炎を捨てた者
走る、走る。
家と家の間を縫って。
試験時間、のこりわずかを知らせる鐘の音が
鳴り響いた。次の鐘が試験終了の合図だ。
ガイの瓶を見る。
「二本か」
ガイは二つともいけるか?と言う顔をする。
僕はとりあえず、
残りの住所を把握しておくべきだな。
「ガイ、今覚えてる住所を全部言え」
「あぁ、ええと、一つ目が....」
訊いてみて思う、両方近いぞ?
僕がそんな顔をしていたのか、
相棒は笑いながら言い放つ。
「俺はまだまだ走れるぞ」
「僕だって」
「よし、行くか!」
「御意」
一瞬、ガイの顔が、こちらを見たが
僕がスピードを上げたことで、気にしなくなった。
最後の二本を届けた瞬間、
試験終了を告げる鐘が鳴った。
僕らは道場に戻った。
戻ってきて、隣に座る相棒が口を開く。
「結構運んだよな、俺達」
「ああ、そうだな」
僕は宣言通り、ガイを守り切った。
絶対強いはずのハチェットをあえて持たず、
試験要項の瓶の運ぶ事を重視して、
僕が二本持つように言ったのだ。
そして、結果や如何に。
審査員が大きな丸まった紙を抱えて、
道場の壁へ貼りに来た。
それを見た人々は、わらわらと紙に寄りに行く。
どうやら結果が書いてあるみたいだ。
相棒が立ち上がり、
「見に行くか」
「その必要は無い」
僕の言葉に、ガイは紙の方へ目をやる。
「でも、字が小さいし、
ここからじゃ遠くて見えないぜ?」
「わざわざ向こうまで行かなくてもいいだろう、
僕達は合格してるよ、ほら左上の一番目」
えっと言う顔をして、相棒は
向こう側の紙へ目を凝らす。
僕は静かに言ってやる。
「行って見て来いよ」
「応!」
孟スピードで駆けていった、
細くて長い尻尾をゆらしながら。
やがて帰って来て、
「本当だった。
ホワイト・アウトの奴等は皆して
そんなに視力が良いのか?」
「いや、僕とラガルだけだと思うが」
そんな他愛ない会話も束の間。
次の試験もどんどんクリアしていった。
制限時間付きランニング、
泳術に崖登り、
そして最後の試験を受けるべく、
僕達は暗闇の森林の奥地までやってきた。
審査員が試験の説明を始める。
「これから、皆の衆には
ペアでモンスターに挑んで貰う」
ざわざわ、と群衆が話始めた。
群衆、と言っても朝と比べてだいぶ減り、
今は二十人程になっている。
更に審査員の説明は続く。
「今までの成績で、
低い得点を獲得した者達には弱いモンスターを。
高得点を獲得した強者どもには、
よりランクが高く強いモンスターを!
....これからは命が賭かった戦いだ、
辞退する者はこちらに申し出るように、
以上、解散!!」
茶色い獣の相棒は真剣な顔をしながら
僕の隣に立つ。
「いよいよだな。向こうの木に、
相手のモンスター名を張り出してるみたいだぞ」
「見ておこうか」
「流石に暗いと見えないんだな」
「うるせえ、ラガルの方が夜目が効くんだよ」
ゆっくり歩いて、試合表の元へ歩み寄ってみる。
そして、そこの一番上に書かれていたのは、
やはり僕らのペア名。
対戦モンスター:グレイヴドラゴン。
「戦った事無い....」
僕は不意にそう呟いていた。
「....!!」
隣の相棒が驚きに満ちた顔をしている。
まぁ、知識が無い訳ではない。
大体の生物のレクチャーは、
ギルドマスターことマグナから受けている。
グレイヴドラゴン。闇夜に紛れ、
狙った獲物を、骨の姿をした"死"が食らう。
その姿は正に、
墓から蘇ってきた竜の様だと。
昼に見る竜は骨の姿にしか見えないが、
夜になると、骨竜は真の姿を露にする。
体内で火を生成する、火炎袋なる器官が
存在しないので、またの名を"炎を捨てた者"と言う。
相棒が紙を見つめている隣で、
僕は多分........笑った。
「ガイ、この試験────勝つぞ」
ガイは僕の目を見る。
その双眸には、希望の光を宿していた。
「ああ、やってやろうぜ!」
僕らは強く拳を打ち合わした。
上位メンバーの五ペアが辞退したことを知らずに。