突きつけられた現実
「…ん…?…ここは…?」
何かに揺さぶられて、僕は目を覚ました、目の前に広がる風景は今までいた場所とは程遠く、というか、家ではなく外に、しかも草原が広がる見通しの良い場所だった
「おっ…よかった、目を覚ましたか」
頭が整理出来ない状態の僕に男の人が声をかけてきた、きっと、僕を起こしたのもこの人なんだろう、見た目は好青年でグループの中心にいそうな感じだ
「えっと…どなたですか?」
とりあえず、状況を理解するために、僕は目の前の青年の名前を尋ねることにした、うん、多分間違ってないよね?
「大丈夫そうだな、俺はシェスト、ここら辺の自警団のリーダーをしているNPCだ」
僕が話せるぐらい無事だとわかると、シェストと名乗った青年はニッコリと笑い、自分の説明をしてくれた
「シェストさんですか…僕は篠原神人で……えっ?今NPCって……」
いや、普通に自己紹介の流れだったからそのまま流しそうだったけど、今結構すごい発言あったような気がするんだけど、聞き間違いじゃないよね、とりあえず僕はもう一度聞くことにした
「うん、NPCだけど?」
「NPC…やっぱり、ゲームでは定番の?」
「そうだよ、俺の役割は君みたいにこのゲームに落とされたプレイヤーの案内役、まぁ、説明している感じかな?」
なるほど、だとしたら、なんで家じゃなくて草原が広がる場所にいるのかが説明つくし、じゃあ僕はいまゲームの世界にいるのかって納得……
「出来るかーー!!」
そんなことあるわけないし、人がゲームをしたらゲームの世界にレッツゴーなんて聞いたことないよ、二次元じゃあるまいし
「とりあえず、君がNPCというのは置いといて、あとは、ここはどこ?」
状況を理解しようとして、さらに謎を呼んでしまったので、この場所さえ分かればなんとかなるだろうと思った、携帯のGPSで帰れるかもしれないし
「ここは『Presence game』の中で一番弱い魔物が出てくる草原だよ、まぁ、一番弱いと言っても、君みたいに落とされて状況が理解出来ないプレイヤーはすぐに死んじゃうけどね」
彼は淡々と説明してくれるが、うん、頭がパニックだ
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それからしばらくして、何回か彼から説明してもらい、やっと状況を理解することができた
ここはやっぱりゲームの中の世界で、僕が起動させたゲーム機によって僕はこの場所に落とされたらしい、彼はそのゲームのNPCの一人で、ここら辺を見回りして僕みたいに落とされたプレイヤーを見つけては今みたいな説明をしている、彼の説明を簡単にまとめてみると
1.このゲームから現実に帰るには、伝説の聖宝を手に入れること
2.時間は現実世界と同じように流れている
3.僕達プレイヤーはゲームでも現実と同じ、というか、現実と変わらない
4.このゲームはレベル制でなく、武器のスキルを習得する、要は修羅場をくぐれば強くなるみたい
5.NPCにはそれぞれ与えられた役割がある、その役割の中であれば自分で考えて行動する、そして、一般的な会話も出来る、ただしバグに侵されたNPCもいる
6.魔物はプレイヤーを捕食して強くなる、倒されてリスポーンした魔物はステータスは初期値に戻る
7.このゲームでの死は現実世界での存在消滅
とのことらしい、僕も未だに状況が追いついていないけど、とりあえず、生き残るのが目的でいいかもしれない
「一応一通り説明したけど、大丈夫か?」
「……うん、とりあえず…ゲームなら取説見ただけじゃわからないし、プレイするのが一番かな?」
実際、僕は説明書より実戦派だ、プレイして慣れればいい
「そろそろ日が暮れそうだし、近くの町まで送って行こうか?」
彼の言う通り、夕暮れが近づいてきた、辺りが暗くなるのも時間の問題だろう
「うん、じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
シェストは頷くと、僕のペースに合わせるように歩き出した、僕は彼の気遣いを感じながら、1人でこの状況を考え始めた
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しばらく歩き続けていると、シェストが戦闘態勢に入った
「神人、俺の側から離れないで」
「えっ?…う…うん」
シェストに守られるようにして、辺りを見回すと
「シャー!!」
ヘビみたいな魔物が人を襲っているのを見つけた、ヘビと言っても大きめで、簡単に人を締め殺せるぐらいの大きさだった
「ひっ…なんだよ…ヘビのクセに」
襲われてる人は震えながらも木の棒で魔物を追い払おうとしていた
「…あれは、俺たち自警団の警告を無視した新規プレイヤーだな、あんなもので魔物は追い払えない」
やっぱり、淡々とシェストは僕に説明してくる
「なら、助けないと」
僕の言葉にシェストは首を横に振った
「もし、俺が離れれば神人が危険に晒される、今は神人を安全に町まで送るのが俺の仕事だ、それに、プレイヤーの戦闘にNPCが助けに行くのはダメなんだ」
「なんで?…NPCならプレイヤー全員が安全に…」
「言っただろ?このゲームは死んだらお終いなんだよ…今、君と彼を両方失うより、君を絶対に守る方が、俺は効率がいいと判断した」
シェストの効率のいいという言葉は冷酷さがあるように思えた、けど、もし僕がシェストの立場ならどうだろう、人を守りながら目の前の襲われてる人を助けることなんて出来るのだろうか、それこそシェストが言った通り、両方を失う可能だってある、ヘタしたら、自分まで犠牲になってしまうだろう
「……NPCでも、こういう場面は…ツライんだ、クリアする希望を持った君達を見殺しにするなんてね…」
クリアーするのは、僕達プレイヤーであって、NPCであるシェストは与えられた役割をこなすことしかできない、このデスゲームを終わらせることが出来るのはプレイヤー自身だということを改めて実感してしまった、楽観視してたわけじゃないけど、きっと(なんとかなるだろう)って思っていた自分がいるのだから
「や…やめてくれ…うわぁぁぁ!?」
そんなことを考えているうちに目の前の男性は文字通り魔物に捕食された、男性の悲痛な叫び声がしばらく耳に残った、目の前で起きた惨劇、恐怖で体が動かなかった、もし、シェストに出会っていなければ僕も魔物に襲われて捕食されていたかもしれない
『このゲームでの死は現実世界での存在消滅』
再びその言葉が頭をよぎった、その時、僕はとてつもない後悔が襲いかかった、あの時にこのゲームを起動させなければよかった、とか、少しは疑えばよかった、などと、けど、もうそんなことを思っても遅かった、僕に突きつけられた現実は余りにも残酷だった
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その後、どうやって町までたどり着いたかは覚えていなかった、シェストが僕を運んでくれたかもしれない、そして、シェストが宿を取ってくれて、僕は目の前の現実から逃げるように目を閉じた