表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
24/59

千変万化臨機応変

指輪が砕けてから、

辺りの様子が一変した───


"(くれない)"が主な配色の装甲の兵士群。

指揮官の姿が見えないことから

彼らの目的が暗殺だと推測され、

また捕縛の為でない事だけが判る。


兵士達の装備を確認。

正面に突き出して構えれば、

その身が隠せそうなほど

縦に長い盾を左手に、

右手に(なた)を握った兵士が

僕らから十分に距離を

取った位置から囲んでいる。


半身(はんみ)で盾にひっつく様に

構えている事から、容易に近付けない。

構えのせいでこちらからは

鉈を持つ右手が全く見えないので、

どう先制攻撃していいか迷う。

向こうが攻撃してきて、

鉈の使い方が読めない以上、

こちらから近付けない。

多分、こういう場合はまだ

後ろにも兵士が控えていて、


だいたいの武器が

(スピア)長槍(イーグン)(ボウ)などの

遠距離狙撃出来る武器を持つ兵士がいる、

とまで読める。

今回、フィールドが森なだけに

メイジが居るとは考えにくい。


それに これだけの手勢、

こんな戦術を徹底する指揮官だ。

余程の手練(てだ)れに違いない。


僕の背中を守るようにして立つ、

後ろの赤髪の

青年ラガルが忌々しげに口を開く。


「囲まれてるぞ、

ボクが

蹴散らしようにも盾が邪魔だな。」


多分、彼も僕と同じ答えに至ったようだ。


ラガルが愛剣の

収まっている鞘に手を触れた。

彼の愛剣、

ダーインスレイヴこと、

人の血を吸うまでは

鞘に納められないらしい魔剣は

手が触れているだけで

まだ抜かれていない。


説明が"らしい"なのは、

彼がその剣で敵を

斬れなかった事が一度も無いからだ。

無論、

ホワイト・アウト随一の

暗殺者(アサシン)なのだから当然であるが。


僕は溜め息をつきながら刀を腰から抜き放つ。


「盾が邪魔なら、斬ればいい。」


僕の言動が聞こえたらしく、

兵士達が一斉に身構えた。


ふむ、奴らは僕らが

どういう奴なのか知っているらしい。

そして身構えたお陰で

後ろが垣間(かいま)見れる。

長槍だ─────。


僕は口を滑らせていた。


「僕らが突っ込めば────。」


後ろを見ると、

ラガルは小さく頷いてから

ハッキリと僕に聞こえる声で言った。


「ああ、

盾兵が避けるか

斬りつけるかした後盾が開き、

後ろに控えたイーグン隊の一斉攻撃...!!」


やはり同じ答えだった。


「奇遇だな、僕も同じ答えに行き着いた。」


ラガルの台詞に、

おそらく僕らを取り囲む兵士全員が

ニヤッと 音の聞こえそうな笑みを作った。



木々に飛び乗ろうとジャンプしても、

"上も警戒してろ"と言われているであろう

イーグン隊は、ラガルの発言でなお、

"今か今か、待ってました"とばかりに

突く用意をしているのであろう。


後ろから声。


「戦うのか?」


「まあな、

けどこの構えじゃ駄目だよな。」


そう言って僕は、

使い古した十全十護

"予測行動の構え"では多分斬れないので、

上段に構えた刀を下ろして中段に構え、

左手を外して左胸の前に添えるように置き、

足を開いて腰を少しだけ落とした。

敵兵同様、

半身に構えてから

上体を前のめりにさせ、

重心を前に置く。


僕の構えを見ているらしい、

ラガルが呟いた。


「いつもの構えが

全てを(かわ)す"(じゅう)"の構えなら、

それは全てを狩る"(ごう)"の構え───。」


その静かな呟きは、

元々静かな森の中に十分過ぎるほど響いた。

それを更に思わせるのは、

敵兵が全員数歩下がったからだ。


「御名答。」


僕は静かに呟いた。

僕が駆けようとしたその時、


「待てっ!!指示が有るまで射つな!!!」


矢を放ったらしい、

空気を切った音がいくつも響いたと同時に、

同じ地点からから焦りを含んだ怒声が響いた。


どうやら、

僕らの本性を知っていたのが

敵大将の誤算だったようだな。

ラガルが焦り混じりの言葉。


「イーグン兵が引いてくぞ、

こっちに矢を射ったのか──。」


なんで射ったのかはだいたい想像出来る。


「昔彼らを殺そうとした僕らを

多勢で殺しに来たんだ。

手筈通り準備が整った最中、

暗殺対象である僕らのどちらかが

本気で迎え討ちに構えたのだから、

遠くに居たとしても

守りの弱い弓兵は怯むに決まっている。」


「しかし、

そこまでボクたちホワイト・アウトは

恐れられているという証明だな、これは。」



敵指揮官の位置が

割れた事を忘れてはいけない。

ここから離れた、

弓兵の近くに居るのだろう。


頭上から(くう)を切る音。

盾を頭上に掲げた盾兵は

鉈を此方に向けて構えている。


────どこまでも徹底的だな。

このままでは僕らが大量の矢に殺される。


僕が上を見た瞬間、ラガルが声を上げた。


「ワイズ!上を見るな!」


その声と同時に、

鉈兵と化した兵士が一斉に走ってきた。


更に驚くべき出来事がその瞬間起こった。

高く澄んだ、

走ってきた鉈兵の足を止めさせる程の

雄々しくも美しい、女の声が響き渡った。


「焼き払え!」


僕は直ぐ様、顔を下に向けて目を閉じた。


止めが炎か、

消し炭にするにはいいんじゃないのか。


ごうごうと炎の迫る音、

確かな速度で

だんだん近くなるそれが、

やがて僕らを飲んだ──────。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ