一節 最後に目覚めたゴミ
ベタだろうとなんだろうと、靴底にへばりつくガムが如く使い古される言い回しには、それ相応の理由がある。
人を魅了して止まない魅力がある。
なので俺も高らかに叫ぼう。
「知らない天井だ」
ぼそっと呟く。
< シンジ さんから 2G が課金されました >
< 所持金 102G >
呟いた途端、ポップアップ音とともに、見知らぬ白い天井に浮かぶ……浮かぶ、なんだこれ?
PCのシステムウィンドウ? 半透明で、天井が透けて見える。
< ゲンドウ さんから 2G が課金されました >
< リョウジ さんから 2G が課金されました >
< ゼーレのなんかしらんヒゲのおっさん好き さんから 2G が課金されました >
……
ぼんやり透け透けを見ていると、なんだかわからない怒涛の2Gラッシュ。
軽くパニックだ。状況がまるっきり俺を置いてきぼりにしている。
ていうか男キャラからしか課金? されてないんですけどヤダー。
< 所持金 194G >
やだ卑猥。
というかなんだ、一人2Gとして、47人も乗ってきたってことか。凄い数のウィンドウだ。視界一杯に広っている。
いくら半透明とはいえ、重なり合い過ぎたところは黒くなって天井が見えない。
一生このままだったらどうしよう。ノイローゼになる自信があるぞ俺は。
どうにかウィンドウを消去しようと試みる。
試しに指で弾いてみる。飛んでったぞおい。
ピンチアウト、ピンチインで拡大縮小か。直感操作はありがたい。
……というか。よく見れば、お馴染みの右上にあるじゃん。×印。
指で触って――といっても触った感触はない――ウィンドウを一つずつ消していく。
ポチポチポチっと消しながら、十個目あたりでもう飽きた。
< 猿かよwww さんから 1G が課金されました >
イラッ☆
< 思考操作は女々しい さんから 1G が課金されました >
ほう。思考操作とな?
そんじゃあ……
一斉消去。
そう念じると、視界は一斉にクリアになった。
思わず感嘆の吐息が漏れる。かがくってすげー。
……さて。
いい加減に状況を把握しようじゃないか。
ここはどこだ?
横たえていた体を起こして室内を見渡す。
自室で日課の思考実験をしたのは覚えている。たしかお題は『スワンプマンがドエロイ美女だったら』だったかな?
ここは散らかり放題の男子高校生の部屋には見えない。
ゆったりとしたベッド、上品なデスクに椅子、クローゼットに、部屋の中心にはテーブル。煌々と照らすランプが一つ。
ランプ以外全て木製だ。綺麗に艶出しが塗られていてピカピカしている。
< クローゼット さんから 1G が課金されました >
俺はクローゼットに目を向ける。うん、ふつーの物入れに見えます。中を見ろってことだろうか?
開ける。見る。見事にカラでした。
あんだよもう、おちょくってんのか?
< デスク さんから 1G が課金されました >
デスクの上にはなにもない。じゃあやっぱり引き出しの中か。
行動が指示されているようで気にくわないが、今は従っておこう。なにしろ状況が読めない。
取っ手を引くと、見た目通り滑らかに開いた。スゲー気持ちいい。
中には。
中には……なんだこれ?
↑
……
…………
え? これだけ? 矢印だけ?
え、マジで?
ダンジョン要素はまだまだ先です。