ワルツ・カーニア
茶を貰おうと店内の方へ目をやると、
ホワイト・アウトのメンバーこと、
兼カフェのメイドさんの
ワルツ・カーニアがそこに居た。
ちなみにここはメイドカフェではない。
にこやかな笑みが既に、
うっとりが100%配合された
ほんわかオーラを放っている。
それはもう、天然の権化を
主張するまでもなく
誰もが天然とは、
この方だと言うが如く。
お盆を下げ 片方の手で口を押さえて、
密かに笑いながら僕らのやり取りを
見ていた彼女は、何処となく背後に
手をやると、何故かその手には
お茶の入った容れ物。
そのまま僕のカップへ
注ぐと、注ぎ口を
綺麗に畳まれた茶巾で拭う
洗練された作法。
そんな僕の感嘆を余所に、
ぎょっとしていたユウリは思わず
ワルツさんの背後を確認した。
だが、ただのメイドドレスだ。
僕がユウリに目をやると、
さぞ、タネも仕掛けも御座いません
とでも言いたげな顔をする。
するとその間にしれっと
お茶の容れ物を仕舞ったワルツさん。
僕が尚も確認するも、
そこにはひらひらした
エプロンとドレスしか無いのである。
終止にこやかなワルツさんは、
「あらあら、ワイズさん。
女の人の腰のくびれに
興味を持つお年頃なのですか?
多感な時期ですものね、うふふ。」
僕は口に含んだお茶を、
一生懸命チーズケーキを
食べている雀こと、
雀呂目掛けて全力噴射すると、
「断じて違うからなっ!」
僕が半ば、
誤解を解くのを断念しかけて
席につくと、
後ろから僕の両肩に手を置く者。
「こら、ワルツ。
あまりワイズを
苛めないであげなさい。」
女の声だ。
と言うかシアンだ。
ワルツは右手を高く上げ
今尚 笑顔で、
「はーい。」
名をシアン・クロス。
白一色の名に
相応しい銀髪のメイド長、
と言えば語弊しか無いのだが、
ギルドにたった一人のメイドであり、
あの広大な敷地の世話を一人で
取り仕切るメイドの長だ。
ギルドマスターであるマグナの
身の回りの世話や、朝昼晩の
僕達のご飯の準備をしてくれ、
時間をかけねば出来ないような
多彩かつ大量の
高級料理を毎日出してくれる。
「シアン、助かった。礼を言おう。」
「いえいえそんな大したこと。」
───シアンは顔を近づけて
謎の笑みを浮かべながら耳元で囁く。
「お邪魔虫を排除しただけよ。」
フフッとまた笑ってシアンは
綺麗な銀髪をなびかせて
店の方へ去ってゆく。
「ワイズさん。」
唐突に眼前の少女から
名を呼ばれる、と言うか近い。
「ユウリ...どうした?」
ユウリの席にある皿の上には、
既にナイフとフォークが
二本揃えて置いてあるのみ。
ユウリは僕の外套の両襟を
掴むともっと近くに引き寄せて、
「女の人と話し過ぎですよ...。
今日は私とお話しして下さい。」
嫉妬でか口ごもり、
少し紅のかかった頬は
なんだか可愛らしく、
僕が合わせると反らされた
目線はどこか少し弱々しい。
僕はユウリの手を
掴んで襟から放させると、
「じゃあこれから、
二人で何か買いに行こうか。」
立ち上がってユウリに
手を差し伸ばしてみる。
瞬きして僕を見上げる
ユウリの顔が ふにゃっと綻ぶと、
「はい!」
僕の手にユウリが手を乗せ、
僕はそれをぎゅっと握り返した。
会計を済ませるべく、
請求額の書かれた紙を持って
店員を呼ぶと、
......やはり出てきたのはワルツ。
ワルツは僕らの繋がれた手を見て、
「あらあら............まあっ!」
と笑顔で言いながら
胸の前で手を叩く。
会計を済ませながら僕は、
金は今まで、
任務をこなしてきて、
全く使ってなかったから
かなり有るな。
そうだ、ユウリに
指輪を買ってやろう。
ついでに僕の新しいのも買おう。
密かにそう思考するのだった。




