火事
隣の家で火事がおきた。
第一発見者は自分だった。なにか煙くさい。周囲を見回していたら、隣の家からもくもくと煙があがっていた。
最初は、それがなにかはわからなかった。火は見えないし、ただ煙だけが窓から吹き出している。
わたしはそれをただ、ボーッとみていた。黒い煙が高々と空へとむかっていく。火はまだ、見えない。ただ、黒いものがそこにはあった。
煙くさい原因が、それだとわかるまでに1分くらいかかったと思う。その間、私の思考は、煙に奪われてしまった。それは、時間としては短い時間だったが、わたしのなかでは、永遠とも思えた時間だった。
窓が突然、割れる音がした。すべてが現実にもどった音だった。
そして、すべてがつながった。火事だ。隣の家だ。煙じゃない。火事なんだ。
「ねぇ、なんか燃えてるよ」わたしは大声で家族に呼びかけた。
壁が激しく燃えていた。
あの火事から数年が経過した。わたしはそれ以来、あの不思議な時間と出会うことはなかった。でも、あの事件以前、以後で自分のなかになにか違和感が残り続けている。
あの永遠の時間に、自分の半身が閉じ込められてしまったかのような違和感が……。