二十四時間のラーメン屋さん
二十四時間のラーメン屋さん
真由は『二十四時間ラーメン』というラーメン屋さんが大好きです。幼稚園の帰りにお母さんと食べに行きます。真由はワンタンメンをつるると食べます。
真由が夢中で食べているとラーメン屋さんのおじさんが聞きます。
「おじょうちゃんラーメンおいしいかい?」
「うん! ラーメンもワンタンもすっごくおいしい!」
そういうとおじさんは「ひみつだよ」といってチャーシューを一枚おまけしてくれました。真由はうれしくてにこにこ。おじさんもにっこりとわらってくれました。
ある日、真由はお母さんに聞きました。
「二十四時間って、なあに?」
「朝おきて、夜ねて、次の朝が来るまでの、ずーっとのことよ。今日の朝から明日の朝までが二十四時間」
「じゃあ二十四時間ラーメンって、二十四時間ずっとラーメンが食べられるの?」
「そうよ。朝もお昼も夜も食べられるのよ」
真由は目をかがやかせました。
「すごい! すごい! お母さん、わたし夜もラーメンが食べたい!」
その夜、真由はお父さんとお母さんといっしょに二十四時間ラーメンに行きました。真由はやっぱりワンタンメン。のこさずつるると食べおわって、おじさんにいいました。
「ごちそうさまでした! とってもおいしかったです!」
真由はおじさんがいつもみたいににっこりわらってくれると思いました。ところがおじさんは口をぎゅっとむすんで、むっつり顔でうなずいただけでした。
帰り道、真由はいっしょうけんめい考えました。いつもはにっこりなのに、今日はむっつりだった。真由が何かわるいことをしたんだろうか?
真由はラーメンもワンタンものこさなかった。食べる前にいただきますをしたし、食べおわったらごちそうさまをした。
いくら考えても真由にはおじさんがわらってくれなかった理由がわかりません。
それからしばらくたったある日、幼稚園の帰りにママがいいました。
「ラーメン屋さんでお昼ごはん食べようか」
真由は地面を見つめていいます。
「今日は行かない」
ママはびっくりして「行かないの?」と聞きましたが、真由はだまっていました。
それからもなんどもお店の前をとおりました。真由はお店の中をのぞきましたが、外からでは、おじさんがにっこりしているか、むっつりしているか見えません。
真由はラーメンが食べたくて食べたくてしかたありません。けれど、またおじさんがわらってくれなかったらどうしようと、ずっと考えていました。
寝る前にもラーメン屋さんのことを考えて、真由は、はっとしました。
「ラーメン屋さんはいつねるの?」
真由は夜、毎日ねます。けれど二十四時間ラーメンは、朝から昼の間も夜の間も、次の朝まであいています。次の朝からも、次の次の朝まであいているでしょう。次の次の朝からも、次の次の次の朝まであいているのです。
「ラーメン屋さんはずっとねてないんだ! だからつかれて、むっつりしてたんだ!」
真由はとびおきてお父さんとお母さんのところへ走りました。
「お父さん、たいへん! 私ラーメン屋さんへ行かなくちゃ!」
お父さんとお母さんはびっくり。
「夕ごはんはちゃんと食べただろう?」
「明日のお昼に行きましょうね」
それでも真由はがんばりました。
「ラーメンを食べるんじゃないの! ラーメン屋さんに言うことがあるの!」
あんまり真由がたのむので、お父さんがお店へつれていってくれることになりました。
二十四時間ラーメンにつくと、真由はおじさんのそばに走っていっていいました。
「おじさん、真由が手伝うからおじさんは寝て下さい! ずっと寝てないんでしょ?」
おじさんはびっくりして目をぱちくり。
「おじさんは二十四時間ずっとラーメンを作っているんでしょう?」
おじさんはとつぜん大きな口をあけて、わっはっはとわらいました。
「ありがとう、おじょうちゃん。でもおじさんはちゃんとねているよ。昼間ラーメンを作っているのは弟なんだよ」
真由はぽかんと口をあけました。
「ちがう人なの? でもおなじ顔よ」
おじさんはまたわっはっはとわらいました。
「おじさんたちは双子なのさ。顔も背たけもそっくりなのさ」
そうしておじさんはにっこりいいました。
「またおいで、おじょうちゃん。その時はチャーシューをおまけするよ。ひみつだよ」
おじさんたちはほんとうにそっくりだ。真由はうれしくて、にっこりわらいました。