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裏野の半魚人~どぶ川ザリガニの死骸から漂う臭いをのせて~

作者: tea(緑茶)

書いてた時に思ったこと。

「忠博君、ごめんなさい」

 臭かった。

 魚の群れが一ヵ所にぎっしりと詰まって死んでいるかのような、とてつもない臭いを発していた。目の前にある半魚人のスーツは。

 大学ニ年生の小室忠博(こむろただひろ)は夏の短期アルバイトで裏野ドリームランドに来ていた。

 アクアツアーの中盤で訪れる洞窟内にいる半魚人に扮して客を驚かす、という仕事内容だった。時給二千円というのに惹かれてきたのだが、半魚人のスーツが信じられないほど臭かった。

 冷房の効いた更衣室。ボクサーパンツに白いTシャツの忠博が、壁に掛けられてある半魚人のスーツの前で顔をしかめている。

 スーツは深緑色で、表面に無数のイボがびっしりとあしらってある。普通、半魚人といえば鱗に覆われていそうなものだが、このスーツは半魚人の定説に反していた。これを作った所は半魚人に対する知識がないのかもしれない。

 しばらくすると、アクアツアー責任者の高見が入ってきた。

「小室君、何してるの? 早く着がえないとお客様が来てしまうよ」

 早く早く、と言いながら手を叩く高見は、ギョロリとした目の胡散臭い中年男性だ。髪をオールバックにした広い額が目につく。

 忠博は仕方なく背中がパックリと割れたスーツを手に取った。魚の死骸のような強烈な臭いが体にまとわりついてくる。息を止めながら足を入れた。小太りの忠博には少し小さめのスーツで足を入れるのも一苦労だ。水掻きのある足はずっしりと重い。

「あのー、もう少し大きいサイズのないんすか?」

「スーツは全部それと同じサイズだよ」

「マジすか? これ、けっこうキツイっす」

「大丈夫大丈夫、すぐ慣れるから大丈夫。それにさ、君。時給ニ千円ももらうんでしょ? なら、ちょっとは我慢しなきゃあ」

 どこか馴れ馴れしい感じのする言い方の高見に忠博は不快感を抱いた。

 次に手を入れた。少し長めだったがすっぽりと腕が収まる。指先に付いている長い爪がだらしなく垂れている。あとは背中のチャックを閉めれば体の部分は完了だ。

「チャック閉めてもらっていいすか?」

 オーケーオーケーと言いながら、高見がチャックを閉めようとするが、忠博の背中の肉厚が邪魔をして手こずる。

「ちょっと待っててくれるかな?」

 そう言うと、高見が更衣室を出て行った。

 忠博はテーブルの上に置いてある半魚人のマスクを手に取った。

 深緑色の半魚人のマスクは切れ長の目が真っ白で、口が大きく裂けたように作られている。その中には(のこぎり)状の歯がところせましと並んでおり、ゴム製の柔らかい感じの物だが、妙に鋭い光を放っていた。

「なんだいなんだい? 見つめ合っちゃって。もしかして、一目惚れかな?」

 更衣室に戻ってきた高見が一笑(ひとわら)い取ったぞ、という感じの笑みをみせると、忠博の目の前に小さなホチキスを差し出した。

 もしかして、これで背中を留めるつもりなのかと忠博が眉をひそめる。

「これで背中を留めちゃおう」

 素早く忠博の背後にまわる高見。

「はい、お腹引っ込めてー」

 忠博は言われるままに腹を引っ込ませた。

 スーツを背中に手繰りよせながら、高見が手際よくホチキスでチャックを留めていく。鼻唄混じりの高見は気分が良さそうだ。

 腰の辺りまで留められた時、忠博はスーツと一緒に自分の肉もつままれたのを感じた。鋭い痛み。全身に電気が走ったような痛みだった。スーツと一緒に肉も留められてしまったのだ。

 大声を出して床の上で転がっている忠博を高見が鼻で笑う。

「大げさだねえ、小室君。もしかして、リアクション芸人とか目指しちゃってるわけ?」

 涙を浮かべている忠博は思った。

 このおっさん、マジむかつく!

 うつ伏せになっている忠博の背中のホチキスが全部外れて、スーツがパックリと割れていた。ホチキスで留められた肉の辺りから白いシャツに少しだけ血が(にじ)んでいる。

「あーあ。せっかく留めたのに」

 肩をすくめた高見が何かに気付く。

「小室君、その体勢のままでいてね」

 高見の膝が忠博の背中にのった。忠博の腹がへこみ、スーツの背中に閉じられる余裕ができる。

「このまま一気に閉めるよ」

 高見の膝に力が入ると、忠博の肺から空気が一気に抜け、その一瞬でチャックが綺麗に閉じられた。

「さぁ、小室君、あとはマスクをかぶるだけだよ」

 寝転がっている忠博の顔の前に高見が半魚人のマスクを落とす。

 マスクからも当然のように異常臭が漂っている。

 膝立ちになっている忠博は覚悟を決めてマスクを一思いにかぶった。サイズはぴったりで、忠博の顔にジャストフィットしたのはいいが、鼻の奥まで臭いが染み渡ってくる。鼻で呼吸し続けると卒倒してしまうかもしれない。

 忠博は姿見に写ったイボだらけの半魚人姿の自分を見つめている。

 スーツがぴちぴちに伸びた小太りの半魚人。

 これから約三週間、これを着つづけるのかと思うと、忠博の気持ちは沈んだ。

「いいよーいいよー。似合ってるよー。じゃあ、ちょっと練習してみようか」

「練習?」

「驚かせる練習だよ。お客様に驚いていただかないと半魚人いる意味ないでしょ?」

 少し肩を落として首を傾げる忠博。

「なになに? 小室君、もしかしてノリ悪い? ほら、こんな感じで」

 足は肩幅より大きく広げる。

 膝を直角に曲げ腰を落とす。

 尻をこれでもかと突き出す。

 両腕は人を威嚇するように。

 手の爪を大仰に見せつける。

「最後に」

 間抜けなポージングの高見が咳払いをする。

「キシャァアアアアア」

 どこから出ているか分からない低く濁った声で鳴く高見。

「小室君もやってみて」

 忠博は見よう見まねでポーズをとり、小さな声で言った。

「キシャァアアアアア」

 それじゃ駄目だよ、という風に高見が首を横に振る。

「声が小さいねえ。ほら、もう一度」

 今度はマスクの中で声が反響するくらいの大声で言った。

「キシャァアアアアア」

 高見が満面の笑みで拍手する。

「やればできるじゃないか。それじゃあ、持ち場につこうか」

 バックヤードの暗い通路を通って連れていかれた洞窟内は湿度が高く、壁面には大小さまざまな穴が無数にある。

 アクアツアーのウォータービークルが通る川幅は十メートル程で、向こう岸にいる半魚人のスーツを着た人が忠博達を見ていた。白い切れ長の目が薄暗がりの中で浮かび上がっている。

「小室君の持ち場はこっち側だから」

「向こうの人もバイトすか?」

「そうだね。彼はベテランだから、よく見ておくと勉強になるかもよ? それと休憩は彼と交代で入ってね」

 忠博はこちらを見ているベテラン半魚人に軽く会釈をした。当然、返事が返ってくるものと思っていたが、ベテラン半魚人は何の反応も見せずに背後にある大きな穴の奥へ入って行く。

 会釈くらい返せないものかと忠博が思っていると、いつの間にか高見の姿は無くなっていた。

 裏野ドリームランドが開園して、アクアツアーにも客足が伸びてきた。

 意外なほどひっきりなしにやってくるツアー客を相手に半魚人を演じる忠博。高見に教わった通りにツアー客を驚かせる。なんだかんだで驚いてくれたり喜んでくれたりする客を見ると、忠博は嬉しくなった。

 午後一時。交代で休憩の時間だ。忠博は向こう岸で腹を上に向けて寝そべっているベテラン半魚人に声をかけた。

「すいませーん、休憩、先いかれますかー?」

 ベテラン半魚人の顔の横にはバケツが置かれており、その中から何かを取りだし口に運んでいる。それが何かは忠博には分からなかったが、ベテラン半魚人は、「もう休憩入ってる」と言わんばかりにくつろいでいた。それを見た二人乗りのウォータービークルに乗った客が指を差して笑って去っていく。

「俺、休憩入りますんで、あとお願いしますー」

 バックヤードにある休憩所に入ると、忠博はマスクを外した。かぶる時はスムーズだったが、顔にジャストフィットしているためか外すのには手間取った。

 蒸れた顔が外気にさらされると、忠博は大きく深呼吸をした。スーツの臭いには少しずつ慣れてきているが、それでもまだ異臭が鼻をつく。思っていたよりも大変なバイトなのかもしれないと思い、シミのある天井を見上げた。

 忠博が休憩から戻ると、向こう岸にベテラン半魚人の姿がなかった。

 女性の悲鳴。新たに来たウォータービークルに乗った女性が二人で抱き合っている。ウォータービークルと並走するように水の中を何かが泳いでいた。女性の悲鳴には笑い声も混ざっている。

 水の中を泳いでいた何かが進路を変え、忠博のいる岸に這い上がってきた。

 ベテラン半魚人。全身をイボに覆われた深緑色の半魚人が忠博の目の前にいる。見た感じは忠博と同じなのだが、水を滴らせているそれは生々しく、体表が呼吸をしているかのように波打っていた。さっきまで寝そべっていた半魚人とは思えない。これがベテランの凄味なのだろうか。

 忠博は生々しい半魚人の迫力にしり込みしたが、アルバイトの先輩に対して挨拶をしていないことを思い出した。

「あの、今日からお世話になります、小室忠博っす。よろしくお願いします」

 忠博の挨拶がなかったかのように無言でにじりよるベテラン半魚人。その手先には、なんでも切り裂いてしまいそうな鋭く研ぎ澄まされた長い爪がある。その爪が忠博に向けられる。忠博は固唾(かたず)をのんだ。ベテラン半魚人からは今にも襲いかかってきそうな雰囲気がする。

 忠博とベテラン半魚人の対峙が膠着(こうちゃく)していると、次のウォータービークルがやって来た。ベテラン半魚人がきびすを返し颯爽と水中に潜っていく。それからすぐに遠く離れたウォータービークルで男女の驚く声がした。

 夕方になり、一日目が終わった。

 更衣室で半魚人のスーツを着たままぐったりとしている忠博。ぼんやりとしたその頭の中には、このままバイトを続けるのは無理かもしれないという考えがある。

 忠博が窮屈なマスクを外すと、汗と熱気でふやふやになった顔が現れた。汗が丸い顎先から滴っていく。背中に手を回す。かろうじてチャックに手が届いた。長い爪が邪魔だが、なんとかチャックをおろす。スーツの背中が割れ、中に溜まっていた蒸気が霧散する。腕を引き抜く時に少し痛みを感じた。肌にへばりつくようにフィットしていたスーツから腕を強引に出すと、産毛が全てなくなっており、肌が真っ赤にただれている。足も腕と同じだった。忠博はうなだれ、更衣室を後にした。

 裏野ドリームランドから忠博の家までは電車で五駅の距離だ。

 駅のプラットフォームで電車を待っている忠博を避けるように人々が歩いていく。嗅覚が麻痺している忠博は気付いていないが、その体からは魚の死臭が流れ出ていた。

 そういえばベテラン半魚人の人を更衣室で見なかったなと考える忠博が、プラットフォームに入ってきた電車に乗り込む。帰宅ラッシュが始まりかけている車内はなかなかの混みようだ。死臭をまとった忠博が()を進めるたびに人の海が割れていく。

 空席がなく、車両中央のつり革に掴まっている忠博の前の席に座っているスーツ姿の男性が席を立つ。忠博は素早く空いた席につき、一息ついた。それと同時に、隣の席の「これから彼氏とデートなの」といった感じの洒落た格好をした女性が眼光鋭く忠博を睨み付ける。忠博は女性の視線に気付き、横目で女性の顔を見た。そこには端正整っていた顔を醜悪にし、汚物でも見るかのような冷たい表情がある。訳がわからず困惑する忠博。痺れを切らせた女性は忠博を押し退けて席を離れた。

 おろおろしている忠博が去っていく女性を目で追っていくと、周囲にいた乗客達もそそくさと別の車両に移っていく。その状況に忠博は戸惑った。

 しばらくすると車掌がやってきて、不審物を持っていないか忠博を問いただし始めた。他の乗客から異臭がすると通報されたらしい。忠博は赤面しつつ事情を説明した。車掌は理解してくれたが、顔は歪んでいる。そのあと忠博のいる車両には誰も入ってこなかった。

 忠博が下宿先のアパートに着くと、入口で隣の部屋に住む同じ大学に通う女性に出くわした。忠博の片想いの相手だ。予想通り嫌な顔をされた。冗談混じりでアルバイトの話をしたが女性の顔は笑っていない。会話は数分ともたず、女性は逃げるように走り去った。

 忠博はバイトをやめようと決意した。時給二千円じゃ割に合わない。明日、直接言おうと思い(とこ)に入る。忠博にとって、散々な一日だった。

 蝉の大群がけたたましく鳴き始める朝、忠博の目の下には大きなくまが出来ていた。スーツでただれた肌が痒くて、一睡もできなかったのだ。

 忠博は憂鬱だった。電車に乗れば、また異臭騒ぎになるかもしれない。体から臭いが消えているか自信がないのだ。自転車で行けなくもないが、二時間はかかるだろう。今は七時。十時の開園にはじゅうぶん間に合う。

 迷った末に自転車で行くことにした。夏の強い日差しの元、全身から汗を吹き出しながら自転車を必死でこぐ忠博。ただれた肌に照りつける紫外線に目がつり上がる。

 裏野ドリームランドに着いた忠博は、エントランスゲート近くにある事務所に駆け込んだ。今日でバイトをやめると伝えるためだ。

 そこに一人だけいた初老の女性から責任者に直接話すように言われた。高見だ。高見がどこにいるか忠博にはよく分かっていない。昨日もはじめに説明を受けて以降、高見の顔を見ることはなかった。

 冷房の利いていない更衣室では、ロッカーの中で半魚人のスーツが待ち受けていた。スーツの内側は昨日の忠博がかいた汗でぬるぬるとしており、元からある異常臭と忠博の汗の残り香があわさって、この世のものとは思えない臭いを撒き散らしている。

「おはよう。小室君」

 高見が元気な声で更衣室に入ってくる。

 忠博はロッカーをそっと閉じた。

「あの、バイトの事なんすけど」

「なに?」

 高見の生気のないギョロリとした黒目が忠博を捉える。

「いや、あの、辞めようかなって」

 静寂に包み込まれる更衣室。

「え? 冗談でしょ? もう高見君、冗談言うんだったら、もっと笑えるのにしてよ。僕、一瞬、頭のネジがとびだしそうになったよ」

 高見の顔は笑っているが、本当は笑っていない。忠博にもそれくらいは分かった。それでも、退()くわけにはいかない。

「えっと、ほんとに辞めたいんすけど」

「そんなわがまま通ると思ってるの? 社会を舐めてない? ねえ、舐めてるでしょ? 正直に言ってみなよ」

「いや、舐めてるとか舐めてないとか、そんなんじゃないんすけど」

「ですけど」

 高見がテーブルを叩いて怒鳴る。

「昨日から思ってたんだけど、小室君て言葉遣いなってないよね。で抜き言葉、多用しすぎじゃない? でを言うのがそんなに苦痛なの? それとも僕の事、馬鹿にしてる? 馬鹿にしてるでしょ? ねえ?」

 高見の怒声に体が硬直した忠博は口ごもった。

「ただの癖みたいなもんっす。です」

 諦めたかのように溜め息を漏らす高見。

「もういいよ。でも、今日は君しかバイトがいないから働いてもらうからね。明日からはもう来なくていいから」

 高見の剣幕に忠博は辞められないかもしれないと思っていたが、高見が案外すぐに折れたことに拍子抜けした。だが何はともあれ、バイトを辞めることができるのだ。朝からつきまとっていた憂鬱な心持ちが綺麗に晴れていった。あとは今日一日を乗り切るだけだ。

 忠博はロッカーを開け、半魚人のスーツに身を通した。昨日一日着ていたからか、伸びたスーツが忠博の体にぴったりと合っている。ぬるぬるとしたスーツの内側が肌に吸着するようにへばりつく。これも今日だけだ。そう思うと、我慢できた。

 小太りの半魚人が暗い通路を歩いていく。

 忠博は一日精を出して半魚人を演じた。休みのベテラン半魚人の分も頑張った。頭がぼうっとして意識が薄れそうになったが頑張った。バイトは辞めるが、やはり客達が喜んでくれるのは嬉しかった。

 閉園後、忠博が更衣室につづくバックヤードの暗い通路を歩いていると、高見がバケツを持って角を曲がるのを見かけた。忠博は最後に高見に挨拶をしておこうと思った。

 高見が出ていった扉の先はベテラン半魚人の持ち場だ。高見が奥にある大きな穴に入っていく。忠博もその後を追って暗い穴に吸い込まれていった。

 闇に包まれた穴の奥から叱咤するような話し声が聞こえてくる。忠博は穴の壁面に手をつきながら、ゆっくり奥へ奥へと進んでいく。奥に行くほど湿気が酷くなるような感じがする。

 穴の奥には蛍光灯で照らされた小さな空洞があり、そこに高見と半魚人がいた。高見は手に鞭を持っている。隅でうずくまっている半魚人は昨日のベテラン半魚人だろう。その体には鞭でつけられたであろう傷が無数にある。その傷口からヘドロのような緑色の液体が垂れている。

 高見が忠博の気配に気付き振り返った。その顔には表情がない。ギョロリとした目が不気味に動く。

「小室君か。どうだい、仕事の方は? もう辞めたいなんて言えないでしょ? ゆっくり覚えていけばいいけど、駄目なところがあれば、君もこうなるからね」

 ベテラン半魚人は不気味な低い鳴き声を発して体を震わせている。

 息の止まった忠博は恐ろしくなって逃げだした。穴を抜け、通路を走り、更衣室に入る。荒い呼吸を整える為にマスクを外そうとするが、マスクの内側が顔の皮膚にへばりついているかのように取れない。

「ああ、それ、もう取れないと思うよ」

 更衣室の入口に高見が立っていた。その口元には薄笑いが浮かんでいる。

 忠博は背中に手を伸ばしチャックを探した。そこにあるはずのチャックがどこにもない。着るときはたしかにあったはずだ。声を出そうとするが、言葉が出てこない。その代わりに低く濁った鳴き声が喉の奥から漏れてくる。

「もう無理だって。ほら、ついておいで」

 更衣室を出ていく高見の背中をすがるように追う忠博の意識は段々と混濁していった。

 

 八月も終わりに近づき、裏野ドリームランドの活気も落ちついてきた。

 アクアツアーも平常時に戻りつつあり、洞窟内の川沿いにいる半魚人も暇そうに寝そべっている。その後ろにある大きな穴の中では、小太りの半魚人が一匹、バケツの中にある何かの肉を旨そうに(むさぼ)っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作品読ませていただきましたので勝手に感想をば。 忠博ーーーーーーwwwwwwwwww いやはや、勢いのある作品でした。 何か作者さんが、この話書きたくて書きたくてたまらないような怨念めいた…
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