ピクニック
軍部の依頼で参戦する事になった任務も
早期決着し、僕は直ぐ様
今 所属している
ギルド:ホーン・ブルへ戻るのだった。
軍部からの依頼が一日以内に
終わる事はなかなか無いのだが、
ホワイト・アウトの時と違って、
制圧する敵拠点が近かったのが大きいな。
帰るとそこには──
門前にガイとユウリがいた。
ガイは袖の無い上着から、
逞しく毛で覆われた
腕を見せてそれをズボンの
ポケットに突っ込んで静かに佇んでいる。
一方ユウリは、
最初に見た時とは違うものの、
ほぼ全身黒色なところは僕と同じで、
黒のロングカーディガンに、
─────────カットソー?
そして下は、
黒のキュロット────だろうか。
そして色の白くて細い膝が覗くが、
それに反した色の黒いブーツ。
藍色の綺麗な流れる髪に合っていて、
端から見れば本当に佳人である。
佳人薄命と言うが、
早死にはしないで欲しいものだな。
服の名前だけを知っていて、
実に本当の名前が危ういものだが、
ユウリのはあれで間違いないだろう。
ガイが僕の存在に先に気付いたので
僕は早急に誤解を解くべく、
「ガイ、昨日は────すまなかった。
隠すつもりは有ったが────
君を裏切るつもりは微塵も無かったんだ」
ガイは驚きの表情を見せる。
あれ、今 僕はおかしな事を言っただろうか。
「ワイズ────アンタが出た後、
マスターから本当の事を訊いたんだ。
弱りかけのグレイヴ・ドラゴンを
単独撃破した後、何か形見になるものを
探し出して持ってきた事も」
あの女────やっぱりどこかで見てたのか。
「────何だ。
こうして誤解を解きに任務を高速で
片付けて来る事も
フールにはお見通しだったわけか」
「まあな、
それもマスターが言ってたよ。
そして─────」
ガイは一度、
大きく息を吸ってから腰に手を当てて笑う。
「それをアンタが行動で証明した訳だ。
信じるよ、むしろアンタが俺を裏切ったなんて
これっぽっちも思ってなかったんだがな。
むしろ、俺を思って一人で行ってくれたんだよな。
実はマスターが見てた見てなかったに関わらず」
僕は、どう反応を
返していいか判らずとりあえず頷いた。
僕はまた、仲間に迷惑や要らぬ心配を
掛けてしまったのだろうか─────。
しかしガイの隣にいるユウリは
此方を見て微笑んでいた。
その明るい桔梗色の目が合うと、
「先輩!軍令すら何の躊躇いも無く
受けてあの場を立ち去った事に、
ミィも私もとても驚きました!
─────────尊敬です!」
僕はその可愛らしい敬意に 静かに笑って返す。
「ありがとう」
そう言われる程の大した事じゃないんだがな。
お礼を言われたユウリは、
葵の花によく似たその目を細めて
嬉しそうにまた微笑んだ。
僕やホワイト・アウトの
"血塗られし暗殺者"ことラガルが
専門にする主任務の部類みたいなものが、
"紅任務"と呼ばれるもので
簡単に説明すると、死ぬ事が多い。
受けた奴が送られる場所は死地。
更に待ち受けるのは戦争だったり
一国を変える程の重要人物の暗殺。
本気で殺し合いを求め合う者達が
森林エリアに集められて
対人の狩りであるゲリラ戦闘を始めたり。
近隣国に知らされていない密輸貿易を
邪魔しに襲ったり、
怪獣クラスの魔獣を
大規模メンバーで討伐したりと様々だ。
中には一年や十年そこらで
帰って来れない任務だってある。
────本来なら五つの大国を
五日で滅ぼした僕らホワイト・アウトは
完全に例外だ───。
あれは二度と起きてはならないこと。
たとえ戦争の引き金が
どんなに些細な事で有ろうとも。
僕は改めて考えてみる─────。
あの日、何兆人が死んだ?
一国の人口が何億人だ?
あの大国の中には人口十億人や、
それ以上の国だって有ったはずだ。
僕らはその国の全兵士達に限らず、
ましてやその国々の人々に限らず、
───その大陸そのものに
──────────大穴を穿ったのだ。
記憶に残っていた誰かの
呟きが頭の中で再生される。
"─────軍神を召喚し、
あまつさえ罪無き一般市民を巻き込んで
殺す事は、決して赦されざる行為だ。
そして罪を糾弾されるべくは───
ホワイト・アウトを──この────だな。"
少し寒気がしてきた────。
思わず身震いしてしまう、
そして自分がかなり
冷や汗をかいている事に今更気付く。
あまり深くまで思い出さないように、
僕はその過去の事実から目を背けるべく、
「中に入ろう。ミーシャは?」
僕の問いにユウリが答える。
「あの子、先輩が心配で一番最初に
待ってたのですが、疲れて寝ちゃいました」
───そうか、ミーシャにも心配掛けたんだな。
「起きたらお礼を言わないとな、
─────二人共もありがとう」
何故かユウリが僕らの青棟に
付いて来ていると思えば、
解錠して部屋に入ると
僕の布団の上にミーシャが寝ていた。
ちなみに、
この部屋は二人用にも関わらず
布団は二組、
ベッドが一つしか無かったので、
僕は布団の方で寝る事にしている。
何故そこでミーシャが
寝ているのかを糾弾すべく僕は、
「ここ、僕の布団だよな」
するとその言に気付いたのかガイが、
「安心しろよ相棒、
ミーシャは俺の布団で寝て
毛だらけになった訳じゃないからな」
言葉の意味が判らなくて
安心出来ないのはこれ如何に。
僕はガイのベッドに目をやると、
枕やシーツには、
ガイの体に生えていた
ミルキーブラウンの毛や
頭の髪らしいダークブラウンの毛が
入り交じるように抜けて
布団のあちこちに付いているのを発見した。
僕はガイの肩に手を置いて、
「獣人も大変なんだな。でも───
ここじゃなくて女子棟に
運べば良かったんじゃないのか?」
その言葉にガイは静かに目を伏せて、
「───すまない、
気付いたら俺のベッドめくれてて、
────ワイズの布団で寝てたんだ」
「つまり、
ガイのベッドは─────避けられたんだな」
ガイは静かに頷いた。
心なしか、目が死んでいる。
僕らに近付いてきたユウリは、
ロングカーディガンの両ポケットに
手を入れてヒラヒラさせながら
なんだかムスッとしている。
「先輩方~、女の子の寝顔を
勝手に覗いていいのは
好きな人だけなんですよ~!?」
布団と僕らの間に割って入ったユウリは、
両手を振って さあ行った行ったと
言うふうにロングカーディガンに
入れた両手をヒラヒラさせる。
僕とガイは寝室から出て、
リビングと呼ぶべき
広いスペースに陣取られた
テーブルに向かい合って座るのだった。
ミーシャの布団を直していたユウリも
出て来て、僕の隣に腰掛ける。
「明日はお暇ですか、先輩方?」
後輩の問いにガイ先輩は、
「暇だな」
その返事を訊いて僕も、
「暇だね」
入団して たったの二日で任務を
かなり単独でこなした新人は初めてだ、
と言ってフールは明日を休みに
してくれていたのだった。
僕が他のギルドに所属していたのに
"新人"と呼ぶとはわざとらしいな。
僕らのやる気無い返事を
訊いたユウリは嬉しそうに
テーブルに身を乗り出して、
「ではでは!
明日は私達が先輩方の
時間を頂いて宜しいでしょうか?」
「僕らは明日目覚めたら、日付は
明日じゃなくて明後日なのか?」
何だそれ、魔法使いか。
僕が素で放ったボケに
ガイは笑って突っ込む。
「いや、物理的に時間を
貰う訳じゃないと思うぞ?」
「そうですよ!
ピクニックに皆で行こうって
言ったじゃありませんか。
覚えていらっしゃらないんですか───?」
ユウリが悲しそうな顔をするのに、
僕は慌てて取り繕う。
「御免よ、覚えてるよ。
僕がユウリの言った事を
忘れる訳ないじゃないか!」
だって、海老天が食べられるんだろう───?
ユウリの目が細められる。
「何だか、海老天だけ
覚えててそうだと思ってたのですが、
そこまで仰られるのなら結構です」
ユウリさん、図星です怖いです。
でも、頬に紅が差してるのは気のせいか?
何故かガイは此方に親指を立てていた。
それ、十関節になる位に折っていいか?
なんて考えつつ、
「じゃあ、場所は何処にするんだ?」
僕の切り返しに、
その日の三人の会話は続くのだった。
途中でミーシャも起きてきて、
僕はミーシャにお礼を言った。
四人で食堂に夕食を摂りに行き、
別れ際までその話で盛り上がるのだった。




