浄眼と魔眼その1
ここで、異世界ドM戦記のEDとダチ~の世界がリンクします。
作者は色々繋げるのが大好きです。
一年三組に、外国人が留学してきたという。
自他共に認めるミーハーである猪崎万梨阿。
彼女は早速、どんな人物がやってきたのか見に行く事にした。
どうやら、大変可愛らしい女の子らしいのだが。
「村越は見に行かないの?」
「俺は野次馬とか好かんのだ」
入試面接からの知り合いである村越龍はすげなく断った。
すらりと長身、涼やかな目元に鼻筋が通った美形である。どこか野生的な雰囲気を秘めていて、これでいて大変人気がある。
もうじきやってくる体育祭では、恐らく学園の他キャンパスからも人気を博すのではないかと万梨阿は見ている。
だが、そんな彼には心に決めた人がいるのだ。
黒沼遥という、ちんちくりんな背丈の女の子である。髪の毛はくせっ毛で可愛らしいメガネをつけている。最近黒縁メガネを買ったらしい。
よくよく見るととても可愛らしい子なのだが、周囲の女子はなぜ村越龍ともあろう男が、このような冴えない女子に入れ込んでいるのか解せぬらしい。だが、どういうわけか人柄の良い人間ばかりが集まった城聖学園のこと。やっかみからのいじめなどと言うものは起こらないのだ。
「うんうん、ま、遥はあたしの友達でもあるしね。っていうかここの生徒って他のところと、色が違ってて面白いのよね」
ぶつぶつ言いながら外に出た万梨阿。
彼女には、いろいろなものが見える。
例えば……所謂、幽霊とかそういったもの。古い神社におわす、何やら厳かな御霊とか。あとは、その人間が発しているオーラとかだ。
オーラっていうと、とても胡散臭く聞こえる。
これを万梨阿は、「その人の色」と表現する。
色を見れば、その人物の人間性が分かるし、考えている事も大体分かる。色の範囲が大きい人間は優れた能力を持っているし、小さいと、人間的にも小さい。
万梨阿から見るに、村越龍は色の大きさが未知数。少なくともこれまで見てきた人間の中で、一番大きい。それは深い青色である。時折、年齢相応の熱さを現すオレンジが見え隠れするものの、それらを包むのはまるで大地を覆う草の色を思わせる青。
黒沼遥は、そこそこの大きさ。ただ、彼女の色は黒だった。闇の色。これは必ずしも悪い事を意味するわけではない。落ち着きとか、地に足が着いた、とかそういう印象。少なくとも、遥には己の自信のありかとなる、各個とした何かが存在している。それから……やっぱり、この黒は何か人知を超えた、沼とか湖とかいったイメージ。
「面白い人ばっかなんだよね。金城先輩とかも黒かったけど、あの人は揺らいでたなァ」
ぶつぶつ言いながら隣のクラスに足を運び、人だかりが出来ているところにスッと体を滑り込ませた。
彼女の目には、気の流れみたいなものが見えるので、どこをどうすればスムーズにこの人ごみに割り込めるのかが分かる。
ぬっと顔を出して、クラスの中を見回した。
きっと、外国から来た女の子だから、人とは違った色をしているのではないだろうか。
ともすれば外人珍しい! 的な日本人らしい考えで、万梨阿は目を凝らした。
そして、目を凝らすまでも無かった。
そこに、鮮烈な紫色がある。
他を圧倒し、ともすれば飲み込んで焼き尽くしてしまうような、強烈な輝きを持つ紫だ。
「うわ、これはやばい……!!」
今はそうでもないが、ともすれば触れるもの全てを滅ぼしてしまう、そんなイメージの紫が、クラスの中央に腰掛けていた。
「あら!」
紫色が顔を綻ばせた。
それは、とても綺麗な黒髪の少女。瞳の色は青くて、肌の色は真っ白。
だけど、髪も瞳も、角度によっては紫色に見えた。
「私とおんなじ目をしてる人? ……ううん、ちょっと違うかな?」
彼女の目は、万梨阿に合っている。
「間戸エリザだよ。よろしくね」
「あはは、よ、よろしく。猪崎万梨阿です」
ということで、万梨阿とエリザが出会った。
「遠い国から来たのよ。とっても遠いの。えーと、イリア……こっちだと、イタリア?」
「ああ、イタリア」
「正しくはね、エリザベッタって言うの。サユリの家から通ってるから、間戸なのよ」
「ははあ」
懐かれてしまった。
この、エリザという女の子。
どうも万梨阿にシンパシーを感じたらしい。
強烈な存在感があるはずの子なのだが、何故だか目立たないでいることが多い。
体育祭でも、ごく一般的な生徒の一人として注目されないでいたし、ひと月ほどで他の生徒たちも、エリザを物珍しい目で見なくなっていった。
このからくり、万梨阿にはよく分かる。
彼女の目は、見えないはずのものを多少は見ることができる。この点では万梨阿の目の劣化版だ。
だが、ここから先が真骨頂。
どうやらエリザは、狙ったものを視線で無くしてしまうことができるようなのだ。
「私ね、みんなの注目を殺したの。ちょっと間違えたら大変な事になるところだったんだけど、なんとか上手く行って良かった!」
洒落ではすまない話である。
無くしてしまうどころか、視線で任意のものを殺してしまう能力とか。
危険極まりないではないか。
「あのねえ。エリザがなんでそんなことをできるようになったのか知らないけど、そういうのはあんまりやっちゃいけないのよ」
「そうなの?」
きょとんとするエリザ。
「そりゃそうよ。だって一つ間違ったら、人を殺しちゃいそうな目をしてるでしょ?」
「うん、そうよ。私の目は魔眼なの。万梨阿と一緒だね」
「私の目は違うと思うなあ……。もうちょっと普通だと思う」
人はえてして自分の事を冷静に眺めていられないものである。
後に、金城家の尊教授から浄眼であるとジャッジを下される事になる万梨阿である。
「とにかく、法律ってやつで決まってんの。うーん、なんであたしがこんな常識を説くことになってるのかしら……」
「万梨阿といると、色々教えてくれるから楽しいわ。ハリイやアミとは学年っていうのが違うから、一緒の学校に行けないんだもの」
「その子たちって友達?」
「そう! 大親友!」
同い年の少女なのだが、そんな時はエリザが満面の笑みを浮かべてみせる。まるで年下の子供のように見えて、こう、ほっとけないわけである。
どうも、彼女とは縁みたいなものが繋がってしまった気がする。
お互い変わった目を持つ同志、なんだかこの出会いはいやな感じに運命的なものを感じるのだが……。
万梨阿の予感は的中することになる。
浄眼と魔眼の二人は、なんとも伝奇めいた出来事に首を突っ込んでいく羽目になるのである。