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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
37/59

ワイズ・ケトー

短くて見事な髪を

一撫でした隣の女の人は、

眼鏡の奥のその紅色の瞳を一度瞬(しばたた)かせ、

口に付けたカップをゆっくりと

ガラス製の横長テーブルに置いた。

我がギルド:白一色(ホワイト・アウト)

ギルドマスターこと、マグナ・コリンズだ。


ボクの名はラガル。

如何にも暗殺者(アサシン)で御座い

な格好であるが、(まさ)しくその通り。


今はマスターの正面に座る女、

ギルド:雄角牛(ホーン・ブル)

ギルドマスター、フールとの対談途中だ。

今からマスターのする話は、

ワイズが神間たる理由だ。


マスターはゆっくりと話し始める。


──まずは倭の神についてか。

極東に存在する力の神だ、

と言っても今は()れ物たる

ワイズの中に存在しているが。

ワイズが神間である事とは別だぞ?


父の方が国王に仕えていた事から

推測するに、

ワイズが神間である理由は

母の方が神であったから。

これも推測だが、

その女神(はは)は今ワイズの妹、

ヘイズ・ケトーを容れ物にして、

存在していると私は考えている。

さて、

あれはワイズを拾う前の話だ。

ある時私が悪魔降臨の儀を

行っていたら、唐突に奴が出てな。

悪魔が降りてきたと

同時に出てくるものだから、

悪魔を炎系極大魔法で

消し炭にしてしまったよ。

"力が消える、何か容れ物は無いか"と

倭の神が言うものだから

ワイズに容れてやった。

以上だ。


さて、

神間の特性についてだが───



ボクはちょっと考え込む。

そして気付く。


─────えっ?それだけ?

と言うか、そんなあっさり

悪魔殺したの?この人。

あ、そう言えば人じゃなかった。


ボクと同じ事を思ったのか

フールは口を挟むべく、

話し途中のマスターを止めた。

右手でコメカミを押さえながら、


「待てマグナ、

話が超人的に飛躍しているぞ...。

まずは、

どうして悪魔を三分調理同様、

消し炭にしたのかを聞こうか」


「悪魔を一体呼んだのに

二体も出て来るとは

思わないじゃないか。

だからこう──────」


マスターは座った状態のまま、

タイキックの空振りをする。

そして右手をかざして、

小さな炎を出した。


それを見たフールは

笑顔を引き吊らせている。


「おそらくは

出てきた悪魔の横腹目掛けて

タイキックをかました後、

居着いた悪魔目掛けて

止めの"冥府(ホ・ディアボロス)悪魔(・ハーディス)"。

───ですよね、マスター?」


隣でマスターは

こくん、と一回頷いた。

表情が冷たい真顔の

一択しか無いせいで、

マスターはワイズに続き、

口数が少なくなっていた。

今日はこれで よく喋っている方だ。


ちなみに

ホ・ディアボロス・ハーディスとは、

マスター自作の、使用者は

この人しか居ないし

この人以外知らない炎系極大魔法だ。

まあ、

知られても要求魔力が大き過ぎて

使った奴が冥府に行ってしまう。

マスターの保有魔力には

ちょっとした秘密があるのだが、

だからこそ 人に恐れられる悪魔を

一瞬で消し炭にできるだけの力がある。

五大国を一日で滅亡に追い込んだ、

徹頭徹尾(てっとうてつび) 無情の魔女だ。


戦争を引き起こし、

五大国を壊滅させたと

独り抱え込んでいるこの人は

哀しい一言をボクらにこんなこぼしている。


"──軍神を召喚し、

あまつさえ罪無き

一般市民を巻き込んで殺す事は、

決して赦されざる行為だ。

そしておそらく、その罪を

糾弾されるべきは、ホワイト・アウトを

ここまで導いたこの私、だな"



軍神とは正しく、

ワイズの中にいる"倭の神"。

ワイズにその時の記憶は無いが、

倭の神を身体から解放して、

軍神として暴れさせた。

必要なことであったのだ。

本来、軍神の召喚する行為の代償は

"死"つまり生け贄なのだが、

神間の力とはなんとも強く、

ワイズは死ななかった。


聖人と人間の女との間の子である

マスターは 秘匿に使役していた

超級軍神を三体、

莫大な魔力消費だけで召喚。


軍神たちは街中で暴れて

その力で沢山の敵を殺し、

力を誇示してワイズの元へ消えていった。

軍神の存在は、

戦争の傷痕として、

軍神への恐怖を周辺国の人々の

心の中に刻み込んだ瞬間だった。


神とは概念。

実在する筈はないのが世の常識。

それを打ち破ったのが隣にいる

マグナ・コリンズだ。


一日目に始まり、

その日に終わった戦争は

ホワイト・アウトの圧勝。

軍神の存在を糾弾する者も居たが

皆一様に、敗戦国の状況を見て、

その口を閉ざした。


復興不可能。

言葉通り、

生き延びた人の数はゼロ。

兵士に限らず、

一般市民もまた殺された。


終戦後 間もなく、

ワイズは戦争の記憶を失った。


ワイズに軍神召喚命令を下した時の、

哀しげに見えたマスターの横顔は、

今でもボクの

網膜に焼き付いて今尚離れない。

マスターは知らないのだろうが、


その時

マスターの為だけに暴れ、

ボクらには実現不可能の

難攻不落(なんこうふらく)任務を

「御意」のたった一言でやってのけ、

悪役を買ったワイズはホーン・ブルへ来て、

苦情無く、その身を任務に投じている。



マスターはフールに

"倭の神"の特性を説明し始めた。



「記憶を無くしたワイズはもう、

付けていた指輪が砕けたことで

自分の力が強い事を自覚し、

自信に近いものを得ている」


フールが口を開きかけたのを

マスターは制して続けた。


指輪とは、自制の指輪。

造ったマスター曰く、

使用者の力を相当抑えつけて、

更に精神力をかなり

安定させる効果を持つ魔法の指輪だ。


「倭の神の存在を知ることで、

ワイズに記憶が無くとも当時並みの

力は戻ってきているはずだ。

倭の神を象徴するものとは、"力"。

ワイズが力を自覚するほど、

倭の神の存在は確かなものになる。

つまり神として

"人に恩恵を与える存在"が成立する。

そして、

ワイズの形質保持能力は

身体にも影響している。

これはつまり、

能力が続けて使われている限り、

限界無く身体を

使い続ける事が出来るということ。

そしてワイズが身体に

倭の神を宿している間だけ、

それなりに力を増長出来る事も確認済みだ」


フールは呆れて口を開けっ放しだ。


「力の増長とそれを

永久的に保ち続ける能力............!」


フールの呟きを訊いたマスターは

初めて口の()を少し曲げた。


「相乗効果、というものだな。

能力が消えでもしない限り、

ワイズに疲れというものは訪れない」



マスター、

狙ったのですかと

言うほど偶然が偶然を

呼んでいる気がするのですが?


神間であるワイズには形質保持能力

つまり、

触れた物や身体の筋肉組織なんかを

傷付けたり破壊させなくさせる能力を持つ。


その神間に本物の神が憑いた。


名を倭の神という。

極東に存在していた力の神で、

信仰が無くなり

存在を保てなくなりつつあったので

マスターの元へ来たところ、

ほぼ無理矢理、容れ物の中へ容れられた。

力の象徴である倭の神の存在を認識し、

力を求めるワイズに、

倭の神は力を与え続ける。

そして与えられる力もまた、

ワイズは保持し続ける。


ワイズの財布同様、

"減らないのに増えはする"の法則だな。


マスターの言った事は、

要するにこういうことだ。

なんて恐ろしい話だ、

ワイズって───


────最強じゃないか。

ギルドマスターの部屋前、

右腕に包帯を巻かれ、

肩に革ベルトを掛けて

二本の戦斧を吊ったドワーフの少年が、

静かに聞き耳をたてていた。


頭上のその大きな両耳がピクピクと動く。


マグナという名の女が

大体を話し終えたところで、

少年は青棟(あおとう)の方へ帰って行った。

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