厭世(えんせい)は楽天を嫌う也。 ─前─
遂に20話です。
この話を読まれる方、
これからも宜しくお願い申し上げます。
───ユウリの誘いを受けて、
初めて貰えた休暇日に
ピクニックに出掛けたワイズ一行。
ワイズの前に突如現れたるは、
燃えるように赤い髪、長身で外観が細身。
しかし近くに来るとがたいのいい青年、ラガル。
ホワイト・アウトの腕利き、
"血塗られし暗殺者"の名の通り、
気配を完全に消して、
森の中にひっそりと佇む彼の存在に、
ワイズだけが気付く。
そこで二人が話す内容とは─────?
そるでは、お話の始まりです。
体が軽い─────
そんな薄い意識が漂っているなか、
徐々に身体が中から熱を帯びてゆく。
暖かいぞ─────。
瞼の上からでも眩しく思えてきた。
....日は昇った。そろそろ起きねばな。
完全に覚醒した意識を
研ぎ澄ましつつ、
僕は目を開けて正面を見る。
「..ぅょ......よこ....?」
おかしいな、世界が横向きに見える。
いや、正面で目を瞑っているユウリの顔は
確かに合っているのだけれど。
ユウリの向こうの
陽光照らす大窓は横向きではないか。
何度も瞬きして、今の状況に気付く。
いや 正確には、今目が覚めた。
昨日の晩から僕とユウリは
チェア付きテーブルに肩を並べて、
突っ伏して
うつろうつろしていたのだが、
最終的には、お互い隣合って
寝る形になったのか。
それにしては
やけに左手の感覚が鈍い。
若干ピリピリともしてる。
僕の左肩から掌までを辿ると、
どうやら隣で眠るユウリの
枕になっているようだ。
─────抜けない。
顔を上げてよく見ると、
ユウリの両腕が、
僕の左腕を抱き抱えるように持ち、
何故か掌にはユウリの
手が軽く添えられている。
僕らの向かい側の席を見るも、
そこにはガイの眠る姿はない。
ホッ─────。
ホッ─────?
僕は今、
何故ホッとしたのかを考えるが、
直ぐに悟る。
まだ"見られていない"
ということは、
これから"見られる"かも
知れないということ。
これは早急に脱出して、
誤解されないように
しなくてはいけない。
いや。
僕自身、何を誤解されるのかが
全くもって判らないのだけれど、
とにかくこの状況が僕にとってまずい。
────精神が──────!
────理性が──────!
このまま この、
温かくて優しく柔らかい手に
握られたまま居たら、
頭の中がおかしくなりそうだ!
心が温かく満たされ
自分を優しく包み込む
今までに無く心地よい感覚を
無理矢理 払拭して
かなぐり捨てるように、
僕はそっと席立って
ユウリの頭を右手で包むように抱える。
──いや、
このような事に
慣れてないだけなのだ。
だから唐突に
こんな緊急事態が発生していると、
心臓が跳ね上がる。
─────心臓の鼓動が大きい。
それに僕が気付くのが早いか、
ユウリの目がパチリと開いた。
自分の胸を人の耳に近付ければ
心音は伝わるのだから、
鼓動が大きければ目が覚めるに
決まっているではないかっ!?
僕はまだ左腕を抜いていない。
ユウリの顔を右手で抱き抱えた
僕の目が、葵色の綺麗な瞳にとまる。
ユウリは硬直したままだ。
僕は
さも何も無さげに左腕を抜....掴まれる。
これは........と思いきや、
ユウリはそのまま左腕を
抱き抱えて頭を乗せ、目を閉じた。
なんだ寝たのか、なんて思える訳もなく、
そのまま観察してみることにする。
なんだこの可愛らしい小動物は。
「................」
お、だんだん顔が赤くなってきた。
自分のしたことに
今更気付いたな、お寝ぼけさんめ。
僕がもう一度席に付こうとすると、
寝室の扉が開く音がした!
僕はとっさに突っ伏して伏せた。
ガイか───?ミーシャか──?
「────!?
まあまあ、仲睦まじいですね、あの二人」
「あ........ああ───
まあ、なんだその───見せ付けてくれるな」
二人かよっ!!
というかガイ、
手前ェ、なんだその言い草は!?
僕はまた伏せているのだが、
お寝ぼけさんのユウリが
今朝よりも身を寄せて
僕の左腕を抱いているため、
実質僕の肩から直ぐのところに
ユウリの頭が来ていることになる。
正直かなり、こそばゆい。




