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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
22/59

厭世は楽天を嫌う也。 ─反─

ワイズが居ない───

そんな事を居なくなって気付くのは、

俺の勘が鈍ったのだろうか?

それともワイズが人の居つく瞬間を

捉えるのが上手いだけじゃないのか?


とりあえず俺は、

この二人の元から離脱するべく、

今世紀最大の口実(エクスギューズ)を呟く。


「この辺でいいだろう、

俺はワイズの様子を見てくるから、

先に始めていてくれないか?」


俺の言葉に反応したユウリは

戸惑って辺りを見回し、


「ガイ先輩、

ワイズ先輩は───何処に?」


「了解しました!」


一方、ミーシャは

身を翻す俺の背中に敬礼。

すまんな、なかなか戻らないかも知れない。

基本的に、

獣人に備わる感覚(センス)である、

"状況察知"は人間の比ではない。


走る。ただの森林を走って

風を感じ、

辺りの気配を探ろうとしてみる。


しかし そんな俺でさえ、

この森の何処かに居るであろう、

ワイズの気配が微塵も感じられない。



────だが甘いな、

自信家は時に、

現実に負かされる時の方が多い。

いや、

ワイズが自信家なのかは定かではないが。

ワイズは如何なる戦闘でも

負ける気はしないだろう、

その気持ちが"覇気"となって、

俺にビンビンと伝わってきている。

つまり気配は感じられないが、

存在はこの近くだと

俺の"生存本能"が訴えかけているのだ。


と言うか、あの男は戦闘で

負けた事が有るのだろうか.......?

想像できないところが末恐ろしい。


道を走っている途中、

心の中で警鐘(アラート)()が大音響する。



─────まずい!!?


────しゃがめ!

落ち着け!?いいな?

─────よし、気を反らすな!!

─────そのまま辺りに目を凝らせ!!


己の戦闘本能が命ずるがまま、

素早く腰の

サバイバルナイフへと手を伸ばし、

逆手に握って音もなく抜く。


背後に........誰か居るぞ!

しかし近付いてくる気配は無い。

それは木の上に居るからか。


背中に感じるものは、明確な"殺気"。

本気の殺す気が俺の背中から

この手へと伝わり、若干震えてくる。

更に俺の脚はピクリとも動かない。

蛇に睨まれた蛙....だな。


いやいや、

"ここで死ぬのは嫌だ!"

警鐘はありったけの音響でそう告げた。

ここで死ぬ訳にはいかない。

幾度となくワイズが救ってくれた命だ。

ここで無駄に出来るものか!


俺が人間なら

背中にへばりつく冷や汗、

喉が渇いて声が出ない、

なんて症状が起こっていただろう。

しかし獣人の俺には

そのような器官が無いため、

汗腺は舌にしかなく、

特に喉も乾いていない。

だが俺は今、

それに近い体験を

しているのではないだろうか。

震える体の震えを、

身体全体に力を込める事で払い出し、

俺はゆっくりと息を吐く。


しかし死の恐怖は未だ拭いきれていない。

寒い、それも"冬の寒さ"なぞではなく、

夏の夜に怪談を訊いてしまって

寝付けない時のあの、

"気味悪い寒さ"だ。

手に汗をかかないはずなのに、

俺は左手を服の裾で拭っていた。


それより、

背中越しに伝わる殺気とは

本当にこんなものなのか───?

明確な殺意はまるで、

俺の頭の中に深くイメージを刻んで、

まるで後ろの人間は

本当にこうなのではないか、と思わせる。


鋭い眼光、しかも上から だから

俺より少し背の高い────

赤い───それも燃えるような赤の髪。

肌は茶色くて がたいのいい体つき。

両手に持つ物は─────

鋭い光を放っているが

その紅い剣身は禍々しい。


これが元凶か─────?


片手直剣よりも刃渡りは短い。

しかし男のように細くも、

太いその曲躯(きょっく)

そう─────双剣だ。


意を決して俺はナイフを

後方へ向けながら振り返る。


────消えた。

悪寒が無くなって

急に日射しが暖かく感じる。


──────何だ、

ずっと当たってたんじゃないか。


袖の無い革ジャンパーが

高い熱をもっていた事に今気付く。



立ち上がって、

辺りを見回してみれば

人の気配。

耳を凝らしてみる───。


「ラガル、誰か居たのか?

あと、覇気が凄いぞ」


────ワイズの声だ。


俺は近くの木に

跳び移って気配を消す、

そして覗くと──

俺のイメージ通りの男。

ナイフを腰鞘に納め、

二人の死角となる所へ跳び移ってから

二人の様子を覗いてみる。


炎のように赤い髪、

黒ではないが、

程よく色焼けた肌。

長身で がたいの良く、

腰に二本の双剣────。

何か本で見たことが有るような

模様の剣だが........思い出せないな。


「ははっ、もう消えただろ。

獣人だったよ、あれが

ワイズの相棒(ペア)か?」


「まぁ、この森に入った時から

何の気配も感じなかったこの森に、

獣人が居るとしたらガイだけだろう」


それを訊いた赤毛の男、

血塗られし外套こと、

ラガルは一息ついてから、

真剣な顔つきになった。


「ワイズ。お前、

今 指輪を外してるのか?

覇気が恐ろしい程吹き出てるぞ?」


「いや───」


そう言ってワイズは、

右手の黒い手袋を静かに外した。


そこには 白い手。

あどけなくて無垢な、

小さくて、傷ひとつ無く、

血管が浮き出ていたり、

爪が伸び過ぎてもいない、

子どもみたいな手だ。


だが、親指にだけ違和感があった。

目を凝らすとそこには、

黒色が輝いている指輪が

あっただけなのだが、

何せ違和感としか形容出来ない。


指輪を見たラガルは頷いてから、


「ワイズの制御装置は指輪だし、

なにより手袋してるから

目立たないだろうが、

外す時は辺りを確認すること。

マスターからそう言うように

言われてここまで来た。

あと、それの説明をな」


"制御装置"。そう言ったな。

つまり、ワイズの中の何かを

あれで封じている、という事か。

そして

"ワイズの制御装置は..."

という語から続くに、

多分ラガルという

男も付けているのだろう。


「遂にこの時が来たか」


ワイズが─────ノッている。

ラガルがそれを見て若干頬を緩めた後、


「まず、その指輪の裏にある

"紋様消し"からだな」


「ああ、頼む」


"紋様消し"とは古い封印魔法だな。

俺がギリギリ

知ってるか知らないかくらいの、だ。


言わば、条件を満たせば

解ける封印だな。

紋様の画数に応じて、

複数の条件をセット。


条件を満たせば、

セットされた紋様の一画は消える。

全部消えれば紋様消しは終わり、

封印そのものが解除される。


中には、異なる二つの条件を満たして、

一つ解放みたいなのも有るらしいが。


条件を忘れる事が多くて

封印が解けない事件が多発し、

"紋様消し"自体が

忘れ去られてしまったのだ。


ワイズの指輪へ、

俺の視力をありったけ

集中させる。


見えた!

見たところ、三画の紋様。

視た感じ、弓と矢だった。


すると、

指輪の紋様を見ているワイズに

ラガルが声をかけた。


「ボクが説明する事で、

まず一つの条件が

満たされるらしいからな、

もう一つは、これから話す内容を

ワイズが理解すること。

いいな?」


それにワイズは顔を上げて、

静かに頷いた。

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