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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
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ホワイト・アウト

ガイ「ワイズ、金はいくら持ってる?」


ワイズ「何だよ藪から棒に、そんなもの無いけど」


ガイ「!? 今まで一体どうやって過ごしてきたんだ?」


ワイズ「どうやってって、ご飯ならギルドで食べてたよ」


ガイ「それくらい察すれば判るよ! それ以外でだよ!」


なんでそんなに怒ってるんだよ。

お金なんて必要無い。そんなものは重いだけだ。

ずっとそう思って生きてきた。故に僕は、お金をあまり見た事がないし、使ってみたいと思った事はない。

だいたい、生活と言えば頼まれた事をこなすだけ。そう、与えられた任務をすぐこなし、次の任務を果たすだけの生活だった。

この刀は、我らホワイト・アウトのギルドマスター、マグナによって魔法で作られた刀であるからか、折れた事がなければ刃こぼれしたことも無い。

僕はマグナから任務が与えられれば、常に同じ言葉で返していた。


「御意」


この一言で、僕はこの刀一本を携えて戦地を駆け抜けた。


打って作った刀と、魔法で作られた刀では、分子配列の構造が違うらしい。そもそも魔法で作るのに成功した例がないらしいがよく解らん。

ただ解るのは、この刀は僕専用の刀であって、これさえ有れば僕はこの世界を生きてゆける。


それらしい内容をガイに話してやると、


「アンタ...噂に訊くホワイト・アウトのメンバーか」


知ってる口調でそう言った。知らないものだと思っていた僕はすぐに聞き返す。


「知ってるのか?」


「えっ」


「えっ」


ガイに続いて、僕はキョトン。

どうやら僕は、任務人間だから"黒犬"と称されているらしい。

僕の仲間に、ラガルと言う名前の燃えるような赤髪で背の高くがたいのいい青年が居たが、彼の名が"血塗られし暗殺者(クリムゾン)"らしいが、


「格好良いな、それ」


僕はそう呟いたが、ガイは毛だらけの顔をしかめている。


「良くねぇよ。見た者全てを殺す暗殺者(アサシン)なんだろう」


奴はそんな格好良かっただろうか。


「いやぁ、見た目は確かに背が高くて腹立つよ。一緒にご飯食べたり、一緒に任務行ったりするけど格好良いところか......」


僕が考え始めると、いともあっさりとガイは結論付けた。


「まぁ、同じギルドに居たら普通だよな」


でも、アンタの服装からは覇気が感じられない、そうガイは言って僕を見る。


上から見ると、漆黒の黒髪に結った下げ髪。使い古しなのか、古く黒い足首まで伸びてる外套。地味で真っ黒な半袖の服と安そうな小手とズボン。そこそこ高そうに見えたけど、見えただけだった黒いバトルブーツ。そこまで同時に見終わったのか、ガイがツッコんだ。


「麻の服って、戦いの時もそれかよ」


「僕は斬られないからね」


どっから来るんだよ、その自信は と呆れられた。


「それと、そんな細い武器見た事ないぞ。俺のハチェットに当たるだけで折れるんじゃねえの?」


ハチェットとは、斧の事か。

僕はガイの、背中の二本を目線で追って言った。


「二本同時に振るのか」


「まあな、ドワーフだからか腕っぷしはあるんだぜ」


そう言ったガイは、正面を見やって笑った。


「ワイズ、見えてきたぞ。あれがスジャだ」


やっと着くのか。

見えてきたのは、連なる山々にでかでかと築き上げられた城壁。この道は城の関所まで繋がっているのが見える。


「お腹空いた、やっと着いたのか」


「何も食べてないって言ってたな」


ガイに僕は棒読みで言い返した。


「水しか飲んでないけど僕は生きている」


「生きろよっ!?」


ガイは走って関所に入国書を僕のと一緒に出しに行ってくれた。思いの外走るのは速い。揺れる尻尾はまるで生き物のようだ。


手荷物検査が有るのだろうが、僕はあいにく不知火しか持っていないので、怪しまれるかも知れない。またホワイト・アウトの名を出さねばならんのかと思いながら、僕はガイの入っていった関所へ入る。


「そこの者から入国書を預り、印の照合中だ。今のうちに持ち物を全てここに出して見せろ」


関所から街の入り口の方に、入国審査を終えていたガイがこちらに手を振っているのが見えた。僕はそれを確認して不知火を兵士に手渡す。


「こ、これだけなのか?」


僕は頷いて肯定し、両手を挙げる。


「あ、ああ。オイ、こいつのポケットをチェックしろ!」


別の兵士が駆け寄って来て、僕の外套やズボンのポケットを叩いたり手を突っ込んだりしてみる。


「何も無いで有ります!」


僕の刀をあちらこちらと見入っていた見張り兵士が向き直り、


「むしろ清々しいな、少年 これは武器か?」


だとしたら細過ぎるが、と付け加えたのでとりあえず頷く。


「まぁ、これだけ細ければ殺傷力は無いだろうし、何も問題は無さそうだ。あの獣人はギルド入団志願者みたいだから、武器の持ち込みをすぐに許可した」


もう一人の兵士もそれに頷く。


「はい。これは飾りか何かの類いではないでしょうか。こんな武器は見たことがありません」


兵士がそうだろうななと言うと、向こうから声が聞こえる。


「本物の入国書に違いないであります!」


看守は頷いてこちらに向き直った。


「そうか。よし、そこの二名通ってよし!」


「ほら、返そう」


そう言って、兵士は僕に不知火を手渡してくれる。


「ありがとう」


装飾品と勘違いされた不知火は抜かれなかった。

刀を大切に腰に納める僕を見て、兵士は問う。


「大切な物なのか? 入国書によると滞在期間は五年だから、その期間中こちらで預かる事も出来るぞ?」


「構わない。これはここで僕が使うんだ」


僕はそう言ってガイの元へ歩み寄る。ガイは僕を目認して、


「本当に荷物が少ないんだな」


「僕はこれ一本で何処までも生きていけるって言ったろう?」




「そうだな....」


ガイは少し考える素振りを見せてこちらを見ると、頭上のその大きな耳を揺らした。


「なぁ、コンビ組まないか?」


「どういう事だ」


「お互いに手の内を見せた事は無いけど、今から行くギルドに入るんなら、同じテストを受けるはずだぜ?」


「テストを受けると訊いたが、コンビじゃないとテストを受けさせてくれないのか?」


「あぁ、ペアでこなさないといけない項目がいくつかあるんだよ。ギルドは集団行動がほとんどだろう。概要、読んでないのか?」


「ああ。ラガルのあんぽんたんが、"概要捨てちゃったけどワイズなら大丈夫だろう"って」


「本当にそれが噂のアサシンなのかよ....」


今思い出したのだがラガルは知塗られた暗殺者なんかじゃなくて、あの"外套"が赤だった気がする。


............。


まぁ、放っておこう。どうせ僕のことじゃない。

仮に異名が変わって、ラガルのイメージが落ちてしまってはいけない。まぁ、少なからず僕からのイメージは落ちた。


おっといけない。


落ちるとか思えば、テストにまで落ちそうじゃないか。

なんて事言ってるんだガイは........!


いや、僕が考えた事なんだけれどもね。僕は誰に言い訳してるんだか。まるでそれは、浮気の原因は全て妻に有ると言いたげな夫の辛い言い分である。


はてさて。


「組むのはいいが、ガイには何の利益も無いんじゃないのか?」


「有るよ。ホワイト・アウト出身のアンタとなら俺は絶対に受かるんじゃないのか?」


成る程、保身のためか。それが狙いなら このテスト......強い奴と組めばそのコンビはどれも勝つんじゃないのか?


そんな簡単に入れるギルドなんて、レベル低過ぎるんじゃないのか? ぬるいのだろうか........?


そんな甘い選択肢なぞ無いものだと僕はそう思っておこう。何せこれはテストだ。安い物には必ず理由があるってシアンが言ってたぞ。


「ああ、このテスト僕と組めば、君のテスト合格を保証しよう」


「本当かっ!?」


顔中ふさふさの顔から生えるヒゲがヒクヒクと動いた。


これでテスト直前に組む相手が居なくて慌てる、という事態は事前に回避された訳だ。僕が独り、あの安全道を通った事は無駄にはならなかった。どうせ合格に利用されるなら、こちらからも願われる通りに利用してやるまでだ。


二人は再び、握手を交わした。そして、武具を着けた人々が集まっている、大きな角の二本生えた建物へ向かうのだった。

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