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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第二章 ─排斥─
47/59

召喚

左目から得られる情報が無い。

目の前の少女、変貌した

僕の実妹によって突き抜かれたのか。


間合いを取りつつ刀を抜く。

焦らないように相手を捉えるも、

左側から大量の出血。

次の瞬間には左腕が吹き飛んでいた。

僕の右目には、

それまでの過程が何も写らなかった。



────速すぎる。



いつもの動きじゃ有り得ないスピード。

次の突きを片腕で反らす。

大量の火花を散らした後、

両カタールからの更なる追撃が続く。


焦るなよ─────僕。

僕にこの妹への圧倒が許されるなら、

少し傷つけてでも

攻撃を止めさせる事ができるなら、

そこまで条件を絞ると直ぐ様、

一つだけアイデアが浮かんだ。


しかしそれを実行するためには、

妹の手首に刀を這わせて

少しの血を流させねばならない。


僕は相手に反撃するべく、

刀を逆手持ちに切り替えて高く跳ねる。



来い!腕を上げろ、ヘイズ!



ヘイズが空中の僕めがけて腕をしならせた。

その腕へ命中率高めの安定した返し斬り。


強く握るこの刀の切っ先が

まるで手のように従順に動く。

その動きを完全に理解した上での薄皮斬り。


着地した後、全力でバックステップ。

かなり距離を取ると、

右手が勝手に刀を下に落とした。


「片手の音声(おんじょう)を訊け、ヘイズ!」


ヘイズは薄く斬られただけの自分の手と、

刀を落とした僕を交互に見て立ち止まった。



僕の右手はまるで自然の流れのように

頭上まで上がると、そこに何もない

(くう)を叩いた。


パン、と乾いた音がした。


片腕はもう無い筈なのに────

音は鳴ったぞ───?



ヘイズが目を見開いた。

僕は自然と口は決まり言葉を唱える。


「隻手の音声(おんじょう)、響きたり!」



胸の奥で波紋が広がったイメージ。

そう言えば、

右手で叩いても良かったんじゃないか(かいな)


ヘイズの切れた手首から、

血の気がうねりながら

煙のように僕の胸へと集中する。

その瞬間、左胸に激痛が走った。


痛い、痛いけど声には出さない。


痛いのはその瞬間だけのはずだ、

そう思うことだけに集中し、

僕は痛む左胸を強く掴む。

すると掴んでいた血気が伸びた──────


抜けるぞ?


痛みが和らぐその感覚を辿(たど)るように、

ゆっくりとその"血"を引く。

形ある その手に握られたる物は濃い赤色の刀。

不知火のような、攻撃を反らす(つば)は無く、

ただ斬るためだけにあるかのようなもの。


胸の痛みはもう無くなった。

代わりに押し寄せる寒さは、

まるで死を予感させるかのよう。

先ほどからもう観測されている通り、

身体には形質保持の能力は作用しない。

だが体の中の組織には

だいぶ作用させる事が出来るようだ。


心拍は速いが呼吸が楽になってきた。


「我が主、それが腕引(かいなひ)きだ。

思いの強さでその切れ味は万物を斬り裂く」


カイナの声だ。僕だけにではなく、

おそらくはヘイズにも届いている。

それは声の主が僕の目の前に現れたから。

頭蓋のようだが、

恐らくは鬼の(つら)で牙が剥き出しだ。

両目の少し上辺りに長い角が二本生えていて、

そこに表情は無い。

侍────というよりは、

マグナの話の中にあった

武士と呼ばれたものの格好だ。

甲冑や金属製の鎧とは極めて異なる、

小さな縄や紐を幾重にも

編んで作られたような鎧、

色あせていて、ひどく老朽化が進んでいる。

腰に、僕と同じ黒塗りの刀を見つけた。


「女の中におる輩、姿を現せ。

その依り代の使いこなし ただ者ではあるまい」


あの声だ。

人を諭すのに適したような、

凛として澄んだ男のものの声。

僕のしゃがれた声と違い、とても心に響く。


すると、

ヘイズがぐったりとその場に倒れてから

その小さな体から妖艶な女が出てきた。

一瞬 枯尾花(ゆうれい)かと思えたが、

カイナを見ると、そうでなく向こうも

神様なのかと悟る。


「よくぞ判ったよのぅ。久しいか、腕」


妖艶な女は、

マグナの声を訊いているような

人を惹きつける声。

"引き付けられる"のでなく、

"惹き付けられる"だ。

誰のかと問われれば、

誰もがこの神の名を口にするだろう。

女を思わせる独特の声。

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