贈り物 ─gift─
ワイズの過去話が打ち明けられた
第一章完結に続き、第二章突入です!
ガイ「やっと俺の出番か...!(涙)」
↑只今 右手首負傷中
そして、
ず─────っと
名前だけしか出て来なかった、
ホワイト・アウトのメンバー、
ワイズの唯一の幼馴染みで
関西弁の彼が遂に登場します。
お楽しみに。
第二章、
最初はワイズの妹
ヘイズ・ケトーのお話からです。
ワイズの妹であるのに、
その顔を初めて合わせたのは、
ワイズがホワイト・アウトに入ってから
刀を使い慣らし始めた時のこと。
生まれた時から兄妹が
一緒に居なかった理由がこの章で明らかに。
それでは、お話の始まりです。
ヘイズが僕の妹だと───?
僕は何となく納得し
半分気を失っていた今、
ヘイズの家の二階、
部屋のベッドで横になっている。
どうやら運び込まれたらしい。
近くに刀:不知火が無い。
既に目は覚めており
ただじっと時間をかけ続けている
僕は目だけを瞑っているだけ。
ずっと僕の顔を
覗き込んでいるまま目を離さない、
困った妹(?)が
いつ離れてくれるのかと
その好機を待ちわびているのだが、
その好機は永遠に訪れそうにない。
「は~や~く、起きるです」
同じく目を覚ますのを
待ちわびていたらしい、
ヘイズに頬をつつかれる。
起きてやった。
「わっ、人形ですっ!?びっくりした」
「人形じゃない、頬つつくのやめれ」
不機嫌を装って言ってみるも、
今度は頭を撫でられる。
「寝息一つたてずに
人形みたく動かなかったのに、
いきなり目がぱっちり
開いてびっくりしたです。
ほんとはちっとも
怒ってないですよね、ワイズ。
それよりも
ずっと起きてたんですね、
起きるのが
恥ずかしかったですか?かわいい」
ちっとも怒ってない
というのは図星、でも言わない。
「かわいくない、離れろ。
何でヘイズも
一緒に寝っ転がってるんだ」
刀を探して、横たわる
僕の体の方を見ていたら、
直ぐに僕よりも体格の小さな
妹の体に視線がぶつかった。
ヘイズの格好は
宝石屋の制服ではなく、
既に私服だった。
ちなみに、僕のおさがりの
黒い半袖パーカー。
パーカーの下には
白の薄い肌着。
下は究極なまでに
裾の短い黒のズボン。
そして太腿まである長い──
──これは靴下と呼ぶのだろうか?
服の意味を
問いかねるカオスな服装。
ツインテールを解除した長い
艶のある髪はそのままである。
僕の言にヘイズは、
「添い寝というやつです、
特に意味は無いですよ」
「僕と同じ目の色をして、
真顔で嘘をつくなよ、ヘイズ」
ヘイズはただ僕を静観して、
「兄、
という存在を近くに
感じてみたかったのです。
あなたを抱き上げてここまで
来たのですが、私よりも
背が高いのに、どうして
米粒くらいに軽いのですか?」
断じて、
僕は米粒並みに軽くはない、はずだ。
重みはもっと有るはず。
だがこの体は何故か、この身長に
そぐわない重さを常に維持している。
なんて事を言っても
判らないだろうから、
「米粒くらいじゃない、
僕がおんぶして隣町まで
走っても疲れない程
軽いヘイズより僕の方が重いだろう」
僕の例えにヘイズは、
にへへっ、と笑って
僕と同じ形の二本の
八重歯を見せて僕にひっつく。
「女の子だから当然です、
実は私、あなたを運んで来て、
今ひどく疲れているのです。
だから頑張った私に、何かご褒美を...」
目を瞑って僕の胸に
顔を押し付けたヘイズは
静かに、ください と付け足した。
僕は静かに頭を撫でてから、
細い身体の首と腰に手を回して
しばらく抱き締めてやることにした。
華奢で健気な妹は、
やがて静かに眠りについた。
ヘイズの身体からゆっくりと
手を引き抜いて
僕が被っていた掛け布団を
ヘイズに掛けて
ゆっくりと立ち上がると、
部屋の隅に立て掛けてあった
柄も鞘も黒い綺麗な刀を見つけた。
まぎれもなく、不知火だ。
不思議なことに、
傷は一つも無いものの、
刀の下には布が敷いてあり、
部屋の床にはここまで
引きずった土の跡がある。
なるほど。
ヘイズは僕を運んだ後、
他人には重すぎるこの刀を
抱えて運べずに、
引きずって運んで来たのか。
それは疲れ果てて寝て当然、か。
何せまあ、重い。この刀は。
実のところ、
本来は両手で握る刀だからな。
ワイズは
ヘイズが隠した事実に
気付いて少し笑って、
傍に寄ってから、
ご褒美を付け足した。
黒くて綺麗な
前髪をめくって
おでこを出し、
親指に人差し指を曲げて
乗せてストッパーにし、
力を入れて、人差し指を解き放つ。
前言撤回、ご褒美じゃない。
でこぴん。
しばらくして、
おでこを赤くしたヘイズが
寝ながら涙目になったので、
起こさないように
優しく頭を撫でまくった。
これはお詫びと ご褒美。
そしてワイズは誓う。
女とは、なんだか男と違う。
接し方には気をつけよう、と
肝に銘じる。
そして一言、ヘイズの寝顔に囁く。
「運んでくれて、ありがとう」
それが聞こえたのかないのか
何ともタイミングよく、
ヘイズの寝顔がにへらっ、
と笑ったのを見て、
ワイズはヘイズの家を去った。
ヘイズの家に近かった
先程 僕が倒れた宝石屋に立ち寄って
僕は直ぐに出てくると、
真っ先にユウリの元へ向かった。
夕暮れ時の、
川の上に建った
大きな石橋の手すりに腰掛けて、
じっと商店街の方を見入っていた。
ホーン・ブルがある方向だ。
橋に足を踏み入れてから、
ふとユウリを見て思う。
本当はアメジストのような
綺麗な紫色の
髪をしていたユウリだが、
今僕の目に映っているのは、
仄かな風に髪を揺らして、
石橋に腰掛けている、
クオーツの色に髪を
反射させた女の子がそこに居た。
僕はユウリが
腰掛けている隣まで来ると、
先程買ったレッドベリルを
懐から右手に隠し持つ。
ユウリがふと、
僕の存在に気付いた。
夕日を反射させた顔が
ぱっと笑顔になる。
「ワイズさん、
お体の方は大丈夫ですか?」
「大事ないよ、
心配掛けて御免よ。
衝撃のカミングアウトを受けたんだ。」
ユウリはふふっと笑って、
「妹さんだったんですね、ヘイズさん。
健気にワイズさんを一人で抱えて行く
姿に感動を覚えました。
ワイズさんと同じ黒髪に
黒い綺麗な目をしておられましたね。
ふふっ、一生懸命に何かをなさっていた
姿がワイズさんにそっくりでしたよ?」
「妹だと、
ヘイズが言っていたのか?」
「はい、
訊いていてはいけない事でしたか?」
「いや、構わないよ。
それより、はいこれ。
ちょっと失礼────」
僕はユウリの首まで手を伸ばして
加工してもらったレッドベリルの
ネックレスを付けてやった。
ユウリはそれに
ゆっくりと手を伸ばして、
不思議そうに眺める。
やがてその石の正体に
気付いたユウリの反応は、
「ワイズさん、これ───
レッドベリル、高かったのでは?」
「ユウリ、
それは君に僕からのプレゼントだ。
貴重だからといって飾ることに
何の価値もなく、
その石は身に着ける人にこそ、
本当の価値を見出す、
ユウリにとても似合ってるよ」
首元のレッドベリルを輝かせた
ユウリがにっこりと微笑む。
「先輩」
産出数が少ない故に
価値は高く、
買うことにもまた何の価値もない。
だがその価値に手を伸ばされる
宝石の皇帝レッドベリルこそ、
持っていてなお、
身に着けて
他の人に見られる事に
こそ、本当の価値がある。
そして、
何日ぶりかのユウリの"先輩"。
ユウリが手すりから
すり落ちるかの様に僕の目線まで
の高さに降りてから、
僕の体を優しく抱き締めた。
僕もユウリの体に手を回す。
しばらくそうして
抱き締めあった後、
二人は歩いてギルドまで帰った。




