絶叫
火の粉が舞う戦場。あちこちには敵兵の亡骸が転がっている。倒れる前に僕が全部やったんだ。奇襲をかけた兵舎に生きている人は居ない。同じく実験施設にも。
そこまで見ながら歩いて来て、僕はようやく蛇龍の御座す闘技場の門をくぐった。
「なんだ......これ......」
そこには氷漬けになったような蛇龍の姿。観客席の方を睨めて固まっている。その観客席には、二人の少女が倒れていた。その傍らで輝いているのは......黒い剣!!
ユウリ!!!
その光景から、ようやく過去の記憶が繋がった僕はユウリの元へ全力疾走した。傷だらけのユウリと傍らには無傷のミーシャだ。蛇龍以外の敵は居ない。観客席を見回すが、他に倒れている人は居ないようだ。まるでこの空間だけの時が止まっておるかのよう。時が止まる?
「ユウ......リ......」
先日、フールと交わした話を思い出した。ユウリの黒結晶の輝剣は、念じることで記憶を媒体にして水晶の撃ち出せる。結晶弾自体が強力であるため、記憶の消耗が激しい。
では、この有り様からは、どれほどの記憶が失われたと推測できるだろうか......。輝剣の力を解放したという推測に違いあるまい。だがこの巨大な蛇龍を覆うほどの結晶とはどんなものだ?
今まで憶えてきた物を、丸ごと脳から引き摺り出すような程じゃないのか。それはつまり、目覚めたユウリが僕の存在を忘れている可能性が非常に高いということ。
「ミーシャ、訊こえるかい。ミーシャ」
ユウリの側で倒れていた無傷のミーシャを揺すってみると、ゆっくりとその瞳が開かれた。
「......? ワイズさん、ここは......っ!」
そのまで呟いて目が覚めたらしいミーシャは、慌ててユウリの元へ駆け寄った。
「ワイズさん!! ユウリがこの黒い剣から大きな結晶の波を放って、あの蛇の化物を凍らせたんです!」
「その後ユウリはすぐに気を失ったのか?」
ミーシャは僕の言葉を訊いて悲しげに俯いた。
目覚めたユウリには僕やギルドの皆の記憶が無いだろう。ユウリに剣を売った人間に魔剣について尋ねてみるか。今の僕には魔剣について全く知識が足りない。......マグナに尋ねるべきかな。
ミッションを達成した僕らは、ギルドのメンバー達に保護され、ミーシャとユウリはギルドへ送られた。
マグナに魔剣について尋ねたい僕は今、薄暗い森の中ををひたすら歩いている。
ここはガイと初めて出会った森だ。
「あと少しでホワイト・アウトだ」




