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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

2015年/短編まとめ

私は、物語の端役でしかない

作者: 文崎 美生

「趣味悪い」


長い癖のある髪を風に遊ばせながら、彼女は校門の方を見ながら呟いた。

この学校は今時珍しく屋上が開放されている。

そして彼女はこの場所がお気に入りだ。

でも、今はそんなお気に入りの場所にいるにも関わらず眉間に深いシワを刻んでいた。


ベンチに座って缶珈琲を飲んでいた私は、静かに体を起こして彼女の視線を追う。

彼女の視線の先には手を繋いで歩く男女の姿があった。

仲むつまじくと言いたいが、こんな所からではそんな判断はつかない。


「あの子、誰?」


フェンスに腕を乗せたまま二人を睨んでいる彼女に問いかければ、ガシャン、とフェンスが揺れた。

蹴ったとかじゃなくて、彼女の体が揺れた時にぶつかった音。

彼女は腕を摩る。


「一年の子。確か名前は――」


彼女の口から出た名前は知らない。

見たこともない子に対して思うことは少ないし、彼女の口から出た名前なんて明日になれば忘れている。

顔を確認しようという気すら起きないのだ。

きっと彼女はそのこの顔は知っているんだろう。

じゃなきゃ、あんな苦虫を噛み潰したような顔が出来るわけもない。


彼女の口からは聞いてもいないその子の容姿の話が漏れ出ている。

髪は綺麗な黒で細くて長くてサラサラとか、目は大きくて少し茶色っぽくて二重とか、身長は150少しの小柄でそれに合わせてか胸の成長が乏しくてとか。

そんな興味のきの字も出て来ない話。


そして冒頭の言葉をもう一度吐いた。

憎々しげに吐き気を催す単語のように「趣味悪い」と、本当に一言だけ。

誰の何の、なんて私には言わなくても分かると思っているのだろうか。

実際分かるのだけれど。


彼女の「趣味悪い」は彼に向けられた言葉だ。

そして最近では彼と付き合う女にも向けられるようになりつつある面倒な言葉。

一番はやっぱり彼なのだけれど。

と言うか、こういう時に吐き出される殺意のような黒々しいものが含まれた言葉は全て彼に向けられている。


先ず始めに交友関係からまとめさせてもらうが、私と彼女と彼は幼馴染みだ。

幼馴染みとか腐れ縁というか、そんなダラダラと幼稚園から高校まで続いた間柄。

そして彼女は彼が好きだ。

多分彼も彼女が好きで間違いはないはず。

私は彼女が好き。

面倒な関係性なのは重々承知の上だ。


そもそも第一に私と彼女は同性なわけだし、彼には現在進行形で彼女かいるわけだし。

縺れに縺れているのも重々承知だ。

でもそんな風に縺れさせたのは彼が原因で間違いないはず。

決して責任転嫁ではない。


「気に入らない」


二つの背中が見えなくなると、彼女は舌打ちを一つしてから、フェンスに寄り掛かってしゃがみ込む。

女の子が短いスカートでヤンキー座りなんてするもんではないと思うが、この屋上にいるのは現在私と彼女だけなので、黙認しておく。


彼はきっと彼女が好きだ。

だけどそれを伝えようとはしない。

私の考えが間違っているんじゃないか、とか言われそうだがそんなことはない。

だって彼はいつも私と同じ方向へと視線を向けているのだから。


「ボクの方が可愛いし」


うん、そうだね。

彼女の方があんな一年生よりも可愛い。

インドア派を自称するだけあって、無駄な日焼けなんてしない白い肌に、ふわふわの癖のある黒髪に、彼の真似をして入れた赤いメッシュが五本。

目だって大きいし綺麗な黒目だし二重で更にまつ毛まで長いし、平均よりも少し小さめの身長だけど出るところは出てる。

完全に欲目かもしれないけれど、可愛い。


彼女はそんな自分に見向きもしない彼に歯噛みをする。

でもそんな必要ないのを私は知っているのだ。

取り敢えず綺麗に伸びた、彼の真似をして黒いマニキュア塗った爪を噛むのを止めさせる。

代わりに飲みかけの缶珈琲を渡せば、少しだけ眉間のシワが薄れた。


「ボクの方が可愛いよね?」


「当たり前じゃない」


食い気味で答えれば、彼女は小さく息を吐く。

そんなに彼が好き?と聞きたくなる。

でもそれはきっと私に傷をつけるだけだから、飲み込んで笑顔を見せた。


彼は彼女が好きだ。

間違いはない。

間違えるはずもないのだ。

だって私が彼女を視線で追い掛けるように、彼もまた彼女のことを視線で追い掛けているのだから。

でも彼女は気付かない。

私も彼女を好きじゃなかったらきっと気付かなかった。


私だけが知ってる事実。

私が彼女を追いかけるから気付けること。

彼女が気が付かないように、きっと彼も気付いていないんだろう。

じゃなきゃ、こんなことしないから。

今にも泣き出しそうな顔をした彼女。

気付いていたら、こんな顔をさせるはずがない。


「……大好き、なのに」


彼は気付かない。

私の目の前で彼女が泣いていることに。

彼女が好きなことに。

気付かないで彼女の意識を自分に向けさせようとして、空回っているのだ。


彼女は気付かない。

彼が何で女を取っ替え引っ替えしているのか。

彼に好かれていることに。

気が付かないから伝えられずに抱え込んで、私の気持ちも知らずに涙を流す。


空回りしているのはこの二人。

つまりは私の幼馴染み達。

私はどうしたって蚊帳の外なのだ。


泣きたいのは、私の方。

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