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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
31/59

wize's identity crisis

※ガイはドワーフで、

「獣人」と表記している

部分が所々有りましたが、

あくまでもガイは

人間から獣の戦士となった

“元人間”です。

表記について、

誤解が有ったことを

訂正し、報告しておきます。


では、物語の始まりです。

僕が今立つ場所は、

ギルド:ホーン・ブル

僕はあの連戦の後、

フールの元へ赴いていた。

有った事を全て報告するために。


流線の彫刻が装飾された柱が

建ち並ぶ やたら広い部屋の中央、

部屋の真ん中で ただ刀を下げて

(たたず)む僕の前には

デスクに両肘を付いて

椅子から身を乗り出すように腰掛け、

何かをずっと思案している様子の

ギルドマスター フールが居る。

両肘から伸びた綺麗な白の細い腕から

重なる両手はきつく結ばれていて、

整った小さな可愛らしい顔が

その上に座っており、

綺麗なアメジストアイズが

絶えず此方を眺めている。


僕はこのギルドに貸し出されている

他ギルドの近接兵である。

とある事情が有って、

ここに貸し出されているのだが

僕自身、

ここへ来た理由を知らない。


僕の本来 所属するのは

ギルド:白一色(ホワイト・アウト)

これまた とある事情で

いくつもの大国とうたわれる

国々を一日で沢山滅ぼした、らしい。


しかもたったの7人でだ。



さて、そろそろ

僕がここへ呼ばれた理由が

知りたいところですが、マスター?


「.....。」


マスターは今尚

こちらを見つめ続けて、

一向に話し出す気配はない。


茶化してみようか。


「まばたきしろよ、目が落ちるぞ。」


「落ちるか、莫迦(ばか)者。

寝言は寝て言いたまえ、

私はしっかりと

まばたきをしているとも。」


そう言って乾いた瞳を

何度もしばたたかせて

素早く涙を拭うフールさん。

僕はというと、

見て見ぬフリを

決め込んで本棚の方へ目を移す。


たいへん失礼致しました。


即行 研ぎ澄まされた

ツッコミが返ってきた。

フールは続けて、


「そう言えばワイズ。」


いつから"君"付けるの

が無くなってたんだ。


「なんだよ。」


少し目と頬を紅くした

フールが窓の外を眺めながら、


「休みは取れたのかね?

誰も居ない静かな森に

二人の少女を連れて行ったのだろう?」


何故かニマニマした

フールは手近に有った

飲料水を此方に放ってくる。


そんな怪しい

雰囲気だっただろうか、

慌てて ふと、

そんな事を考えてしまい

自分を諭すように、

跳んできたものをキャッチし

飲料水の蓋を開けて喉に流し込む。


「人聞きの悪い事を言うなよ、

僕らは単純に

ピクニックに行っただけだ。

あくまでも、

フールから貰った休日でな!

それに...ガイも居た、よ!」


言い返して僕は

蓋を閉めた飲料水を思い切り放る。


不敵な笑みとは異なった、

ニマニマを浮かべて

可愛らしく笑うフールには

前には まみえた

大人らしさがうかがえず、

可愛らしいとさえ思えてくる。


僕が放った飲料水を

難なくキャッチし蓋を開けて一口。


「それならいいのだ。

私はちゃんと判っているよ。」


本当にそうなのか

疑いたくもなるのだが、

ご主人様はどうやらもう満足された

ようなので掘り返されない内に。


僕の空気を察してか、

冗談めかしていたフールの顔つきが

真剣なものになる。


「で、君が神間(しんげん)だという事は

前からマグナより訊かされていた。

そこで、君が問題視するものは何かね?

ユウリ君の事を訊いてみようか。」


そう言って自室に誰も居ないことを

確認するフールは、当然誰も居ないので

此方に向き直る。


「ちなみにな、ワイズ。

あの か弱そうな女の子の

身分証には魔法学校を出た

記録なんてのは書かれていない。

つまりユウリ君は魔法を

使うどころか扱えないぞ。」


用途も解らず扱えないものを

"使用する"ことは何であれ

禁じられているのがこの国の決まり。


「だろうな、

あの武器が氷属性の魔法を

直接生み出している...とかは?」


「その場合、

使用者の保有魔力が減少しない

メリットが有るにしても、

魔法が使えなければ

魔法武器の特性は引き出せない。」


....?

ラガルならここで

何か気付くのだろうか。

直感だが、この女 何か知ってる。

........気がする。

というのも、何かに引っ掛かった、

と言うだけで とりわけ

特別な何かを見出だせた訳ではない。


「じゃあ僕と同じように、神か、

それに類似する何かと契約していて、

能力を引き出せているんじゃないのか?」


「あのな、ワイズ。」


そう言って溜め息をついた

フールは少し悲しげな目で此方を見る。


「君のような神にも等しい存在が

もう一体存在した世界を考えてごらん。

その世界に神は必要なのかね?」


「そこら中、奇跡だらけだな。

奇跡に代償が必要か

不要かが重要でないにしろ。」


解っているじゃないか、

とばかりに

頷くフールを横目に、

内心 複雑な気分になる。


──では、僕は何故生まれたんだ?

全ての戦闘で勝利を納めるため?

違うだろう。

僕は強い....常人から見れば。

だが、僕には強く思えない。

ただひたすらマグナの(めい)

戦い続けてきた僕には、


"尊敬する人物は?"


と問われても名が浮かばない。

僕は他人を信用していないのか?

または自分が一番強いのだと

心の何処かで強く

過信しているのだろうか。

そう考えると、

マグナが僕の身元を

一切明かさなかった理由も見えてくる。




──フールが僕の答えに反応する。


「その通りだ。つまるところ

君は重要で、

それ故 存在そのものが貴重だ。

神を()れられる器を持つ

人間の子というのはそう居ないのだよ。

神と人との間に生まれた子もね。

よって、

神間がこの世界に一人しか居ない

というのがこの世界の常識なのだ。」


「あい。」


「ずいぶんと気の無い

返事をしてくれるじゃないか。

二人目の神間が

居るのかも知れないから、

五年ほど君を借りる契約を

マグナと交わしたと言うのに。」


....なに?


「それは....ガイのことか?」


フールが鼻で笑った。


「避けるな、

先程からの会話からして

ユウリ君しか居ないだろう。」


「───だろうな。」


まあ、そうなるよな。展開的に。


「浮かない顔だな?」



「気にするな。」



浮かない顔、

してたのか、僕は。

僕の生まれた

理由に無理やりこじつけるなら、

"二人目の神間を倒させるため"に

なるかも知れないなと思えたからか。


仮にユウリが神間だったとして、

それでも僕は、

彼女を斬ることが出来るのだろうか?

いつものように、無慈悲に、冷徹に。

何の未練も無く

一撃浴びせて"任務(ミッション)遂行(コンプリート)"というのだろうか。



──相手を斬る事を

考えるだけで自分の存在意義が

揺らぐようであれば僕はやはり、

弱いのではないだろうか。

また、心は

人間に近いものなのではないだろうか?


フールとの会話の流れからして、


"世界に神間は一人"


"神にも等しい存在の神間"


からして、やはり僕には

彼女を消す何らかの

任務が課せられるのでは?


間を置いて、フールが再び口を開く。


「冷気が無かったことから

氷魔法でない事は既に断定されていてな。」


あのメテオが

氷でできた結晶でないとするならば、


「...魔剣、か?それも強力な。」


「ここ数年、生きてきたことを振り返って

わりと本気で考えてみたものたものだが、

私も経験上、そうとしか考えられん。

どうやら同意見のようだな。」


「ああ。」


魔剣とは、

検診や特性の分析などで用いられる魔法:

アナライズをスルーしたり却下する類の

呪いのかかった剣のことだ。

まあ、スルーするということだから、

"ただの剣"だと認識させる魔法である。

要するに強さを隠し、

弱く見させるための武器で、

冒険初心者を騙す組織が

量産している。

当然、優先度(プライオリティ)は低く安価。

闇市で多く出回る高レベル武器だ。


だいたいこういう物には、

強さを与える代わりの代償が大きい。

これが魔剣と称される所以(ゆえん)でもある。

ひょっとすると、ユウリの大事な

何かを媒体として

あのメテオを生み出しているのだとすれば、

命の危機かも知れない。

命を失うと、

剣はどことなく回収され、

剣に溜まった余過エネルギーを

別の剣に移し、魔剣として売り出される。


「あれ、神間 関係無くないか?」


ふと、思ったことを口にすると

不自然に黙りこくるご主人様。


「...。」


図星だな。しかし

魔剣の話が真であるなら

ユウリが神間である、

という僕の説は偽。

独りよがりの勘違い、

ということになる。


「ワイズ、

彼女にその技を使わせるな。

これは命令だ。

──媒体の正体が解るまではな。

とりあえず今まで使った回数を調べておけ。

君にもう一日 休日をくれてやろう。」


あ、逸らした。


「ああ。」


「今日は疲れただろう。

存分に休んで

今度は街の方に出たまえ。

あそこなら、

表沙汰にして暴れる奴は居るまい。」


僕は静かに頷いた。


「よし、行け。」


「御意。」


そう言って僕は、

左手に下げていた刀の柄を

両手に持って地に打ち鳴らし、

フールの部屋を後にした。

ユウリが神間である、という

僕の説は 独りよがりの勘違い

という結果に終わった。


部屋を出て、階段を降りると、

下から上がってくる二人の男女。


ガイ達かな、と思い顔を上げると、


「ラガルに......マグナ。」


ラガルはポケットに

入れていた右手を挙げて答える。


「おっす。」


「生きてたのか。」


僕の安堵の声を、

別の意味で捉えたらしいラガルは、


「出会い頭にひでぇっ!?」


すると、

マグナも口を開いたかと思えば、


「あれほど人前で指輪を

外すなと言ったのにこの脳無しが...。」


冷徹な細剣(レイピアナイフ)

ラガルの心を容赦なく貫く。


「マスターの方が酷くねえ!?

心なしか、(アビリティ)でなく

(ブレイン)で聞こえた!?」


僕とマグナが、

このやりとりでの

お決まりの言葉を同時に述べる。


「「気のせいだ。」」


一方ラガルは、


「もう助けてやんね、

いつかグレてやる...。」


半べそかいていた。

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