倭の神:腕(かいな)
音も無く
林を駆け抜けていると、
紅い鎧の群団を見つける。
あれか、
何かを取り囲んでるようだが
ミーシャとユウリはどこだ。
その瞬間、
こちらに高速で向かってくる
回転物を捉えた。
それの柄をギリギリ左手で
掴んで腰を落とし、右手で刀を抜いて
その大きな刃に当てて受け止める。
どのくらい下がっただろうかという所で
踏ん張っていた足はやがて力を抜き、
僕はこの武器を持っていた主を悟る。
同時に大音響が響き渡り、
紅の騎士達が一斉にこちらを向く。
「黒犬だっ!!」
「黒犬が出たぞ!
ルート隊長はやられたのか!?」
などと、
思い思いの言葉を叫んでいる。
───随分と僕の相棒を
痛め付けてくれたようだが───?
騎士達に取り囲まれていたらしい
ドワーフは右腕を
ぶら下げて一人静かに笑っていた。
その体は至る所に切り傷、
そして動かないのか、
左腕はだらりとぶら下がっていた。
僕が今持っているハチェット、
柄がヌルヌルと湿っている。
よく見てみて、
ガイの血なのだと悟る。
騎士達は叫んで、
「ドワーフはもう
手負いだ放っとけ!まずは黒犬だ!!」
「全員で取り囲んで切り刻んでやる!!」
こちらに走ってきた。
その瞬間、ガイがその場に崩れた。
──よく頑張った、後は僕に任せろ──
それを見届けた僕は
本気で敵を迎撃すべく、
両足と刀に力を込める。
そして大きく息を吸い込み、
全て吐くと同時に
一歩で大きな間合いを詰める。
「!!?」
その瞬間、
騎士達が一斉に青ざめた。
僕は一歩で敵に近付き、
三回突いただけだが────?
などと思いつつ正面を見ると、
喉元に大穴開けた首の無い兵士が三人、
棒立ちでいて、崩れる。
遅れて三つの首が
後ろの騎士達の目の前に転がり落ち、
目を開けたまま騎士達を見詰めて止まった。
───ああ、制限の指輪か。
そう言えば 砕けて無くなったんだったな。
湧き出る泉に蓋をしてて、
しばらくして その蓋を取った
時の様に、僕の力は溢れ出ているのだ。
騎士達は足を止めて呆然。
「一突きで首が飛んだ!?」
「化け物だ ありゃあ...!」
「野郎共、怯むな!取り囲め!!」
「防御に徹せさせれば、
あの化け物じみた武器は振られない!
いくぞ!!」
「....オオオオ!!」
束になって
掛かってきても死なない僕が、
手前らに殺されるかよ....!?
僕は右手で刀を構え直した。
──その瞬間 時が止まり、
徐々に感覚が遅くなる。
なんだ、体の限界か?
頭の中に、
訊いたことの無い男の声が響く。
「力を借そうか、我が主よ。」
妄想ではないようだ。
周りの騎士たちは止まっている。
僕の口は動く。
とすると こいつが、
「倭の神か。」
「左様。名を腕と申す。」
「力は借して要らん。
僕の友を痛め付けてくれた
あの騎士どもを早く殺させろ。」
「我の力無ければ、
汝はその様に刀を振れてはおれぬ。
もう既に我の力を借りておるようなものだ。
本来、その刀は大男でも振れぬ代物ぞよ?」
カイナの声は、
僕を諭すように、穏やかだ。
「...。」
「我が主は理解が早くて宜しい。
あまり激情して我を失うでないぞ。
では、力の説明をして宜しいかな?」
僕は直ぐ様落ち着けた。
この声には、
そうさせる魅力のようなものがある。
「頼もう。」
「うむ。
まず汝の好き人の手を引く。
そして汝の左腕と
好き人の手に刀を引くのだ。」
「そんな事したら怪我するぞ。」
「然り。
だがそれが狙い、
すぐ消えるから安心せよ。
刀を引いた左手を
頭上まで挙げて、
空を叩く様に振り抜け。
そして"隻手の音声響きたり"と叫ぶのだ。」
「なにか起きるのか。」
「いずれ時が来ればしてみよ、
さすればこの腕、
誰の為でもない、
汝の為に全力を尽くすぞよ。」
カイナの気配が消え、
やがて世界の時間が動き始めた。
騎士達の怒号が響く。
僕は刀を地面に突き刺した。
騎士達は僕を取り囲む。
そして一斉に斬りかかるべく、
「総員....!!」
「「させない!!」」
騎士達の声を打ち消す、
二人ほどの女の声が頭上から響いた。
「ワイズ先輩っ!」
僕の名を呼んだのはユウリだ。
ミーシャの手には武器は無いが、
ユウリの手には、
いつもの細身の
黒い直剣が握られている。
切っ先から流星のような
ものが生まれ、騎士達の方へ一直線。
三人ほどを捉えたメテオは、
飲み込んで地面に着弾すると、
巨大な結晶となって固まった。
結晶の中の騎士たちはピクリとも動かない。
それを見た騎士たちは青ざめて
中には泣いている者さえいて、
「総員、て....撤退!!!」
一人の騎士の声と共に
今度こそ逃げ出したのだった。
事を納めた僕はホーン・ブルへ帰還し、
今まで有った事を伝えにフールの元へ。




