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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第二章 ─排斥─
42/59

傀儡

背の高く線の細い男は、

刺青の太い腕を組んで

椅子に座って頭を掻いた。


下っぱの男は、

手枷されたヘイズの義母の

髪を掴んで首筋を撫でた。


「義理の娘を(なぶ)る感覚はどうだったよ」


下種(ゲス)な笑みを浮かべた男は

首筋から手を下の方へやる。

女の胸部を撫で始めると、

不自由な体を(よじ)りながらも

女は涙目で男を睨み抵抗する。

男は鼻で笑って女を突き放した。



ヘイズを傷だらけに

したのは男達ではない。

だがそうするように

命じたのが奴等なのだろう。


やがて、


「あいつ逃がした奴の

目星はついてんのか?」


「この辺で合金属なんかを

叩き割れんのはコリンズんところの

黒犬ぐらいじゃないですかね。

聞き込みによると、

街中で遊んでたガキ達に紛れて、

アイツみたいな黒髪のガキが

遊んでたのを見たって話で....

遊んでた中に黒犬が混じってた、とか」



───こいつらは多少僕を知っている奴だ。



「犬が、か.........?」



───いや、

知っていたのは下っぱの方だった。



下っぱはずっこけた真似をして、


「兄貴、黒犬ってのは通り名でさぁ!

黒服に黒い外套羽織った、

後ろ髪だけ長くて結ってる

黒髪のちっせえガキのことですぜ」


刺青の男はちらりと外の方を見た。

慌てて僕らは扉から離れる。


目は────合ってないはずだ。


話は続く。


「あのガキも黒髪じゃねえか。

その黒犬ってのも捕まえたら

高く売れるんじゃねえの、女か?」


「いえ、それが男です。

しかも変な武器持ちで、

一撃で人を殺せる武器だ、とか」


刺青の男はだらりとして上を見た。


「一撃で殺せる武器なんて、

重量級の刃物ならなんでもそうだろうよ。

しっかし、男か────。

女なら将来期待で高値つくのによぉ。

.........それと、

あのガキの買い手が見つかったぜ?」


刀はそんなに重くなく、

細身の刀身であることは知れてないようだ。

すると、

下っぱは興奮して笑った。


「お、遂にあの高価格に買い手が!?」


刺青の男はカカッと面白げに笑って、


「それが相当のデブでなぁ。

大金持ちの坊ちゃんだってよお、

まだ値が上がるならもっと出せるって。

これは稼げるんじゃねえかね。

しかし噂じゃあな、

高価で綺麗な女奴隷 買っては

一日中、切ったり蹴って

挙げ句、弄んだりしてんだってよ」


「ひでぇ話ですな...」


「俺達もそんなに変わんねえだろうがよ!」


そう言って二人で笑った。



僕はもう一度オーグの方を見た。

顔には汗が流れて、更には震えていた。


そしてその瞳には、怯えを払う殺意。


僕はオーグの手を振り払い、

思い切り右足を踏み込んで駆けた。



「僕らは御前(ごぜん)傀儡(かいらい)じゃない!!」



御前────それはマグナのことだ。

僕はマグナの(めい)なら

何でも訊いて直ぐに動けるが、

"僕"はマグナの操れる"傀儡"じゃない。

命が下りても、自分の意志で動いているからだ。


「な、何だテメエ!?」


「アニキ!黒犬ですぜ、あの武器!」


下っぱが指さすのは僕の武器、不知火(ふちか)

それを見て首を(かし)げたるは刺青の男。


「なんだその細い剣は.....。

曲がってるじゃねえか。

それに片刃って.....何斬れるんだよ」


おどけたその問に

僕は一言だけ発して、

音も無く更に

風よりも速く駆けた。


「────人肉」


一薙ぎ命中、だが二薙ぎは避けられた。

この両手刀は重くて振りが遅くなる。

大人なら避けれて当然なのだが、

不意打ちが効いて下っぱは斬れた。

下っぱが"変な武器持ち"と言った時点で、

この武器がどんな特性を

持つのかを訊いておくべきだったな。


男は下っぱの死体を横目に、

冷や汗を流しながら、

ノールックで机下の鉄棒を掴むと

僕の足目掛けて放る。


僕は腰を低くして何の

躊躇いも無くそれを半分に斬った。

二本の鉄棒は回転しながら僕を避けて

後方へ転がってゆく。


「なんだそりゃあ.....

テメェはそれで俺を殺しに来たってのかよ」


僕はふと考えて、


「必要と有らば」



こいつのしようとした事は、

ヘイズの売却。言わば人身売買だ。

ただそれだけなのに

僕やオーグの個人的理由で、

....僕はこいつを斬っていいのか?



男は僕の答えにふと考えて、


「.....じょ、条件でも有るのか?」


「まあ、訊けないんだろうが。

さっき話にあった女の子と───」


僕は切っ先を男に付けたまま、

男の足元で震えている女を指差す。


「そこの女を解放してくれないか?」


「そ、それは.....」


男は女から目を離して、

隣に転がる下っぱの死体を見た。


僕は畳み掛けることにする。

早くヘイズを治療してやらねばならない。


「金が欲しいのか?」


男はえっ、と顔を上げた。


「それで俺の命が保証されるんなら、

............そうさせてくれねえか」



しばらく間を置いてから僕は

刺青の男を見ながら

ゆっくりと刀を納めて、


「あい判った」


男はその場に脱力した。


「恩に切るぜ」

──────────────


こんなやりとりが昔に有った。

その後、僕は男の願い通り

金をくれてやって、

ヘイズとその義母を解放してやった。

それから年が過ぎて、

今度は何があるというのか。

三人で囲んだ四角の机上にて、

これからヘイズの話が始まる。

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