図書都市ブーケ
あるところに、ブーケという街がありました。
ブーケは世界中の本が集められた図書館だらけの街です。
本を書く人、本を読む人、本を読んで勉強する人、そんな人達が快適に暮らせる、本が中心の街です。
ブーケの人々は、何においても本が第一なのです。
そんなブーケの街ですが、ある日事件が起こりました。
この世にたった一つしかない貴重な本が消えてしまったのです。
街の人々はとても慌てました。
図書館の司書は貸出記録を調べましたが、誰もその本を借りてはいませんでした。
そこで図書館の館長が言いました。
「誰かが盗んだのではないだろうか」
「推理小説も過去の事件の記録も、この街にはたくさんある」
「誰かがそれを真似て盗んだのかもしれない」
司書たちの他に、評論家や読書家などが集まり、ありとあらゆる推理小説や事件簿を読み漁りました。
しかし参考になりそうなものはなく、それでも何かないかと探すうち、ある推理小説作家が言いました。
「もし犯人がブーケの人間なら、我々が読むことのできる本を参考にはしないのでは?」
みんなは言われて気付きました。
もしブーケの街の誰かが本を盗んだのだとしたら、ブーケの街にある小説を参考にはしないだろうと。
それよりも、ブーケの街の人間なら、本を盗むなんてことはしないはず。
「ではブーケの外から来た人間の仕業だろうか?」
「外から移住してきた人間を調べよう」
「街と外を出入りしている業者も調べよう」
図書館の司書たちや警察が協力して、移住記録や業者の数や出入りした日や時間、全て調べましたが、本がなくなった日とは関係がなく、また振り出しに戻ってしまいました。
「やはり、ブーケの人間の誰かが犯人なのではないか」
「ブーケの人間なら、絶対に何かしらの本を読んでいるはずだ」
「もしかしたら、推理小説以外のものを読んだのかもしれない」
「推理小説以外で推理場面のあるものを探そう」
読書家たちは、今までに読んだ本の中から推理する場面があるものを全て選び出し、今回の事件に当てはまりそうなものはないか試行錯誤しました。
ところで、世界でたったひとつしかない本とは一体どんな本なのでしょうか。
実は、この本を書いたのは、
「もし犯人がブーケの人間なら、我々が読むことのできる本を参考にはしないのでは?」
と助言をした推理小説作家。
内容はもちろん推理小説。
世界でたったひとつしかない、というのも、推理小説作家が個人的に作った、自費出版だからです。
司書たちや読書家や評論家が分からないのも無理はありません。
自分が書いた作品を自分で盗むなんてお話は、この世のどの本にも書かれていないからです。
この顛末を見た推理小説作家が、これをもとに新しい本を書いてみんなを驚かせるのかどうかは、本を読んでからのお楽しみ。