降伏 ─リザイン─
自軍のリーダーと、
かなり負傷している
残り数名は囲まれて後ずさっている。
見たところ、
取り囲んでいるのは後から
入ってきた雑魚の国の方で、
聖イースト王国の大将は馬を失い、
さらにはもう部下一名しか居ないらしい。
その分こちらの軍も消耗が多い。
周りを見てみると、
自軍の死体が多いのだ。
おそらく援軍も全員やられたのだろう。
雑魚国の大将と失馬の大将が
自軍のリーダーに剣を突き付けた。
リーダーが一歩下がったところで、
失馬の大将が嬉しそうに首を傾げた。
そこへ僕らの介入。
僕は素早く、無表情で刀を
失馬の大将の首へ突き付けた。
その瞬間、
大将が表情を引き吊らせた。
「........黒犬!?
オーグ・ストライクは!?」
僕の後ろに目だけを
やった大将の顔は青ざめた。
その目には、半分になった
いくつもの死体が写っているのだろう。
「........たったの
一人で蹴散らしたのか....!?」
ガイの存在を知らない
らしい失馬の大将は慌てて
ガイに剣を突き付けた。
あわせて雑魚国の大将も突きつける。
ガイはいかにも獣らしい
獰猛な笑みを浮かべて
双方に二本の斧を突き付けた。
失馬の大将は更に
青ざめながら振り返ると
そこには、
嬉しそうに小首を傾げている
自軍のリーダーが、失馬の大将の
喉スレスレに剣を突き付けている姿があった。
やがて、失馬の大将の口から
すんなりと言葉が転げ落ちた。
「リザイン........ワシらの負けじゃあ」
一息付いた自軍のリーダーは
背後の兵に指示を出した。
「コイツらは縄で縛れ、捕虜だ。
取れるモンは全部取っとけ。
おい、お前は救護班呼べ。
援軍はこっち来てるんだったな、
ならしばらくここで待機だ....」
そこまで言い終えて、
リーダーはこちらに目線を送ってきた。
「おい 黒犬、ガイ来い」
僕は刀を納めて走って行く。
リーダーは腰に手を当てて
ガハハと笑いながら、
「いやあ、死線の援護助かった。
スジャに還ったら真っ先に
軍部に寄ってくれ、そこで報酬を渡す。
あと、今後の軍の方針の会議な。
国王様もお見えになる、
だからその二人の汚い服装での
出席は遠慮してくれよ?」
「「え」」
「じゃあ、そういうことだから 解散」
僕とガイは顔を
見合わせて同時に溜め息をついた。
──────────────────
オーグ・ストライク帝国軍本部。
そこには、
紅を基調とした軍服を着た細身の男と、
背が高くて背中に蛮刀を背負った黒髪の
男が同じ何かを眺めながら話していた。
軍服の男の片目は潰れていて、
瞼が閉じられている。
「ノーザン、
ウチの軍の末端部隊ってわかるか?」
ノーザンなる蛮刀の男は、
ボサボサの黒髪を風に揺らしながら
腕をだらりとさせて気だるげに返した。
「それ、強い?」
「いや、大して
強くないから末端なんだが....。
一○一五、一○一六部隊が同盟国の
補佐に向かって全滅したらしい。
結局、同盟国はリザインしたらしいぞ」
「へえ.....全部やった国、強いのか」
「いや、ウチは帝国主義だから
軍事に発展してて強いんだぞ?
まあ、スジャって王国の軍力は
そうでもないらしいけど、
今時珍しくギルドの連中を
遊撃隊として動員してるらしいんだ。
いやいや、それは今回関係なく.....」
そう言って軍服の男は
服から紙切れを出して読んだ。
「いやあ何でも、
ドワーフと黒髪の少年二人が
一瞬で蹴散らしたんだってよ。
これってたぶんマセ情報だよなぁ」
ノーザンは、"黒髪の少年"
というワードにぴくりと反応した。
だがすぐに気だるげに戻って、
「マセかマジかは
この際置いといて、
アンタ今日は"いや"多いな」
「スマン、でも仮に真実なら
斬りたいと思ったその時に直ぐ斬れる
その、ええと剣じゃなくて────」
「刀」
「そう、刀!.......名前なんだっけ」
「....覇理選」
軍服の男は肩を
震わせながらしばらく間を置いて、
「どんな魔刀の名前であろうが、
オイラは人間が出来てるから
ゲラゲラ笑ったりシナイヨ?」
「なんで最後疑問形だったんだ?」
「気にすんな、
まあどのタイミングから、
どんな間隔からでもその馬鹿力で
相手の武器を斬り伏せられるなら
結構なことじゃないか。
オイラ達の研究はアンタのそれを
元にだいぶ研究が進んでるしよ。
もうすぐこの一帯で実験が始まるぜ」
「魔剣の試運転か、
この一帯 火の海になるぞ」
軍服の男の
顔色が急に変わった。
閉じられた片目に
そっと手を当てて
さも憎々しげに呻いた。
「そのくらいじゃないと
ホワイト・アウトの黒犬を
殺せねぇんだよ、どんな奴かは
見たことねえが今度こそ必ず......」
場所戻って、
スジャの服屋を訪れた野郎二人は、
─────────悩んでいた。
「王様に会う服ってなんだ?」
耳をピコピコさせながら
真顔で悩んでいたガイが口を開くと、
「僕はこの格好で会ってるぞ」
衝撃のカミングアウトに
ガイは嘘つけ、といった顔で、
「スジャ王様と知り合いなのか?」
ワイズはしれっと、
さも当然そうに返した。
「まあ、僕はマグナの狂犬だからな」
ガイは目を輝かせて、
「すげえ....じゃあ、
ワイズはずっとその格好で会うんだな」
「ガイの選ぶ礼服.....僕も買おう」
「お、おお.......
これは俺のセンスが問われるか?」
結局、ガイは店員にドワーフ専用の
礼装を見繕ってもらい、
ワイズも同じドワーフ専用を、
という訳にはいかず、
結局ワイズの礼装も店員に
見繕ってもらったのであった。




