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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
27/59

神に抗う黒犬はひたすら神に歯向かう。

ラガルと会話していた

ルートが急に此方を見て言った。


「しかし 黒犬殿の撃剣、

あまりの完成度に

感激を覚えましたぞ。

あの、鬼神の如き姿、

まるで極東に居ると

言われる侍のようですな。」


唐突だな。


視線を下に向けていた

顔を上げて僕は

ルートへ目を向けるが

ラガルは、


「ホワイト・アウトとは

友好関係にあるため、

最大にして最恐のワイズに

手出しが出来なかったが、

ホーン・ブルに入った今なら

先制して殺してしまえたって腹か?」


ラガルは

何かに気付いたような

顔でルートを見ている。

顔色は変えてないが、

長年付き合っているせいでもあるのか。

僕にはラガルが

何かを確信したように思えて、

まずは眼前の男の(げん)を疑う。


ルートはラガルの

勘繰りには気付いてないようだが。


さて、先程のラガルの理論によると、

"友好関係"とは上辺(うわべ)だけの関係。

万が一意見が相異なるような事が起きても、

敵対することは無いようにする為の保身だ。


まあ、現ホワイト・アウトのメンバー

ラガルに見付かってしまっては

この関係は即決裂なんだろうが。


ラガルの言葉に

ルートは首を傾げて、


「上の意志は知らんが、違いない。

私達は傭兵、

金を積まれれば何でもやる騎士隊なので。

"たとえ友好関係に有ろうが、

黒犬を殺せ"と。」


それが上の意志なんだな。

どうやらラガルの理論は

きちんと的の中心を射ていたようだ。


すると後方から足音。

訊いたことがあるな。


僕はその足音の主が

僕の隣に来るのを

待って後ろに控えた。

刀を納める。


「そんな事は知っている。

ワイズを消そうとしたんだろうが、

生憎、この男は死なないし、

それ以前にこの、私が殺させない。

"我がギルドに有益をもたらす限り"な。」


僕らの誇り、そして僕らを統べる

ホワイト・アウトのギルドマスター、

女にして、

聖人の血を引くこの世で最強の魔法使い

マグナ・コリンズだ。


ラガルもマグナの後方に控え、

双剣を納めた。


マグナを見たルートが

顔を青くして汗をだらだら流し

慌てて敬礼し、叫ぶ。


「総員!武器を納めて控えろっ!!」


その声に反応し、

僕らを取り囲む全騎士が

顔を下げてしゃがみ、

左膝を立てて右膝を地面に付けて、

左手を立てた膝に添える。


これが俗に言う、最敬礼か。


そんな事には意も留めないかのように

マグナは僕に近付いて

僕の左手を取り、一羽の雀を乗せた。


僕の数少ない友、

朱雀の生んだ46番目の子どもにして、

唯一 不死の加護を受け継いだ雀。

名を雀呂(ザクロ)という。

我ながら変なネーミングだと思うが、

僕が付けた。


僕らが取り囲まれた時に、

僕らに"転生の炎"と呼ばれる、

対象者のみを炎に包み、

"どんな攻撃からもその身を守りつつ、

服ごと身体を

癒す力を持つ炎"を放った主だ。

ザクロは朱雀のように体は大きくない

上に、赤色でなければ

大きさも雀そのものなので

炎は一日一回しか使えないのである。


「すまないな、ワイズ。

君の友に炎を使わせてしまった。

だが解って欲しい。私はどうしても、

君達を失う訳にはいかなかったのだ。

許しておくれ。」


「構わないよ、マグナ。

命令が無くても多分、

ザクロから放ってくれていたさ。」


「そう言ってくれるとありがたい。」


「ああ。」


マグナはルートに向き直ると、


「リフレイン・ゾンビとは

これで終わりだ、ではな。」


ルートはマグナを無言で見送る。


「...。」


「僕は侍だ。

刀ならいくらでも振るうぞ。」


僕はしゃがれ声で静かに言い放った。

こうなってしまえば、

敵が引くまで威嚇するのが僕の戦い方。

当然 敵は引くはずなのだが、


ルートは静かに口を開いた。


「剣は一人の敵、学ぶに足らず

という言葉が有るが、

そなたのような剣は見たことが無い。

......いや、

"刀"なら一つ知っている、かな。」


居るかも判らない"兄"のことだろうか。

奇襲にあう前にラガルから訊いたが、

妹も居るかも知れないらしいがな。


僕は誰にも

気付かれず刀に手を掛ける。

すると直ぐにラガルが

僕を制してルートを睨んだ。

同じく、ルートの真後ろに

控えていた兵士が此方を

睨んで鉈を抜いていたのだ。


やはり、

何か有るな───こいつら。

何かをされる前に牽制しておくべきだが、

人数が多い上にまだ囲まれている。

下手には動けないぞ。


───ルートと、兵士が

何やら小声で会話しているようだ。

集中して耳を傾けてみると、


「気付かれずに

娘たちは確保できたか?

もう間が持たないぞ───。

ギルドマスターは去った、

もう取り囲むか?」


「そ、それが──獣人が

いきなり介入してきまして───。」



む!!?

ユウリやミーシャ、ガイの事か!

だがしかし、

僕の心の揺らぎが直ぐラガルにバレた。


ラガルがわざとらしい

声で僕に話しかける。


「ワイズ、知ってるか?」


「....何をだ?」


まずは落ち着け、という事か。


「オーク・ストライク帝国

直属の騎士隊:リフレイン・ゾンビの

連中はここ、スジャ王国と

ある関係を結んでいる。

それは、なんだったか?」


「なにって───

奴隷産出王国と、

それを強要する

奴隷制採用帝国だろう。」


「ワイズは解ってるな。

では────。」


聞き耳をたてていたルートが

一気に表情を変えたのを

僕は見逃さなかった。

まあ、聞き耳どころか

誰にでも聞こえるのだから、

たててはいないのだろうが。


「産出王国側からの

輸出が途絶えたら

帝国側はどんな

強行手段に討って出ると思う?」


「王国から出た

旅行者の馬車を襲って、

その者を拉致する─────?」


ラガルは静かに考えてから

微かに笑う。


「お?惜しいな。

実に、人間に興味の

無いワイズらしからぬ回答だな。

旅行者の拉致では、

旅行先の国々にまで、

捜索願が行くぞ。

それでは問題が大事(おおごと)になる。」


「大事にするのは

帝国側にとっては

願ってない事だよな。

つまり、問題が問題として他国から

見られなくなればいいんだろう?

もしくは、他国の介入を

帝国側から強制的に

ブロックする方法は........。」


....!


僕の驚きの表情に

ラガルが指を鳴らして笑う。


「気付いたみたいだな。」


「国内で密かに拉致してしまえば、

他国の介入はおろか、

他国に話してしまえば

治安の悪い国とうたわれ、

王国観光者の需要がほぼ無くなる。

金を掛けずに奴隷を手に入れるなら、

他国へ合法的に入り、違法的に

人々をかっさらうこと。

スジャの中では犯罪者なんて

出ないのに治安が悪い始末だ。」


「ここで問題、考えた連中 または

それを実現するとは?」


僕は今度こそ、

誰にもバレずに高速で駆けた。


ほぼ同時にルートの怒号。


「総員、全力で包囲!

家族が惜しければここを通すなっ!!」


彼は叫んでばかりだな。


そして、

ラガル一人が騎士たちに囲まれる。

どうやら本当に

僕は気付かれていないようだ。

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