやねんけど、先を考えて、80台で登録してきた。70台やと、合計レベルが480以上になったら失格やからな。かなり余裕あるけど、丁度ええハンデや。姐さんは、大会にしか出えへんて言いはったしな。」


 ふむ、現状俺のレベルが61、カオリンが51、タカピさんが47。エンドレスナイト組は全員99だ。

 しかし、このレベル99が3人居るおかげで、クエストに行けば、パワーレベリング状態である。なので、この二人のレベルが、合計で後23上がる可能性は高いと見ていいだろう。


 その後、八岐大蛇クエストの為にも、もう少しレベルを上げようと言う事になり、俺達は『尾張の街』に飛ぶ。


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