限界超過
どれだけ眠っていたのだろうか。天井からして、ここはギルド内の青棟、僕らの部屋だろう。更に目を開けると、ケモケモが怖い顔でこちらを睨んでいた。
「こっち見んな」
「......御免な」
あっさり折れた。残念そうな顔で立ち上がり、扉の方へ向かったガイの背へ声をかける。
「なあ、ユウリは」
ぴくりとガイの肩が跳ねた。ゆっくりと振り返り、俯いたまま牙だけを剥いた。
「黙って......寝てろ」
相貌は静かだが、明らかに怒りの声が隠っていた。やはりあの後のユウリに何かがあったに違いない、早く......っ!? 動けない。これが麻痺なのか呪いなのか、それとも何か魔法なのか全く理解出来ないが、身体のあちこちに痛みが走っているのは判る。ちゃんと何かに集中していなければまた意識が飛びそうだ。
「ざ......ろ」
さっき言葉が発せたのは奇跡だったのか、ものの名前が言えない。ものは意識の中で呼んでも来たと思うので、心の中で呼んでみる。
すると開いた窓から一匹の雀が桟に着いて一回鳴いた。雀呂だ。何で蛇龍の時に来れなかったんだ?
「ワイズ!!」
鳥らしい高い声、必死さが見てとれるのは、ひょっとすると僕のことを探していたからなのかも知れない。して......喋れたんかい、まあ今はいいや。
「存在が全く認識出来なかったのに、弱ってくのだけ判るから、かなり焦ったぞ! 死んでしまうんじゃないかと思った!」
僕が今動けないのと関係あるか? あと、身体のあちこちが痛い。
枕の隣まで飛んで来ると雀呂は目を細めた。
「神格が消えかかってる! カイナとのリンクが完全に切れてるのが原因だな。今まではアイツのお陰で、いくら身体に負荷をかけても問題なく動けてたが、純人間になりかけてるせいで、筋組織が悲鳴上げてる。誰かの治療魔法があったみたいだな、心臓が生きてるから、フル活動で自己再生が始まってる」
人間の身体になってるということで、つまり負荷をかけ過ぎて限界を超過してる状態なわけか。
「まあ、人間じゃない動きしまくったらな......。これ食べろ、魔物の干し肉だ」
雀呂はあろうことか、口から肉を出して枕の隣に出した。雀呂さん、これは?
「ああ、動けないんだな。よし、口開けろ」
今尚血が滴る肉をクチバシで摘まんだ雀呂に全力で抗議する。待て待て待て! 落ち着け雀呂!? 何の真似だ、そんな物を食べられるかよ!
「いいから食えって! 魔力があるからワイズの無敵化が戻るかも知れんぞ」
口の中に血の味が広がる。僕の口は開いてたのか、それともこじ開けられたのか。魔物の肉は食べて素直に喜べる味ではなかった。だが身体中から痛みが消え去った。
「肉、効いたみたいだな。痛みは治ってないみたいだけど、ワイズの身体中を包む魔力を感じたぜ」
「そうみたいだな」
やっと口が開けて思わず笑みがこぼれた。
「今にも暴れ出しそうな笑みだな」
僕は布団から出てきて、壁に立て掛けてあった刀を掴んだ。
「......まぁ、な」
仕返しをしなければならない化け物が居るんだ。そいつと決着を着けるために、僕は何度でも立ち上がる。先程は死にかけたが、次は負けてたまるものか。ワイズは心の中で静かにそう決意し、いつもの黒衣を羽織ってギルドから出た。




