五節 天使と断首だ Dansyu with our angels
突然ですが質問です。
あなたは死に際の光景を覚えていますか?
いいえと答えたあなたは帰っていいです。
はいと答えたあなた、ボクと握手しましょう。
あなたの死因は何ですか?
ボクは斬首でしたよアハハ!
ハハ……
……生きている。
首を触って確認。うん、ちゃんと付いてるね。胴体と頭がロミオとジュリエット状態だったら生きてない。
じゃあ俺は生きている。
……おかしいなあ。
たしかに俺はぶった切られてお陀仏したはずなんだが。
別館への扉を見つけて、集団は喧々囂々となった。
騒ぎの内容を要約すると、『別館に行ってみよう派』と、『様子見しよう派』の対立だ。
ここから出る方法は三つ。
バトルロイヤルするか、千億G貯めるか。そして、ダンジョンを攻略するか。
スーツ幼女の言葉を信じるならこの三つだ。
『別館に行ってみよう派』の主張はシンプルだ。
ダンジョン攻略。流石に初日からガッツリ潜ろうという腹ではなく、ちょっとどんなものか覗くだけ。大丈夫大丈夫先っぽだけだからと、こういう事だ。怖いもの見たさもあったかもしれない。
『様子見しよう派』は少し複雑で、
もっと準備してから、という慎重攻略派や、
ダンジョンなんて怖い、というリタイア派、
別の解放方法を考えるべき、という第四手段派。
口には出さないが、もしかしたら……ヤる気になっている人だっていたのかもしれない。考えたくない事だが。
いずれにせよ、派閥が出来上がってしまったのは事実だ。
考えてみれば当然の帰結といえなくもない。共通の問題に対して複数の回答手段がある中で、主義主張を異にする、本来互いに無関係の多数が団結できる道理はない。
はっきり言って不可能だ。
これまでは『状況の確認』という共通の目的があったから、ひとまず集団行動を取っていただけで。
おそらく。探索の間にも、各人の腹の中では色々な思惑が渦巻いていたのだろう。
どうあれ俺たちは割れてしまった。
行くのか、行かないのか。
俺? もちろん行かない一択よ。厳密には慎重攻略派かな。
考えてもみろ。ダンジョンってことは、洞窟の中をさ迷い歩いてお宝を探したり、ボスと死闘を演じたりするわけだ。どうせモンスターとかもモリモリ出てくるんだろ?ちょっと物見遊山で行くような場所じゃあない気がする。
……ただなー。俺の悪いとこだよな。
危険信号を発する理性よりも、ダンジョンへの好奇心が勝ってしまうのは。
別館への扉の前に残ったのは三人。
銀髪のアンリ、不良少年、一般男子高校生俺。本来はもう少しいたのだが、周囲の説得の甲斐あってこの人数になった。
心細くないといえば嘘になる。だがこの場にいる三人は、周りの意見にも流されず、己が信念を貫かんとする鉄の意志持つ勇者である!
必ずや使命を果たすであろう! 嘘ですやめたいです。
三人ってなんだよ! もっといただろ! 体育会系のあんちゃんとか! ガチムチとか!
お前らがいたから俺も乗り気になったんだぞ!
くそう……くそう……
心で涙を流しながら二人を見る。
アンリの細い腕。不良少年の目つき。
不安だ。モンスターに襲われたらどうしよう。いやどうもしない。逃げの一手だ。いやいや、そもそも
エンカウントする時点で失敗だ。ちょっと見て、さっと戻る。そんで糞して寝る。オーケー?
二言三言言葉を交わして、俺はそーっと扉を開ける。開いた隙間から覗き込む。
円形の間取りに扉が十個。扉の上にはプレートが架けられていて、それぞれに
小鬼の洞窟
獣の草原
森人の樹海
屍人の城下
海馬の船上
人食い鬼の城塞
巨人の凍土
蟲の砂漠
翼竜の山脈
天使の教会
……ダンジョンって一つじゃないのかよ!
うわー。うわー。まじかー。えー。
……どうしよう。
円室の中央で呆然とする俺。
同上のアンリ。
扉を開ける不良少年――ちょちょちょ!
何してんの!? え? 不用心って言葉知ってるかい?
「うっせえな。ビビッてんじゃねえよ。ちっと覗くだけだろ」
小馬鹿にするような口調も気にならない。こいつ、何を考えているのだろう。
……だめだ、考えても分からない。
奇行という点では、俺も人のことは言えないが。それだって、ちゃんと俺なりの『意味のある奇行』だ。気持ちを落ち着かせるためだったり、パフォーマンスだったり。
決してこんな、無意味な蛮勇を誇るような真似はしない。
たぶん。
結局、不良少年を追いかける形で突入する。
果たして扉の先は教会だった。ゴシック様式の大聖堂といった趣。尖塔アーチにステンドグラス。
埃っぽい雰囲気が荘厳だ。
固い感触を確かめるように石畳を踏み付ける。
異様に天井が高い。その、天井付近に。
「――天使だ」
頭上に光輪、背に翼を生やした人型。
ゆっくりと下降する姿が神秘的で。
――その手には剣が握られていて。
睥睨する瞳の冷たさに。
背筋に、冷たい氷が差し込まれた気がした。
咄嗟に体が動いた。理屈じゃない。熱いヤカンに触れたら、思わず手が引っ込むのと同じだ。
俺は、二人を、扉に向かって力いっぱい突き飛ばした。
――俺の首が刎ねられたのは、そのすぐ後のことだった。
会話がないと味気ないですね。
すいませんごめんなさいこれで最後です。