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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
18/59

rainy war

黒犬だ!黒犬のお出ましだぞー!

く、来るなあ!


そんな声が敵拠点の城内に響き渡る。

それを聞いた、

僕の後ろに居る軍部の兵士達が

後ろで笑ったような気がした。


僕と、兵士達二十人の遊撃部隊は

弾ける水溜まりに履き物を濡らしながら

走ってここまで来るも、

足に力を込めて立ち止まる。


城門を護り、

突撃させまいとして 怯えながらも

死守しようと身構える敵兵士達の後ろで、

馬に跨り、スピアと盾を持った

リーダー格の男が叫ぶ。


「案ずる事は無いっ!

盾で奴の不気味な剣を受けて、

直ぐ様後ろのイーグン隊は突け!

此方に近付こうものなら、

間合いに入らせない対策をするまでだっ!」


どうやら僕は近付くと串刺しにされるらしい。


訊いておののけ、僕の装備は、

軽くて安い黒の外套に黒手袋と

黒い布の服と

黒い布のズボンと

黒いバトルブーツだ。

(はがね)製の長槍じゃなく、木の槍だけでも

先が尖ってりゃあ、

本気で突くと僕の体には穴が開く。


今、僕らの目の前には大楯(おおだて)を持った

男達が隙間なく、

並んで僕達の前に立ち塞がっている。

城門を目の前にしてこれだから、

拠点の奪還任務と言うのは難しいと言われる。

ほぼ、強戦力がここに

固まっていると言うのだから、

このくらいじゃないと張り合いが無いがね。


僕の後ろの二十人が後ずさった。


「く、黒犬、

刺されるぞ、どうするんだ........?」


「........任せろ」


僕は刀を横に構えて、

盾兵の真ん中辺りを狙って()める。

まぁ、僕は正面突破するのだが。

これはホワイト・アウトのメンバー、

オーグという男が教えてくれた秘技だが、



彼の武器は巨大なグローブ。

側面には刃が三本生えた、

鋼よりも固く、重いグローブだ。

彼の一撃は、

ジャブで山を穿(うが)ち、

アッパーで巨大海蛇(シーサーペント)

海から陸へ上げて陸蛇に生態を変え、

背中を軽く小突けば凝りがほぐれ、

地面を殴れば何故か周囲の岩が砕ける。


─────優れ物だ。


オーグの秘技。それこそ正に、

逆境へ立ち向かう勇気と、

それを圧倒するだけの強力な防御力。


───いや、今の説明では

勇気よりもむしろ、

優れた防御力のオマケに

利便性が有る、と言うことしか

説明できてないじゃないか───。


気にしない。


オーグが道で(たたず)んでいて、

誤って撃たれた大砲の鉄球でも、

たちまち彼が拳を振り抜けば

オーグは飛ばず、鉄球が砕ける。

彼は言わば タンクである、無敵の。



僕はちょっと口許を緩ませてから、

刀を霞崩しに構え、敵陣へ超速接近する。

その瞬間、

盾兵の後ろの方に居た長槍敵兵が

青ざめて走り出した。




─────この時のワイズは、

何故逃げられているのかを知らない。


青ざめるのも当然である、

無心に構えているように見えたのに

次の瞬間には口許が笑っていて、

まるでこれからの狩りを

楽しんでいるかのように見えたのだから。


それに、雨に濡れたワイズの

少し長い前髪は、正面から見れば目を

隠しているように見えて、

何処(どこ)を見て走って

来ているのかが皆目検討がつかない。

その上、常人離れしたスピードで

見たこともない、鎌のように

人を一撃で殺す武器を(たずさ)え、

笑ながら迫って来るのだ。

これでは、此方には来ないな、

と思っていた人間でも、

エスパーで心が読めない限りは

命が有る内に逃げ出すに決まっている。




大盾兵を横凪ぎ一本で全員蹴散らし、

僕はリーダー格の男の首目掛けて刀を構える。

無論、このままもう一度横に振り抜いて

あいつの首を跳ねるつもりである。

だがしかし、


「ひいいいいいっ!撤退!撤退!!」


リーダー格の男はスピアと盾を放り捨て、

何故か片手で股の方を押さえてから、

怯えて脚が

ガタガタしている馬を城内へ走らせる。

馬の方は股から、水滴が雨以上に垂れていた。


馬は競馬でもかくやという、

凄まじいスピードで駆けていった。

それも必死さが滲み出て見える程に。


────行くか。

何故か盾を拾って

城内へ駆け込む僕に続き、

兵士達も僕についてくる。

それとほぼ同時に、

別拠点を押さえていた隊も此方へ駆けつける。


「敵大将、押さえたかっ!?」


援軍の一人が叫ぶと、

此方の隊の者が返す。


「今から黒犬が

押さえるところだ!援軍助かる!」


城内突入、

王室であろう巨大な扉が目の前。


泣きながら此方へ

走って斬りかかる敵兵に、

僕はなるべく早く死ねるように、

攻撃を受けたら全て、敵の横腹へ攻撃を返す。

敵の槍を斬り払っては、

一気に間合いを詰めてその首を跳ねる。


やがて王室に一人で乗り込んだ僕は、

この城の王様に対峙する。


「我はルータムブルク家の王、

グリム・ルータムブルク二世である!

黒犬よ、いざ─────尋常に勝負!!」


敵の王と対峙する時は、

名乗り終えるのを待つのがルール。

礼儀作法の一つだ。

無論、こちらも貴族なら名乗るのだが、

何せ僕の名前にはワイズの後が無い。

いや、無くはないのだが今は殺している名前だ。


僕の名は、この辺に広まっている所以か、

名乗らせて貰える機会

というのが全く以って無い。



────それでも貴族か!

と内心で毒づいてから僕は、

周りの護兵が突き出す槍の前に

先程拾った盾を突き出す。

なんと─────

槍は全部、硬質の悲鳴を上げて折れた。

槍を見ると鋼製。


盾は────

アダマンタイト、

と言うらしいレア鉱石だろう。

確か、城門前の兵士は皆、

これを持っていた気がするんだが。

まあいいか。



王の目の前へ。


王の目には

涙が溜まっていたのは───

───────────今更気付いた。

しかし僕の刀は、もう止まらない。


王の縦斬りを払う事なく

体を反らすだけで避けて、

その横腹へ刀を滑らせた。


─────この言葉に語弊は無い。

王の上半身は斜めの赤い線を描いて

中の液体を回りに(ほとばし)らせた後、

ずるずると滑り落ちて下半身も倒れた。


豪奢な装飾で金色の柄に

竜を描いている金刃の直剣を、

所持者だった男の血が飲み込んでゆく。



僕は刀の血を斬り払い、

刀を三回転程させてから鞘に納める。


「────任務遂行(ミッションコンプリート)


そう呟いた僕の元へ、一人の兵士が駆け寄る。


「黒犬殿、お疲れ様であります!」


足を鳴らしてから敬礼する、

青年とおぼしき男は、

アイアンヘルムを外すや、


「後の処理は任せて下さい!

拝見したところ、

傷をお見受けしないようですが───?」


黒犬が傷なぞつけられる訳が無かろう。

僕は目を、元来た扉の方へ向けて、


「"黒犬殿"はやめろ。

ただ黒犬かワイズで構わない」


外套を翻して僕は扉の方へ歩き出す。

兵士はそれにハッとして再び敬礼し、


「はっ!失礼しました!」

ワイズはゆっくりと城門から出ると、


「小隊長!」


一人の兵士が小隊長なる、

軍服を着た男に走って駆け寄る。

その手には、

僕が叩き斬って横半分になったあの

アダマンタイト製の盾だった。


「どうした!鑑定士!」


「敵兵の物ですが、

アダマンタイト製の盾が

半分になっているであります!」


「何いっ!?

偽物じゃないのか!!

大砲の鉄球を受けても

かすり傷で済む盾だぞ!?

いや、貴様の目が

腐ってるんじゃないのか!?

実は貴様は

鑑定士ではないんじゃないのか!?」


さぞかし混乱している模様───

人間は常識が

覆るとこんな反応をするんだな。


「滅相も御座いません!

そこの全部半分になっており、

盾の切り口と同じく、

横たわる者の傷もまた、

横一文字であります!」


その瞬間、

小隊長はその場に泡を吹いて倒れた。


僕はその場から

走って帰ることにしたのだった。

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