revival
テーブルの前に有るのは
いかにも"甘い"の一言に尽きそうな
三段パンケーキの塔。
カフェテラスを横切る人々の
目を憚らず
僕の向かいに座り
パンケーキに目を輝かせているのは、
ユウリだった。
まあ、人目あるカフェテラスに
二人きりなのは如何なもの
ではあるのだが、フールの言った通り、
街の大通りには人で溢れており、
奇襲も無さそうである。
ちなみに店内に人は少ないのに、
後から店に入ってきたユウリが
僕の元へ来ると、
何故かテラスへ案内されたのだ。
僕がパンケーキを俯瞰していると、
ユウリのキョトンとした目が
僕を捉えて、
フォークを唇の方に当て首を傾げる。
「ワイズさん?」
おい、こっちもか。
"先輩"無くなって
親しい人みたいになってるぞ。
........親しい、か。
ボーッとしてる僕に
微笑んでユウリは、
「あげませんよ?」
僕はユウリの目に合わせて、
「要りませんよ?」
即答してやったり。
僕がテーブルに肘をついて
得意気に笑うと、
ユウリは頬を膨らませた。
「じゃあ、あげません。
お茶でも啜ってて下さい。」
あ、拗ねた。
ここは パンケーキにも勝る
ベイクドチーズケーキを交渉材料に
機嫌を回復してもらわねば───。
僕がフォークでチーズケーキの
先端を切ってすくうと、
「......。」
こっち見てるな。
口に運ぼうとして止め、
"食べる?"と目配せしてみる。
はっと我に帰ったユウリは、
ぶんぶんと
左右に高速で首を振った。
──可愛らしいな。
と、思いつつ
チーズケーキを口に運ぶと、
濃厚なチーズの甘さが口の中に広がる。
ユウリはと言うと、
口に運ばれたチーズケーキを
見て、がっかりしていた。
口が少し開いている。
僕はフォークを一回転させると、
刀を振る要領で
ケーキを一口サイズに両断し、
すくって 今にも閉じそうな
ユウリの口の中へ高速で滑り込ませる。
ユウリの驚きの表情は、
目を瞬かせた後、
ほんのりとろける。
───任務遂行。
ユウリは右手で頬を
おさえて咀嚼すると、
「ふふっ.........美味しいですねえ。」
僕らの関係に安寧が訪れた。
安堵して下を見るとそこには───。
「なんだこれは。」
綺麗な三角形をしていて
僕が先端を切ったから台形を
しているべきはずのチーズケーキは、
僕の高速両断によって粉々になっていた。
朱い雀である僕の唯一の友、
雀呂が美味し美味しとつついている。
僕は呆然とするのを止め、
店員さんにお茶のおかわりを
頼もうとして店内の方を見ると、
プラチナホワイトの
長い髪をポニーテールにまとめて
綺麗なメイド服を身にまとった
女の人が僕らのテーブルの隣に
いつの間にか立っていて、
肩を揺らしてクスクスと笑っている。
その存在に気付いてはいた僕は、
まさか全部見てたのかと思いながら、
「笑うなよ、お嬢。」
決してカタギの方ではない。
ほんわかオーラを放ち、
天然素材100%でできてそうな
彼女は、ホワイト・アウトに
よくお菓子を持ってきてくれる
ホワイト・アウトのメンバーである。
僕らは親しみを込めて"お嬢"と呼んでいる。
名をワルツ・カーニアという。
直接戦いはしないのだが、
このカフェで働きつつ
朝夕のご飯をギルドで
作っている人のうちの一人だ。




