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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第二章 ─排斥─
48/59

平面の女神:プレイナ

心臓部から血が吹き出したかと思うと、

その手に握られたるは、紅色の刃。

その色はまるで、刀を思わせる輝き、

握っている部分を除けば、

それには柄や鍔の無く、刃だけの刀だった。

それには一撃必殺を彷彿とさせる

鋭さを秘めているように見えた。

あんなに(ぬめ)って温かかったのに、

今は握っても硬く、氷のように冷たい。

ゆっくりと倒れてた

ヘイズの体からスッと、

浮き出るように声の主が現れた。

黒くて長く、

流れるような艶やかな髪。

神自体は腹の長さまであるが、

肩あたりで結ってあり、

それが肩から胸の方へと伸びていた。

いつもヘイズからする

柑橘の香りが僕の回りを包んだ。


髪に反して肌は白く、

月光に照らされたそれは

妖艶とも呼ぶべき。

ヒラヒラとした布で、

素材がそれ一枚だけだと思わせるほど

簡素なワンピースの白は、

髪や肌を強く誇張し

妖艶さを一際目立たせる。

カイナ曰く、あの女の名は平面の女神。


「ワイズ、元気かえ?

しばらく見ん内に大きゅうなりおって。

.....こっちにおいで、な」


手をこちらに差し出して、

招くように手を振る。

前のカイナを見たが、

動くどころか僕の方に

振り向こうともしない。


ゆっくりと歩いて

カイナの隣を過ぎる、そして女神のもとへ。


"痛みとは基本的にその時だけだ"

という思考があるからか、

とれた左腕の痛みなど とうにどこかへ行った。

もしかすると、まだ痛いのかも知れない。

しかし今の僕には、

それが感じられないのだ。

真顔で歩いていると、

女神はヘイズに手をかざした。


「どうかしたかえ?

もしや.....産みの親の顔も判らぬのか?

まあ、今は平面の女神なんぞやっておるが」


ヘイズは生物的にあり得ない動きで、

倒れた状態から猛スピードで立ち上がった。

構えも無く人形めいた動きで俊敏に駆けて、

カタールの芯で僕目掛けて殴り付けてきた。


今の僕にはヘイズの

全体が見えていたため、

動きの少ない動きで難なく、

摺り足で避けてカタールの

軌道を血の刀で反らすことができたが、


「アンタ誰だ」


ヘイズが唐突に気を失ったのを直ぐに

抱き止めて、産みの親なる女神の方を見た。

少し、笑っていた。


「ほうほう.....

妹を操ってもこれは丸判りか。

傷つけないところから、

感情はあるのかえ。

(わらわ)はプレイナじゃあ。

随分と強くなったみたいじゃが、

ワイズはそこまでなって何を目指す?」


「人の話を訊け」


急に顔色を素に戻したが、

驚きの表情になった後

唐突に楽しげに笑いだした。


「カカッ..........笑わせよるが。

その右手に握る物見て、

そちはまだ自分を人間と言えるのかえ、ん?」


この血の刀のことか........?


「神間らしいが僕は...

人間の見てくれだ.....」


僕の(げん)に目を細めた。


外面(げめん)は菩薩、

内心は夜叉にでもなったつもりかえ?

...............難儀よのう、

その身はもっと醜いものと判らぬのか」


外面は菩薩、

つまり優しく温かくまるで人間のよう。

内心は夜叉、

夜叉とは鬼のこと、

つまり外面(そとづら)とは偽りのある心のことだ。


神が人間と交わることは禁忌だ。

多分この女神はそのことを言っている。

所以は判らない。

だが、神と人間が交わって

その仔にいいことが起こった歴史は、

今までに一度も無い。


誰のお陰さまでそうなったと思っているのか。

だが現実、醜いのは神間である僕の方だ。

親は神と人間、両方死んでいるのだから。



.....この言い方だと、

神も死ぬことになるのではないか。



「その問いの答えは簡単じゃあ。

私は人としての役目を終えた、

だから本来の神として存在している。

それだけのことよ」



曖昧な答えな気がする、

だが、人の心を読むな。



「悪い、でも親としては仔どもの

精神状態を気にするのは至極当然のことじゃよ」


「だが心を読んでいいことにはならない」


「そうじゃな、悪かった」


「意外にあっさりしてないか?」


「当然の事じゃないかえ?

さっきから私は母親だと言っておろうが。

可愛い仔どもが拒むなら、無理に口出しはせん」


「────解った」


「うむ、

素直な仔は好きじゃ........。

おい、(かいな)


急に目の色を変えた母親は、

僕の後ろに立つ鬼の武士へ

大きな声音(こわね)で呼びつけた。


「用か」


「用もなにも、

下位神の分際で私の仔に

とり憑きおってからに........。

貴様が原因でこの仔に何か

あったら、消すだけじゃ済まさんぞ」


「先程の物言いと随分違わないか。

まるでその子を貶していたかのような...」


すると女神はスッと僕の元へ来て、

魔的な笑みで僕の肩に手を回す。


「あんなものは、ちとした挨拶じゃあ」


「....」





──────────────────

あの後、平面の女神はヘイズの中へ戻った。

女神と何かを話していたカイナもまた、

僕の中へと消えた。

同時に血の刀も

どろどろになって落ちたのだった。

あれで人を斬ることは無かったのだが、

ヘイズから受けたカタールの突き技を

難なく反らせた時は、

刀より扱いやすいなと思った。

一方、カタールの方は

使い物にならなくなっていた。

血の刀の切れ味が良かったのだろうか、

先端部の重要な刃先が欠けていた。

はてさて、その使い主は今、

僕におぶられているのだが、


月光の明るい道を、

オーグと二人で歩いてゆく。


「ヘイズの母ちゃんに....謝られた。

それとワイズに、ヘイズを宜しく頼むって」


僕は驚いて、

隣を歩く僕より背の高い男の顔を見た。


「........僕の知らぬ間に。

オーグは、ちゃんと

どういたしましてって言えたか?」


オーグは知らぬ顔で、


「おう、言ってそのまんま、

こっち帰って来たけんどな」


少し安心した僕は目を細めて、


「じゃあ、もう恨みっこ無しだぜ?」



あんなに嫌っていたのに、頑張ったんだな。



「判っとる、

ヘイズには宜しく言っといてくれんか?」


「明日、顔を見せてやらないのか?」


「ワシは明日任務じゃ、

それもクリムゾンの方」


僕はしばらくしてから、


「解った、伝えておこう。

オーグ、また帰って来いよ」


オーグはケラケラ笑いながら、


「ホワイト・アウトの誰だと思ってやがる」


しばらく間を空けた僕は、


「凄腕の鍛治士、

オーグ・ソイス殿にあります」


オーグはまた笑った。そして

分かれ道に差し掛かったところで、


「宜しゅう。じゃあな、親友」


「........おお。また、会おうぜ」


薄い黄色のパーカーが月夜に映える。

それはまるで、月光を放つ服かのよう。

おぼろげなその背中は、

背筋が真っ直ぐで、がたいのいい。

夜の道をゆっくりと歩いて行った。


「....ヘイズを家に帰そう」

そう言えば

『ヘイズを宜しく頼む』

ってどういう意味だ?

僕に預けた、という意味なのだろうか。



ヘイズの家の鍵は開いていた。

それどころか、

玄関口には鍵とロケットが落ちていた。

ロケットの中には、

幼きヘイズと、その義母の写真。

二人とも光るような笑顔だった。


僕はその後の記憶を覚えていない。

ヘイズを部屋の布団に寝かせて、



───────どうしただろうか?

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