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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
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tall tall tall

太鼓の音が一回。それに続き人が騒ぐ大音響。それらを確認して、僕は手早く相棒の手に持つ二本の瓶を守る。


「狙われてないんじゃないか?」


後ろから相棒の声。


「よく訊け、瓶の割られてる音は鳴ってるぞ」


人々の走る足下を見ると、確かに割れた瓶とこぼれた牛乳が見える。ここで一本割られても、残り二本は有るから取りに戻りはしない。

仮に取りに戻るとなると、もう一度このデカい建物へ入り、一番奥の瓶の山まで駆けねばなるまい。それはたいへん非効率だ。そうならないようにこの三本の瓶を守り抜き、ガイと僕を合格させねばならない。口よりも体が先に動いた。


「ワイズ、走るのか?」


「ああ!しっかり瓶を握ってろよ?」


「アンタこそ!」


拳同士を突き合わせる。人混みを一気に駆け抜ける姿はターゲットされ(やす)いだろう。しかし僕の脚力だ、そして獣人の相棒

()ける自信しか無いがな。

そう考える一方で、ガイの方から声をかけてきた。


「意外と走るの速いな....!」


当たり前だ、これでずっと戦場を駆けて来たのだ。


「"黒犬"だからな、当然だ」


「じゃあ、もっとスピード上げれるか? 追っ手は直ぐ後ろだぞ」


振り返ってみる。確かに数人、明らかにこちらをターゲットして走ってきている。後ろからついて来るガイの顔は な? とでも言うような顔になった。僕はそれに頷いて、


「よし、スピード上げるぞ」


思い切り走った、町中を。後ろを見て曲がり角を突っ切り、暗い路地に突っ込む。僕は息を整えながら、


「一番、近くの住所は?」


しかし相棒は首を横に振りながら短く答えた。


「ここの地理は知らん」


なら、ちと姑息かも知れないが、


「覚えた住所の、断片を言え。僕はここへ、何度か来た事が有る」


「覚えてるのか!?」


と言いつつも、ガイは覚え切ったその一つの住所を口にした。


「判った、そこはお得意様だ」


この時の僕は笑っていたのかも知れない。


疾風のように走っては、隠れる。この動作を繰り返して動くのが割りと安全と、二人で判断した。人通りが多過ぎて壁沿いを歩けない僕たちは、背中を守るものが互いの視覚と聴覚しかないのだ。僕はガイを全力で守り抜くと決めた。

だからこの瓶と刀は離さない。

そしてガイの正面と左右を警戒する。ガイは後ろだけを警戒するように言っておいたが、後ろを向いて歩くのは怪しいので、獣の持ち前の気配察知で相当警戒している。


そして僕は止まる。


「着いた、ここで違いない」


瓶は玄関前の魔方陣に置くことで、ポイントが加算されるらしい。試しに僕のを置くと、瓶が転移(テレポート)した。ガイがそれを見て呟く。


「何だ、消えたぞ」


転移(テレポート)だよ」


ガイはあまり魔法を知らないのか。

家の敷地から出て僕は足を止めた。それを見てガイも足を止めて険しい顔になる。


「ワイズも判るのか?」


「まあな、この先でガイの瓶を狙ってる奴がいる」


殺気じゃないが、一際強い視線は感じられる。


「同感だ」


ガイが答えて、小さく囁く。


「突っ込むのか?」


「───いや、動くな」


「っ!?どうしてだ、狙われてるんだぞ?」


ガイが僕の肩を瓶を持つ手で触ろうとするのを制す。


「相手はこちらが瓶を持ってるのか探ってる」


「───なに」


「もう少しだ」


ガイは素直に手を下ろしてくれた。


「判った」


しばらくして、僕はガイに視線を送る。


「行ったな。さっきはありがとう、ガイ」


「気にするな、それよりも前を見ろよ」


判ってるよ、と言わんばかりに僕は刀を握る右手に力を込めた。


僕の正面には、デカい男が三人立っていた。僕の二倍くらい背は有りそうか。デカい男の一人が口を開いた。


「何だ、この小さいのらは」


そしてもう一人。


「おい、見た事有る小っせえバケモンが居るじゃねえか」


三人がにやけながらガイを見た。僕はどうするべきだろうか。僕がそう思ったのと同時に、ガイは口を開いた。


「久し振りじゃないか、アンタら相変わらずデカいな」


ガイの言葉に、最初に口を開けたボス(格)が返す。


「無駄口叩いてんじゃねえ、瓶を持ってんなら寄越せよ。」


続いて下っぱも続く。


「ガキはこんなのに参加せず、遊んでるのがお似合いだぜ?」


どうやらお知り合いか、アンタらは。


「ふざけんな、こっちにはなぁ───」


ガイがこちらを見て、僕の名を言おうとした瞬間、僕は刀で一閃。


「ワイズの、解・体ショー!!」


我ながら意味不明である。


ええい、構うものか!


僕は右腕を思い切り左に薙ぐ。


「....」


「....」


「....」


僕の相棒も呆然(デイズ)しいている。


「....」



とは言っても、三人の履き物はするりと下に落ちた。


「な、なに!?」


「このガキっ!!」


ボスっぽいのが僕に掴みかかろうとするが、下っぱが先に逃げた。もう一人の下っぱが叫び、落ちた履き物につまずく。そして気付いた。


「おい、待てっ!!............!?」


道行く人々の視線がどんどん集まっていた、これが狙いだ。


「チッ!覚えてやがれっ!!」


二人も下っぱの後を追って、駆けていった。


ガイは僕に問う。


「あれが狙いだったのか?」


「いや、でも───」


僕は相棒に振り返る。


無闇(むやみ)に、僕の名前を出さないでおくれ。この作戦は、あくまで誰にもバレずに合格する事だ」


「っ!?───あぁ、すまない。取り乱していた」


ガイは肩を(すく)めた。

言い過ぎたかな? 僕は一つ息をついて、ガイの肩をポンと叩く。


「まぁ、あんだけデカかったらなぁ。行こう、次の場所へ」


ガイが顔を上げて、大きく返す。


「ああ!」

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