表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
9/59

放伐の叫び

灰色の巨大な檻が、

キシキシと不快な音を立てながら

ゆっくりと開く。半分くらい開いたところで、

それは急に僕達の眼前へと飛び出した。

骨の剥き出した身体の竜は、

虚空の目玉を動かしているのか判らないが、

こちらを敵と認識したようだ。


骨竜。

想像よりもその体躯はとてつもなく大きく、

骨身にしか見えないその不気味な身体からは、

恐怖と言うよりかは、近寄り難い何かだ。


ゆっくりと、上を向いて延びをする。


隙あり────。


骨竜に、僕はほぼ無音で一気に間合いを詰める。

その速さを乗せて、高速で脚の関節部を斬りつけると、

思わず驚きが出た。


「....!」


固い。そして

何か詰まっているのか、骨身は重そうだ。

刀を振り抜いた僕の右腕には、かなりの手応え。

まぁ、予想はしていたのだが、

予想が的中したせいもあり、

先に考えてあった

おおかたの攻撃法がボツになった。


すると、上から錆び鐘のような、大きな

ゴロゴロと鳴き声が響き渡る。

斬りつけた骨竜の脚を見ると、

白混じりの茶色な骨身にヒビが入っていた。

それはキレるな───

───だが気を抜いて延びるのが悪い。

僕はもう刀を抜いていた。

それはこちらは敵意が有り、

いつでも相手を斬りかかるという確たる証。


───と言っても相手はモンスター、

そんなものは知らないのだろうが。


僕は、

走り出そうとしたのか

大きく蹴り上がった骨身の脚に

刀を平行斬りし、足掛けにした。


ガイの方に向かっているのか───


気付いた頃には、時既に遅し。


よろけながらも骨竜はガイに滑り込みキック。

しかしその場から足を動かさないガイの周りから、

大きな疾風と重い音が響く。

大きな空気の振動と共に、両斧が火花を散らした。


ガイはハチェットで受け止めたのだ。


あの大きな斧二本でか───


その重い両斧は、

傷一つ無く、唸り一つ無く、

難なく受け止めてから、

骨竜の重い足を振り上げ、

身体の一回転の速さに任せて

左肩に担いだ左斧を叩きつけた。


ガイは高速で地面すれすれに右斧を走らせた。

直後、

ノックバックした骨竜の上体は、

ガイの右斧の追撃で思い切り吹っ飛んだ。


かと思いきや 骨竜は、その薄い飛膜を

羽ばたかせて、骨の翼で体は飛んだのだ。


骨竜の浮いた体は───

空中前回りし長い尻尾をガイに叩きつける。


思いの外、ゆっくりした回転。

そこから繰り出す鋭い尻尾のしなり。




───辺りに大きな煙が舞った。

視界が砂煙で覆われる。

遠くで何か重たいものが回転して

遠退き、やがてぶつかる音が鳴り

木々が倒れた。


骨竜の悲鳴にも似た咆哮。


「キェエエエアアア──────」


ガイの隣の地面に転がり落ちた骨竜は、

木々に激突し、その巨躯をギシギシ鳴らす。


ガイは交差した二本の斧をゆっくりと降ろし、

同じくゆっくりと目を開けた。

二本の斧に全くの

重みがかからなかったからだ。


目の前に立ちたるは、


黒髪に後ろで一束に

結ったそこだけ長い髪、黒い外套をその身に纏い、

黒い柄の"刀"なる武器を握る少年──

─────ワイズだった。

少年はいつの間にガイの目の前まで駆けたのか。


いや、ガイが斧を振り上げてから

骨竜が空中回転したあの瞬間しか有るまい。


ワイズは刀を振り降ろした体勢のまま、

ゆっくりと立ち上がり、俯いた顔を上げて

ぶっ飛ばした巨体に顔を向けて言い放つ。


「この男は殺させない───」


その双眸(そうぼう)からは今まで

見せなかった鋭い眼光が放たれていた。


そして、遠くで木々を倒しながら回転して

いったのは骨竜の尻尾。

ガイを叩きつけようとしたあの長い尻尾が、

根元からへし折れて木々を薙ぎ倒していたのだ。


ワイズがあの尻尾をへし折ったのだろうか。

あの刀だから可能な事なのか。

魔法で作られし折れない刀。

その唯一無二の優性がワイズに力を与える。



"これさえ有れば僕は何処までも行ける"



あの言葉に二言も一欠片の嘘も無かった。



茶色くてモフモフした毛並みの相棒は驚きを

含んだ声を漏らす。


「助かったぜ、ワイズ」


僕は骨竜から目を離さないで返す。


「礼には及ばん、それに礼を言うにはちと早いぜ」


尻尾を失って尚も、しばらくバランスの取れずに

立ったり転けたりしていた骨竜がコツを掴んだのか、

遂にその巨体を持ち上げてからこちらを()めた。

虚空に見えるがその立ち姿からは、

明らかに尻尾を斬られた事への

怒りが込められているように見えた。


「ガイ、今度は足だ」


相棒の短い指示。それに従おうと

思う前に、どちらの足かとも迷わない。


勿論、ガイに蹴りを入れた方の足だ。

あれには一度、ガイの重い迎撃が

入っていた筈だから、脆いはずだ。

ガイは「ああ。」と言って頷いてから

再び深く腰を下ろしてから、二本の愛斧を構えた。

ワイズは左手を刀から離して右手だけで刀を握る。

その構えは、何処か遠くの地で

幾度となく使われていたのか、迷いなく

ブレの無い研ぎ澄まされた片手中段の構えだった。


するとワイズの髪が揺れ、


「行くぞ」


一言言い放った後、

ガイの目に焼き付いたのは、

ワイズの揺れる尻尾のような後ろ髪と、

黒い翼のようにはためく長い外套だった。


ワイズに続いて走ったのにも関わらず、

ワイズはぐんぐん加速し、ガイを引き離す。

向かいからは

立ち直った骨竜がこちらへ突進してきていた。


一足先に骨竜の目の前に躍り出た

ワイズは、有ろうことか

無傷の足の前で一気に減速。

そこへ骨竜は無傷の足で蹴りを入れた。

それを難なく避わしたワイズは、

貼り付くように握った右腕を

脆くなった足へ叩き込む。


無傷の足を攻撃すると

見せかけたフェイントだ。

これで骨竜は下手に体を

曲げられなくなった訳だ。


ワイズは

更に二撃、三撃してから

骨竜の戻ってきた足の(かかと)落としを

素早くに避わして、


「ガイ!!」


鋭く叫ぶのに

待ってましたとばかりにガイは叫び返す。


「応おぁああ!!」


ガイの孟スピードダッシュだけでも

常人離れした速さなのに

それを超えるワイズの疾駆とは如何なものか。


二本のハチェットを地面と平行に並べて、

最早隙だらけの、直立した片方の関節部めがけて

今度は吹き飛ばすつもりで思い切り叩き込んだ。


思いは通じたのか、

骨竜の傾きと反して、生物的にヤバイ音を

立てて骨竜の膝から下が砕け、

関節なる固い部分が吹き飛び、

森の中の一本の木が根っこごと引っこ抜けて

吹き飛んだ。


先が飛んだ脚をぶら下げて

両翼で飛んだ骨竜は、もう一本の足で

ガイを踏みつけにかかる。

斧の重みを一気に殺しているガイは

まだ避わすまでには立ち直れない。

下手に斧を回転させようとすれば

その獣人の手首をもってしても折れるだろう。


しかし、ここぞというときの相棒。


ワイズは跳ねて

骨竜の剥き出しのあばら骨目掛けて

渾身の右手突きを放った。


「っやああああ!」


腹の底に力を入れて放伐の叫びを森中に響かせる。

ワイズの刀は月光を受けて美しく輝くも、

高く悲鳴じみた金属特有の悲鳴を上げて一閃。


骨竜の片方の胸骨を粉砕した。

割れた骨の隙間からどくどくと動く

心臓と呼べるべき器官が露になる。


骨竜は悲鳴を上げて再び華麗に吹っ飛ぶ。

もう、ワイズの攻撃に限っては重みなぞ

関係ないのではないかという

謎の感覚に襲われるも、実際

両斧でぶっ叩いても両手首には

大きな反響が有った事を思い出す。


そして立ち尽くしていて気付いた。

派手な音をたてて吹っ飛んだ骨竜は

いつの間にか片方の目が潰れ、

弱っているのか、それともまだまだ余裕なのか、

睨むもう片方の目で歪めた顔をこちらに向けて

飛び立つ。


攻撃か────と思えたが、

骨竜は高度をどんどん上げて最終的に、

顔を別方向に向け、飛び去ってしまった。



突いた刀を一振りしてから鞘に戻すワイズ。

ガイの方へ顔を向けて、右手の親指を突き立てる。

ガイはそれに微笑みかけ、

ワイズに近付いて二人で、

二つの拳を突き合わせる。

そこでガイの一言。


「ミッションコンプリート」


ワイズも続いて、


「ああ、任務遂行(すいこう)だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ