パパとおにぎりとごくらくちょう
パパとおにぎりとごくらくちょう
「パパ―! おなかすいた!」
麻友が大きな声でいいました。
「そうだね、ゾウさんのところで、おべんとうたべようか」
「ううん! 鳥さんのところでたべる! パパ、はやくいこう!」
麻友はいっしょうけんめい小さなお手手でパパのようふくを引っぱります。パパはゆっくりゆっくりあるきます。
鳥さんのこやは、大きな大きな鳥かごです。麻友のおうちくらい大きいのです。鳥さんたちはその大きな大きな鳥かごのなかをスイスイととんでいました。
「さあ、ついた。おべんとうをたべよう」
パパはちかくにあるベンチにすわって、もってきたおべんとうをひろげました。麻友は大よろこびでパパのとなりにすわります。
「パパのおにぎり、だーいすき」
麻友は大きな大きなおにぎりをアーンと大きな口をあけてたべます。パパはニコニコとわらって麻友にほうじちゃをわたしてくれました。
麻友にはママがいません。麻友が赤ちゃんのときにお空にいってしまったんだ、とパパはいいました。それで、麻友は大きくなったら鳥さんになるときめました。
「パパ、動物園の鳥さんたちはお空にいかないの?」
「そうだね。鳥さんたちはここがおうちだからね」
「パパ、麻友がおおきくなって鳥さんになっても動物園にやらないでね。麻友はお空にいってママとおはなしするの」
パパはにっこりわらって、うなずいてくれました。
「麻友はどんな鳥さんになるのかな?」
「大きな鳥さん!」
「どうして大きな鳥さんになりたいの?」
「だってお空はとってもとっても大きいでしょう? 麻友も大きくならないとママが麻友のことを見つけられないでしょう?」
「麻友はおそらにいっても、うちにかえってきてくれるかな?」
麻友はげんきよくうなずきます。
「うん! だって麻友はパパが大すきだもん。ママをつれていっしょにかえるよ!」
パパはすこしさびしそうにわらいます。
「ママはうちには、かえれないかもしれないよ」
「なんで? なんでママはおうちにかえれないの?」
「ママのおうちは空の上にあるんだ。ごくらくにあるんだよ」
「ごくらくってなあに?」
「あたたかくて、お花がいっっぱいで、いいにおいがして、おなかがすかないところだよ」
「ふうん」
麻友はつまらなさそうに口をとがらせました。
「おなかがすかないんじゃイヤだな」
「なんで?」
「パパのおにぎりがたべられないでしょう?」
パパは大きな手で麻友のあたまをなでました。そして大きな手で鳥かごをゆびさします。パパがゆびさしたのは、いろんないろのはねで着かざったキレイな鳥さんでした。
「見てごらん、あの鳥さんは、ごくらくちょうっていうんだよ」
「ごくらくちょう?」
「ごくらくにすんでいる鳥さんなんだよ」
「なんでどうぶつえんにいるの?」
「おなかをすかせてごはんをたべてみたくて、ごくらくから下りてきたんだ」
「おうちにかえらないの?」
「かえったら、またごはんがたべられなくなるだろ?」
麻友はにっこりわらいました。
「ごくらくちょうさんは、くいしんぼうだね」
「麻友もくいしんぼうだから、きっとかえってきてくれるね」
「うん!」
それから麻友とパパはだまっておにぎりをたべました。麻友はごくごくとほうじちゃをのむといいました。
「麻友ねえ、おおきくなったらごくらくちょうになるね」
「うん」
うなずいて、パパはやさしくわらいました。
「ごくらくにいってママにあったら、パパのごはんすごくおいしいっていうね」
「うん」
「ママがくいしんぼうだったらいいなあ」
「うん」
パパはうつむいて両手でかおをおおいました。
「パパ、どうしたの」
麻友はしんぱいそうにききます。
「なんでもないよ。なんでもないんだ」
パパは手でかおをごしごしこすると、麻友にむかってバア、と両手をひろげてみせました。麻友はキャッキャとわらいます。
「麻友がごくらくちょうさんになっても、くいしんぼうでいられるように、今夜もおいしいごはんをつくるからね」
「麻友、ハンバーグがいい!」
「ようし、じゃあかえってハンバーグのじゅんびをしよう!」
「うん!」
二人はたちあがると、ごくらくちょうさんにバイバイしてあるきだしました。
ごくらくちょうさんは、お水を一口のんで、ごはんをたべました。
それはそれはおいしそうに、ごはんをたべました。