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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第二章 ─排斥─
40/59

不器用 ─前─

長い長い朝食を終えてから、

僕は相棒を放っぽって

依頼受付窓口に来ていた。

ワイズらしくあるために、

僕に出来る任務を探すためだ。


フールの話によると、

僕への命令はフールから

直々に下りるそうなのだが、

まあ無い以上そんなものは待っていられない。

そんなに強くないにしても、

一国に数多あるギルドの中で最強のギルド。

意外にも、ホーン・ブルには

沢山の依頼が来ているようだった。

ギルドメンバーには、

その数や内容が判りやすいように

掲示板にそれが貼られ、

受付嬢の手書きで内容が記されている。


"配達"の依頼の欄を見ると、


「沢山あるじゃないか....あれ?」


いや、これは全部済んでいるやつか。

よく見ると紙には朱色の判子が押されている。


つまり、配達の依頼は無い。


で、次は"駆逐"。

何故か、

村人を追い出してくれ

とか

ベッドの下を這い回る

黒くてデカい"アレ"を殺ってくれ

とか

騒音の主を蹴散らしてくれ

など、

駆逐か....?と

思わせる依頼が多々有ると訊く。

しかしどうやら───

こちらも全て済んでいるようだ。


すると、

後ろから声をかけられる。


「ワイズさん、小さな女の子から

あなたへ指名で依頼が一件入ってますよ」


女の声だ、

"さん"付けだがミーシャやユウリでもない。

というか訊いたことはある。

振り返るとそこには、


「どうぞ、この紙に記されています」


銀髪のおとなしそうなエルフが

人当たりのよさそうな

笑顔をこちらに向けて、

一枚の紙を差し出していた。

僕はそれを受け取る。


「ありがとう」


紙に書かれた内容を読もうとすると、


「ワイズさんのような、

黒い髪の小さな女の子でしたよ」


「ああ、ヘイズだな」


依頼主の欄に、

流れるような丁寧な字で

"ヘイズ・ケトー様"と書かれている。


「これはあなたが書いたものか?」


「ええ。そうですが....

ひょっとして私、

歓迎会の時に名前を

お教えしておりませんでしたか?」


そういえばカルムに腕を組まれていたか。

なら、このエルフは先輩なのではないか。


「存じませぬ」


するとエルフは

またもにっこりと笑って、


「そんな堅い言い方

なさらないで下さい。

私には、マスターに話して

おられる口調で構いませんよ

私はシリルと申します。

シリル・クサファン」


「ああ、判った シリル」


優しげな人だ。


「はい!それにしてもワイズさん───」


何やらニコニコと

頬に両手を当てて僕の名を呼ぶシリル。

頬が赤いぞ?


「ギルドの女の子達からの

人気が高いそうですねぇ。

黒髪で顔立ちの整った背の

低めの男の子が入ったと

訊いて見てみれば─────」


「初耳だな、

ここの女の人で初めて

知った名はシリルだけだ。

あと、フール」


付け足しておこう。

一応、あいつも女だ。


「ええ、何でも──

人間の姿だったらきっと

格好いいであろうドワーフの少年と

いつも居て、近付かないでいたら今度は、

女の子の新人二人に先を

越されてしまったんだ、とか。

髪を触らせて下さい」


了解を言わさず背後に回り込まれる。

そして髪を触れる手は、優しい。

後ろで結われた髪を

さらさらと撫でられている感覚。


「ユウリさんから訊いた通り!

さらさらで気持ちいいですっ!

手入れとかはされておられるのですか?」


なんか、

興奮しだしたぞ?


ユウリと仲良かったのか。

歓迎会の時の

おしとやかなイメージとは一変。

僕はユウリに髪を撫でられて

眠ってしまった日を思い出していた。


「───手入れは、してない」


「されてないのに

この髪質、羨まし過ぎます。

朝晩 欠かさずこの髪を触らせて下さい!」


「それにはかなりの問題がある」


僕の(けん)に、

シリルが少し笑ったような気がした。

そして落ち着いた口調で、


「では、もう少しこの髪を触らせて下さい」


お、戻った。


僕はそれに静かに答える。


「ああ」



──商店街──


僕は刀を腰に下げたまま、

音も無く人混みを歩いていた。

そして約束の路地へと曲がると、

その約束の男がしゃがんでいるのが見えた。

今ははめていないようだが、

この男の武器はグローブ。

手で殴るだけでは足らないので、

そのグローブの外には

敵の刃を折るブレードや、

グローブの中に鞭が

仕込まれていたりする。

僕は久しい背中に声をかけた。


「オーグ、久し振りだな」


右手に蛇の目スイカ、

左手に白スルメイカを手に持った

黄色のパーカーの男がこちらを振り返る。




────口には犬が咥えられていた。




「犬って美味しいの?」


「旨いぞ、犬っ!

............ってアホか!旨い訳有るか!」


オーグは頭の上にかけていた

ゴーグルを首まで下ろすと、

犬を放って、

一つ溜め息をついてから

落ち着いた口調で話しだす。


「この犬、ワイズに似とっての。

猟犬相手に震えながらも、

後ろの白い猫庇っとったんよ。

どれだけ

咬まれて傷だらけになっても尚、

立ち上がっては白猫を庇うんじゃ。

やけん───助けてやっただけじゃ」


スルメイカを懸命に

噛み千切らんとしている

オーグから視線を離して、

こちらに距離を置いている犬を見る。

犬の毛並みは白毛混じりの、

大概が黒の雑種犬のようだ。

僕には何犬なのか判別できないが。

犬はこちらに唸り声を上げながら、

立てもしない白猫を庇っている。


僕はポケットから干し肉を出した。

すると匂いでか、

反応が速く 犬は唸り声なく、

僕の目を凝視している。



──今なら話が通じるだろうか?

グレイヴ・ドラゴンの時のように。



僕は出来るだけ犬を

威圧しないように、

しゃがんで声を押し殺して、

"犬の顔よりも下に"

干し肉を差し出して言う。


「よく頑張った、

これを持ってお行き」


犬はこちらに口を差し出しかけた。

しかし、怯えたように震えて

こちらを見て素早く身を引いた。

僕の目を見つめている。


僕は犬を凝視していて

存在に気付かなかった。

ぐったりとしていた白猫は、

いつの間にか僕の足元まで

身体を擦って来たようで、

その口が弱々しく干し肉を噛んだ。


僕は一度、

猫の口から干し肉を離して

小さく千切ってから口まで

持っていってやる。

犬はその様をずっと静かに見ていた。

やがて、僕に敵意は無いと

認めてくれたのか、

僕の隣にお座りする。

僕は無言で、

ポケットから二枚目の大きい

干し肉をそのまま犬にあげる。


犬は口でそれを受け取ると、

器用に前足の二本で挟んで

噛みついている。

そしてよく噛んだ小さな肉を

猫の元へとやる犬。

白猫は弱々しく

それに舌を伸ばして食べた。


僕が白猫にやった肉の欠片も、

同じく犬がよく噛んでから

白猫は食べ続けた。


もう大丈夫だなと思い

僕が立ち上がろうとすると、

両肩をオーグに触れられる。

しかし振り向くと、

僕の肩に手を置いていたのは

オーグではなかった。


「ヘイズ」


ヘイズは優しそうな笑顔で

僕の肩から手を離した。


「こんにちはです、兄さま」


僕は一時停止してからやがて思い至る。



そう言えば妹だったんだよな。

守ってやらねばな。



僕はヘイズの小さな頭に手を伸ばす。


「ワイズでいいよ」



────ぽん、ぽん。



叩かれると思っていたらしい、

目を瞑っていたヘイズは───


きょとん。


やがて笑顔になって

乗せられたら僕の手に触れ、


「照れてるですか?」


「照れてない」


僕は目を逸らしながら

ヘイズの手を

強引に引いて路地から出た。


賢明にも、

スイカを先に平らげたらしい

オーグはスルメイカとの

格闘を終えていたところだった。

口からはみ出ていた数本の足が

ゆっくりと口へ入りやがて飲み込む。


「おお、依頼主

そっちから出て来たか。

ワイズ、顔が怖いぞ?」


そう言う幼馴染みは

全然怖そうにしていない。

腰に手を当てて綺麗な

白い歯をこちらに見せている。


「この三人で会うのは久し振りやな」


僕が頷くと後ろから、


「オーグ......その口調 変わらないのですね」


ヘイズは若干引いていた。

僕は二人を束ねるべく、


「じゃあ、任務を始めようか」

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