表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
更生ダンジョンプログラム 課金……してください……お願いします……――  作者: 西山東村山
第一章 課金……してください……お願いします……――
8/15

八節 征く者、留まる者、その確執

 バーテンダー幼女とすったもんだやりあった後のことだ。

 俺は当初の予定通り、会議中であるらしい食堂へと移動した。


 中では、なるほど議論の真っ最中であるらしく、扉を挟んだ廊下まで怒号が漏れ聞こえていた。


 嫌だなー入りたくないなー。


 俺はソロ~っと扉を開けて中の様子を覗う。室内は思った通り、しっちゃかめっちゃかの様相を呈していた。


「ここから出るにはダンジョを踏破せねばならん。なぜこんな簡単なことがわからんのだ!」


 あれは医者のおっさんだったか。テーブルに拳を叩きつけて怒鳴っている。


「だから男だけでやってって言ってるでしょ! 女子を巻き込まないでよ!」


 かと思えば金切り声を上げるおばちゃんがヒステリックに叫ぶ。


「それは分かったと言っている! ならばせめて金を出せ! そういう話だ!」

「ふざけないで! 食べていくのだってお金はいるのよ!

 男はいっつもそう! 勝手な事ばっかり言って! 女の苦労なんて知ったことじゃないんだわ!」


 ……


 回れ右しようか迷っていると、平賀さんと目が合ってしまった。

 地獄に仏とでも言いたげな顔をされた。


「皆さんちょっと、藤崎君が来ましたよ。ちょっと落ち着いて。ね? ほら藤崎君、こっちこっち」


 逃げる間もなく手招きされる。

 俺は諦めて空いている席に着く。


「や、ホントによかったよ。蘇りなんていうのがあって。体は大丈夫なんだよね?」


 アンリから話は通っているようで、死人が現れた衝撃は見られない。

 それでも好奇な目で見られはしたが。まあしょうがないね。


「ダンジョに行くか行かないかの話ですか?」

「え、い、いや、それは皆でがんばっていこうっていう事でね。ただ……うん」


 言いにくそうに頭を掻く。


「各人の貢献の仕方をどうするか、という話だ」


 見かねた石原さんが助け舟を出した。


「体力に自信のある者には潜ってもらいたい。強制はできんが、これは概ね了承してもらった。しかしな……」石原さんは腕組みをして眉をひそめる。「ショップを見てきたのだろう? 価格設定を見てどう思った?」


「高い……というか、手持ちが足りない印象です」


 そう答えると、石原さんは重苦しく頷いた。


「我々は君が『寝込んで』いる間に事の経緯を聞いた。ダンジョンには恐ろしいモンスターが潜んでいるのだろう? であれば、モンスターの闊歩するダンジョンを攻略するには、しっかりとした装備が必要だ。

 そして装備を整えるには相応の対価もまた必要。しかし我々個々人の資金で調達するのは難しいため、攻略組に対して待機組は所持金の一部を拠出すべきではないか、という意見と――」

「嫌よ! あるだけでやりくりしなさいよ! こっちだってねえ、色々と入用なのは同じじゃない!」


 ご覧の有り様だ、とでも言いたげな石原さん。周りの反応もヒステリックおばさんに呆れている者が多いけれど。

 一方で、居心地悪そうに沈黙する者も確かにいる。

 なるほど、と思う。

 おばさんは暴れているから目立っているが、つまり、おばさんに同調する者も確かに一定数いるようだ。金も体も出さないけどダンジョンは攻略しろ、という者。真意は不明だが、確かにそういった者はいる。決しておばさん一人がわがままを言っているわけではなさそうだ。

 彼らを身勝手だと糾弾するのは酷だろう。不安なのは誰だって同じだ。所持金が少なく、体力に自信のない人だっているのだろう。彼らには彼らの事情がある。

 かといって甘い顔をしていられる余裕もなし、と。


 ……うん、これは確かに面倒だぞ。


「一度攻略が軌道に乗れば、待機組からの支援は必要ないような気がしますけど」


 と言うと、平賀さんは困ったように一度唸った。


「それは、モンスターを倒して資金を稼ぐっていうことかな?」


 平賀さんはそう言って翔琉クンに視線を移す。その翔琉クンはヘラヘラ笑って、


「やっぱあれっしょ? ダンジョンでモンスターっつったら、金とか換金アイテムドロップするって思うっしょ? ゲーマーの基本、つか現代っ子の常識的な? ワカルー」


 デスヨネー。

 うっわまじか。俺ってば翔琉クンと同レベルなん? ちょっとショックだ。


「……一度、試してみたほうがいいのかな」


 ボソッとした呟きに、みんなの視線が一斉に集まる。

 今のは誰だ? 桃木坂だ!


 当の本人はビクッとしてデカい体を精一杯縮こませると、顔を伏せて黙ってしまった。


「そう……だね。うん、ここであれこれ考えるより、実際に動いて確かめよう。幸い、死んでも何とかなるのは分かっているし。

 あ、いや……すまない藤崎君。無神経だった」


 平賀さん、別に気にしちゃいませんよ。

 というかあれだ、一度死んだ者として言わせてもらうなら。


「実験するとして、ダンジョンに潜る人選はどうなりますか?」

「そうだね……有志になる、のかな」


 では一つ、生き返りの先輩として助言をば。


「体力のあるなしよりも、自分の死に無頓着というか、生き返りを受け入れられるかどうかで判断してください。

 自己の同一性に疑問を感じるような人には、ちょっと生き返りはお勧めできません」


 俺は皆に向けてそう言った。

 幸い俺は受け入れられたけども。人によっては抵抗感があると思うのだ。

 いわゆる『死と再生』ってのは。

次回からやっとダンジョン探索です。ここまで長かった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ