ローズの可能性
ローズの可能性
「それで岡田先生、どうですか? 彼女は治りますか?」
目の前には、例のエルフアバターが一人居る。
俺はギルドルームに戻り、すぐに松井にコールをした。
すると、松井は、自分は医療に関しては専門では無いと言い、この岡田医療研究部長を紹介してくれた。肩書からするに、この会社で最も権威ある医者と言ったところか?
「ふむ、私も彼女の病気に関しては興味を持っている。彼女のカルテも拝見させて貰った事がある。だが、残念ながら、今のままでは無理だな。」
「ん? 今のままでは?」
「そう、今の技術ではな。彼女の病気は脳幹、それも深部に異常が見られる。しかも、患部を焼き切るとかでは治らない。なので、手術は不可能。生きた人間のそんなところをいじれば、どうなるかは分かるだろう。」
「は、はあ。」
ここでも無理か。
NGMLは現在、この国では最高水準の医療機関のはずだ。
これは、下手にローズに、NGMLの技術なら可能性があるかもしれないと言わなくて良かった。
しかし、これは残念だ。
もし、彼女と付き合ったとしても、どちらかが先に死ぬまでのたった数年間。
しかも、VR内だけでの関係かもしれない。
俺が頭を下げようとすると、岡田先生は続ける。
「だから言っただろう。今のままではと。」
「え?」
「我々はその可能性を手に入れた。意味は分かるよね?」
「お、俺ですか?」
「そう、君だ! 君の肉体は現在死んでいる。だが、精神というか、意思はまだ死んではいない。そして、もし君が肉体に戻る事に成功すれば、その技術を応用できる!」
「あ、分かりました! 先生は、死んでいる状態なら手術は可能だと?!」
「そうだ! だから、現在君の研究を最優先にしている。なので、現時点では、彼女の病気に関して、君次第かもな。」
「分かりました。ありがとうございます!」
「うん、私も直接君と話せて良かった。データでは証明されていたが、やはり君はAIでは無いな。AIには恋愛感情なんて持てないはずだ。だから、くれぐれも変な気は起こさないでくれよ。では、失礼する。」
うわ、ここでも釘を刺されてしまった。しかも全部ばれてるし。
とにかく、忙しい中、時間を割いてくれただけでも感謝だな。
うん、ローズにも可能性はある!
岡田先生が消えた後、俺は考える。
ローズにこの事を言ってもいいのだろうか?
言えば彼女は希望を持つだろう。しかし、ハードルは高い。
先ず俺が生き返ることに成功し、完全な原因の解明。そして、俺のような状態になっても、確実に生き返らせる事が証明でき、その後、やっと彼女の番だ。
更に、彼女には手術そのものが成功しなければならない。
う~ん、考えてみただけでも凄い工程だ。
彼女の余命に間に合うかどうかの保証なんて全く無い。
俺が悩んでいると、カオリンが来た。
「カオリン、今日は。今日は早いじゃないか? まだ4時前だぞ?」
「今日は、シン。ええ、今日の授業はもう無いわ。それで、今からアルバイトよ。」
「へ? バイト? じゃ、こんなとこ居ていいのか?」
「ええ、ここでバイトよ。ローズちゃんはまだかしら?」
は? さっぱり訳が分らん。
「ローズはエンドレスナイトに顔を出している。そろそろ帰ってくるはずだが。しかし、ここでバイトって?」
「あら、シンは聞いていないの? 今朝、貴方のお姉さんからメールがあったわ。ローズちゃんに歴史と地理を教えて欲しいって。教科書はそこのモニターにダウンロードされているそうだけど、あたしで大丈夫かしら? 民俗学とかも取っているから、歴史とかには自信あるけど。」
ぐは!
姉貴の、義妹への教育対策は完全なようだ。
もっとも、今のままじゃ、結婚なんて夢のまた夢だが。
まあ、姉貴としては、今のローズを放っておけなかったのだろう。
せめて人並みの教育を受けさせてあげたいのは、俺も一緒だしな。
「ふむ、聞いてはいないが、理解はできた。で、そのバイト料、誰が払うんだ?」
「え? シンが払うって聞いているわよ。貴方のIDからって。時給は格安の1000円だけど、シンが出すんじゃ仕方無いわね。」
ぬお! そこは言っておいて欲しい!
まあ、現状使い道の無い金だ。ガチャとかでNGMLに吸い取られるくらいなら、こっちの方が遥かにマシだな。
しかし、あの金にはそういう意味もあったとは!
「チッ! 姉貴め! まあそれはいい。しかし、カオリン、そ、その、いいのか?」
「ええ、あたしは問題ないわよ。だからシン! 貴方、絶対に生き返りなさいね! でないと許さないわよ!」
う~ん、生き返れなければ、それは即ち消滅というか、死な訳で。
そこで許さないと言われてもな~。
それに、そもそも何故俺がカオリンに怒られるのかの意味が解らん。
「まあ、それに関してはNGMLの方も本気なようなので、期待するしかないな。」
「そうね。だから、あたしもできる限り協力・・・って、え? シン、何その称号?!」
「へ? 称号? 俺は昨日からいじっていないけど?」
俺は慌ててステータスを確認する。
「何じゃこりゃ~っ! 『ローズバトラーの恋人』って! そうか! あのクエストか! しかし、いじってないのに何故?」
「ふ~ん、シン、良かったわね。ローズちゃんの恋人になったんだ。ふ~ん、付き合う事にしたんだ。じゃあ、あたしはお邪魔かしら?」
「い、いや、色々あったがまだ保留だ! しかしこの称号、外せないな? 外しても、数秒で自動的に装備される。バグか?」
そこへローズが帰って来た。
「只今っす。あ、カオリン今日はっす。」
「ローズ! 呑気に挨拶してるんじゃねぇ~っ! 何、この称号? 外せないぞ! って、お前もか!」
そう、ローズの称号は、『シンの恋人』と表示されている!
「えへへ。これ、いいっしょ。この称号、二人が同時に外さないと外せないっす。また、片方が装備すると、相手にも自動的に装備されるっす。」
ぐは! 浮気防止対策か?
「とにかく外してくれ! これじゃ呪いだ!」
「え~、効果はかなりいいっすよ。全ステータス15%アップっす! 二人が同一パーティーでないと意味ないっすけど。」
「い、いや、効果はともかく、これじゃ外に出られん。って、これ、ひょっとしてさっきからずっとか?」
「そうっすね。あたいはクエスト終わって、すぐに着けたっすから。」
そら、岡田先生にも言われる訳だ。
すると、ローズは少し頬を染め、上目遣いになる。
「は、外して欲しければ、私と付き合って下さい! あ、あの時の続きを!」
「アホ! そんな脅迫をする奴と付き合えるか! そもそも順序が逆だろ!」
あ、これは言い過ぎたか? ローズが涙目になる。
しかし、これは効果があったようで、彼女の称号が、元の『神の試練に耐えし者』に戻る。
俺も慌てて称号を付け直す。
そして、一難去ってまた一難、今度はカオリンだ!
「ふ~ん、やっぱりあたしはお邪魔のようね。でも、何の続きかは聞いておきたいわね。」
「それに関してはノーコメントだ。ま、まあ色々あって。」
「へ~、シンは答えられないんだ~。それじゃ、ローズちゃん、その色々って?」
「はい! 私はシンさんにキスして貰いました! その結果が、さっきの称号です!」
ぶっ!
しかも、ローズの奴、さっきの涙目は何処へやら。
胸を張って答えやがった!
「ち、違う! あれは、クエストを達成する為に止むを得ずだ! 俺からでは断じて無い!」
「ふ~ん、まあ、そういう事にしておくわ。」
カオリンは大きくため息をつく。
あ。これって、俺、呆れられたのか?
何も悪い事をしたつもりはないのだが。
少し傷つくな。
その後は結局カオリンの授業に付き合わされる。
ローズもあの後、メールが入っていたようで、大人しく授業を受けていた。
俺は必要無いはずなので、逃げようとしたのだが、あっさり二人に阻止されてしまう。
「シン! 貴方の抜け落ちた記憶こそ心配だわ!」
「シンさん、あたいと一緒の時以外は、あの称号に替えるっす!」
だそうだ。
俺のPCのメモリー容量、大丈夫か?




