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更生ダンジョンプログラム 課金……してください……お願いします……――  作者: 西山東村山
第一章 課金……してください……お願いします……――
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六節 君の名字は……

 さて回想終了なわけだけども。

 天使に首チョンパされた俺が生きてるのはなぜだろう。

 ここは最初に目が覚めた部屋だろうか。クローゼットの開け具合に覚えがある。

 あの90度直角一直線の角度を一発で引いたのは芸術だと思うのだ。


< 復ッ活ッ さんから 500G が課金されました >

< ヤンキールートクルー さんから 1G が課金されました >

< シンジ さんから 100G が課金されました >

< 男気見せたな さんから 1000G が課金されました >

……


< 所持金 8660G >


 なんだか久しぶりに見た気がする。

 部屋を出てからずっと沈黙を続けていた課金通知が視界を埋める。

 今度は一回ごとの額が大きい。だいたいが三桁、四桁もちらほらと。貨幣価値が分からないので何とも言えないが、最後に確認した時は、たしか200前後だったかな?

 そうすると、今は40倍以上に膨れ上がっているのか。

 えらいこっちゃ。俺の株がストップ高!

 所持金ってことは、俺が自由に使ってもいいんだよな?

 使うぞ? 豪遊しちゃうぞ? どうせショップでしょ? エロ本とティッシュ置いてあるかな。


 そうしてウィンドウを全消ししたのと同時に、扉が勢いよく開かれた。


 銀の髪に人形じみた瞳。

 いつぶりだ。死んだぶりだ。アンリだ。

 肩で息をしている。何があったのか尋ねようと体を起こそうとすると、慌ててベッド脇まで走ってきて身体を支えられた。


「ああよかった。本当に生き返ったのね。大丈夫? 何かおかしなところはない?」


 顔を覗き込まれる。

 綺麗だ。相当な美人なのは間違いない。けど目が。目が無機質で怖い。いい匂いがするとか、柔らかくてドキドキするとか、そういう一切を吹き飛ばすくらい怖い。

 有体に言って、俺は彼女が苦手なのだ。


 苦手意識を隠すため努めて事務的に無事を伝えると、彼女はホッと息を吐いた。よかった、と一言漏らすその声音が今にも泣き出しそうで。なんだかこっちまで泣きそうになる。


「何があったんだ?」


 死んだはずだ。首が飛んだ。間違いなく。

 首に走った熱を覚えている。

 回転する視界を覚えている。

 死の実感が、胸にある。


「復活チケットを使ったのよ。復活チケットっていうのはショップで売られているアイテムなのだけれど、あの後、だから次の日にショップが開店して、私、あなたを助けなきゃと思って。助けてくれたでしょう? それで――」

「オーケー、ちょっと落ち着け。ブレイクダウン」


 見た目では分からないが、アンリは随分と混乱しているようだ。無表情のままでチグハグな話をされていると、エラーを起こしたロボットを見ているようで落ち着かない。

 俺は彼女に座るよう促す。

 アンリは一言謝って体を離した。


「天使にぶった切られたところまでは覚えてる。あの後、二人は無事に戻れたのか?」

「ええ。あなたのおかげ。私も、あの男の子も。あなたのおかげで、今もこうしてここにいる。感謝してもしきれないわ」


 ありがとう、とアンリは頭を下げた。


「よしてくれ。察するに、その復活チケットってのを使えば生き返りができるんだろ?

 命を買い戻せるってのはちょっと信じられないけど、まあ今更か。ともかく気軽に生き返れるなら、俺のやったことはそんなに大層なことじゃないさ」

「それは今だから言える事よ。命を落としてもやり直しができるだなんて、あの時は想像もしていなかったでしょう?」


 そりゃそうだ。分かってれば、あんなびくびくしてなかったな。

 ってそんなわけあるか。生き返りがあろうとなかろうと死ぬのは御免だ。感情的にも倫理的にも。あと哲学的にも。

 まあこんな状況だ。今更何が起こったって驚きゃしない。死人だって蘇るだろうさ。現代っ子の適応力をなめんなよ?


「今日の日付は分かる? あの日の翌日、つまり今日ね。ショップが開いていたの。

色々なものが売っていたわ。日用品から、中にはちょっと信じられないようなものまで。

その『信じられないもの』の一つが、死者を呼び戻す復活チケット」

「ああ、なるほど。それを買ったんだな。

 あ、それならあのヤクザなあんちゃんも戻ってこれるんじゃないか?」


 チュートリアルのやられ役の男のことを思い出す。けれど、アンリは首を振った。


「あの子――バーテンダーの子が言っていたわ。所持金が0になった人は生き返らないそうよ」


 ほう。制限があるのか。

 いや当然か。スーツ幼女はコロシアエーをご所望のようだし、無制限のリトライを認めればグダグダだよな。

 しかしそうなると……


「死のペナルティって何か聞いてるか?」


 所持金が減るだとか、アイテムロストとか。死にゲー復活のお約束だと思ったのだが、アンリはいいえ、と言った。


「私も――私たちも知りたいくらいなの。

 だから藤崎君、何か変わったところがあれば教えてほしい」


 教えてほしいって言われてもな。

 身体はいたって健康だし、所持金は減るどころか増えている。そう伝えると、アンリは黙りこくってしまった。

 口を閉じると本当に人形のようだった。

 何かを考えこんでいるようにも見えるし、ただぼんやりとしているだけのようにも見える。


 居心地が悪い。沈黙に耐えられなくなった俺は、


「チケットって幾らしたんだ? 返すよ」


 と言った。


「受け取れないわ。わかるでしょう?」

「そう言われても困る。わかってくれ」


 アンリは申し出を断ったが、それだと俺が納得できない。

 アンリが死に対して負い目を感じているのは理解できる。逆の立場なら俺だって受け取らない。

 しかし、それはそれ、これはこれだ。

 ただでさえ命を金で買われるというのはいい気分がしない。せめて自分の命は自分で買い戻したいと、そう伝えると、渋々といった体で受け入れてくれた。


「安くはないのよ?」


 そう言って提示された額は……500G。

 正直なところ拍子抜けだ。

 昨日ならまだしも、今の俺ならダースで買える。


 しかしさて、所持金の受け渡しはどうするんだろう。思考操作でいけるのか?

 試しに所持金ウインドウを開く。

 それから、アンリに500Gを課金する、と心の中で念じてみる。すると、前と横からポップアップ音。


< アンリ・パンツ さんに 500G を課金しました >


 これは俺のウィンドウ。

 同じくアンリの前には課金通知のウィンドウが現れた。

 現れたのだが、そのウィンドウに違和感を覚えた。

 ……なんだろう。


「アンリ、ちょっと良く見せてくれないか?」


 頼んでみると、アンリはなぜか驚いているように見えた。

 表情に乏しいから確証はないけど。



< あなたに 500G が課金されました >



 やっぱりそうだ。これ、変じゃないか?

 俺の課金通知は、課金者の名前というか、ペンネームというか。そういう類のものが表示される。シンジとか、デスクとか。

 けれど、アンリの課金通知には課金者の、つまり俺の名前が表示されていない。


 試しにアンリから課金してみてくれるよう頼むと、彼女は


「藤崎君へ500G課金します」


 と言った。すると、


< 藤崎高虎 さんに 500G を課金しました >

< 所持金 1130G >

< アンリ さんから 500G が課金されました >

< 所持金 8660G >


……。

…………もう一度。課金者と被課金者を交代して。


< アンリ・パンツ さんに 500G を課金しました >

< 所持金 8160G >

< あなたに 500G が課金されました >

< 所持金 1630G >


 おわかりいただけただろうか。


 ウィンドウの情報格差とでも言おうか。

 課金する場合には差はない。相手の名前が表示される。


 課金を受ける場合、これが問題だ。

 俺には相手の名前が表示され、アンリには表示されない。

 ただそれだけのことではある。しかし些細なことだと一笑に付すには、どうにも違和感がある。アンリにも意見を聞こうと見ると、今度こそはっきりと彼女は驚愕の表情を浮かべていた。


「……信じられない」


 そう言って俺の所持金ウィンドウを指さす。


「この所持金、いったいどうやって……?」


 ってそっちかよ。


「これって多いのか?」


 比較対象がアンリの持つ1630Gだけだから、俺には額の多寡が分からない。

 彼女は首肯すると、


「私の知る限り、平均で800前後。最大でも2000程度よ。こんなの……」


 顎に手を当てて考え込みだした。

 そうしていると本当に蝋人形のようだ。

 無機質なのは見た目だけで、話してみると普通に人間味のある女の子ではある。気を抜いたら惚れちゃいそうだぞベイベー。


「なんにせよ多いに越したことはないだろ? ショップも見てみたいし、一階に下りないか?

皆にも無事を報告しないと」


「……そう、ね。ええ、皆には私から話しておくから、その間にショップを見るといいわ。

 ただ、所持金のことは伏せておいた方がいいわね」


 ん? なんで?


「少し面倒なことになっていて……いえ、口で説明するより見たほうが早いかしら」


 そう言って手を差し出された。

 意図が分からず見返すと、「行きましょう」と彼女は言う。立ち上がるのに使えという事だろうか。


 俺は何となく彼女の人となりが分かった気がした。

 さてはお前、お世話大好き人間だな?


「それじゃあパンツさん、行こうか」


 そう言って立ち上がると、アンリ・パンツさんは無表情のまま抗議した。

会話があるっていいですね。

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