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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
16/59

prediction act

書いている途中で投稿してしまいました

失礼しました。その続きを改稿しましたので、

是非とも15話もご覧下さい。

今後とも、

Blade And Hatchettsをお楽しみ下さい。

それでは、お話の始まりです。

全体的に長く、艶が有り大樹のように自由に

伸びる黒髪の中で、

後ろだけ異常に長くなった髪を

結って束ねている、

黒い外套を着ている少年は、

片手でそれを払いながら


防暖防寒を完備し、

滑り止めの役割もする手袋の

手首の紐を絞め直してから、


己の愛刀を前足(みぎて)で握り直して、

片方(ひだりて)を左胸、今尚鼓動を続ける自分の命の前に

手を添えてから、静かに正面を見据える。


────ガイはまだか─────?


─────自分で言うのも何だが、

自分よりも強力な強者に直面し、

一対一じゃ敵わない、

強力な戦力を持つ 一つの個体が有れば、

やはり攻略方法は、多勢で取り囲みかつ、

息を揃えて仲間を護りつつ、

一人一人の力を最大限に引き出しながら

一斉に攻撃することだと思う。


さすれば 強大な力を持とうとも、

容易く圧する事が出来る。


────だが、

それを真に受けない者も居る、

という事も有る。


例えば、

"多勢で掛かって来るのを迎え撃つ専門"の奴、

とかかな。


僕は神様じゃないが、

こんな単調な狩りには正直、

幾度となく何度も直面してきた。

慣れている、と言うのには少し語弊が有るが、

僕はただ、強くなりたかったがために、

ひたすら魔物や人間を斬り続け、

やがて感情をかなぐり捨てるようになり

"自制(じせい)"を身に付けた。

その後は自分の感情を制し、

己の戦闘本能が(おもむ)くままに

正面の敵へ刀を抜いた。



僕は、正面の敵の攻撃を右手の刀で受ける。

受けたタイミングで、

右隣から斬りかかってきた敵へ

目掛けて刀を走らせ、体を左へスライドする。

ただ単に、斬った腹から飛び出した黒い血を

避けたのも有ったが、本命はこっち。


最初に攻撃を受けた相手が再び、上から僕へ

直剣を振ったのが地面に落ちたのを確認して、

僕は再び刀を高速で走らせる。

今度は首が高らかに飛んだ。


僕は刀を振り払って隙を見せた振りをし、

血飛沫をかわしながら難なく下に(かが)む。


此方へ走ってきながら僕へ向かい、横薙ぎに

全力を注ぐのを呆気なく避けてやったのだ。

その男の直剣は、もう一方から走ってきた

別の超近接系武器を持った男の

横っ腹に深々とめり込んだ。


横薙ぎにした男が焦って、

両手で柄を握って引き抜こうとすると、

当たった奴は激痛のあまり即死したようで、

その場に倒れ込んだ。


僕はその隙を逃さない。


下から、

両手の塞がった男目掛けて喉笛を突く。


そのまま押し上げて深く刺さったら、

腹を蹴って刀を抜き、

再び別の敵の攻撃を受ける。

体押しで武器ごと押して飛ばし、

後ろに振り返りながら、

ドタドタと足音で"近付いてますよー"と

知らせてくる背の高い男の首を、

見向きもせずに跳ねてやった。


先程体押しで飛ばした青年に向き直る。


怯えているな、それに若い。

命令されて動いているのだろうか。



──この多勢への迎撃で今だに

全くの無傷である事を、青年は

純粋に不気味がっているのだけの事が

全くもって、ワイズには判らない。



僕は青年に上段で斬りかかる。

青年が怯えて目を瞑った。


───フェイントだよ、青年。


防御姿勢をとった両手には

何の衝撃も伝わらない事に、

青年は目を開ける。

正面には僕の姿は無い。

それもそのはず。


僕はその間、

刀を逆手に持ち替えて後ろに回り込む。

一切の動きがない事と、うなじの下辺り

を確認して、全力で上体を捻り、

刀を振り込んでいた。

首が餅投げの餅のように、空中に舞った。

僕はそれに目も暮れずに次の敵へ。



───この戦い方を世間は、

攻防一体戦術(パーフェクションスタイル)とか、

予測行動(プレデイクションアクト)とか様々な名前で呼ぶ。



僕のはきっと、そのどれにも当てはまらない。

だって、本来 反撃(カウンター)とは、

相手の攻撃を見て、瞬時の判断でガードし、

当たると思われた攻撃が受けられたのだと

相手が驚いて隙が出来たところに、

こちらから相手へ攻撃を返すもの。


こちらは無傷で相手へダメージを与えられる。

多少リスクが有ろうとも、

ほんの少し遅れた防御ならダメージは少ない。


しかし僕は、

相手の攻撃が僕の身に降ってくる直前には

刀をその地点に置いている、

と言うよりも もっと前。

相手が攻撃モーションを見せる前から

既に刀は受けられる位置に来ているのだ。

つまり相手の攻撃は見ていない。


しかし僕の目は別方向を向いて

───────次の攻撃を

予測しながら他の敵の攻撃を見計らう。

まぁ、大体四人分までだが、

それぞれ この身に

攻撃が降ってくるまでの

猶予期間(モラトリアム)が有る。

それをある程度短めに予想しておいて、

その攻撃が来る前に目の前の敵を片付ける。

ほんのコンマ単位の時間差だが、

それでも(さば)くのが

ホワイト・アウトの黒犬。

相手の攻撃パターンが同じなら、

この鍛え抜いてきた右腕を一閃一撃。

一刀の元に斬り伏せるまで。


攻撃が速いようなら、

この刀で受けて、即返す。

即死したのを確認するのも忘れずに

まず、その場から瞬時に立ち退いて、

まんまと空所に剣を叩き落とした奴目掛けて

刀を振るうのだ。後はそれを繰り返す。

しかし、世間でうたわれる本来の完璧な型、

攻防一体戦術や予測行動は違う。


一人の相手と何度も打ち合い、

相手の次撃が来るであろう位置に、

相手の攻撃モーションよりも先に

武器を置いておき、それを受ける。

これは経験則からの予測であり、

その予想が外れて

本当に相手から斬られる事も有り、

ハイリスクである。

つまり、ある域を超えた達人の成せる(わざ)だ。


だが、僕はその業が使えない。

いや、使えるが使わないのが正確だ。

僕は一撃で敵を殺せる武器を持っている、

しかも折れない。

同じ敵の攻撃なんて見ないのは、

一撃で敵を殺すから。


初対面で、

一撃に確信を持って斬っている僕に、

おそらくその読み業は必要ない。

それは、相手から一度も一切の攻撃を

受けていない僕自身が、それを証明している。

まぁ、見向き出来ずに僕が一撃で

殺している人も中には居た気がするんだが。




しばらく、

作業的なカウンターの嵐が続くが、

やがてリーダーと、

残った下っぱ二人だけになる。

リーダー格は、

やはり食堂でこそこそ話していた

中心人物であり、

最初にギルドを案内してくれた男だ。

その男は、僕が近付くと慌てて口を開いた。


「く、来るなああっ!!!

ギルドメンバーの俺まで殺せば、

マスターに知れるぞ!」


僕は真顔で真面目に、


「僕一人に対して、大人数で掛かっても

誰一人として僕に傷を付けられなかった上に、

ボコボコにやらましたって事がか?

それとも、

アンタが僕の仲間を囲ってる事か?」


男は屈辱の表情を見せた。

しかし、その背中に下がった

武器を抜こうともしない。


「ギルドメンバーを、無意味に

殺す事は、規則違反だ─────」


震える声でその男は言った。

それに、そいつらは俺の仲間でもある──

そう言い切りやがった。


───僕の中で、

何かたぎるものが切れる音がした。



「監禁して、

傷物にして返すのがアンタの仲間なのか」


割りと静かに、

そんな問いかけが僕の口から(こぼ)れた。

しかし僕の問いに男は答えない。

僕は徐々に声を張り上げて、


「じゃあ、ミーシャやユウリを──

何の罪も無い女の子を

監禁する事はいい事なのかよっ!

殺す以外なら有るべき常識は───

─────無視されてもいいのかっ!?」


僕は吠えていた。

男達は急な怒声に怯んでいる。

僕は直ぐさま、


「答えろっ!──先輩よっ!

─────この下種(げす)野郎が───!

ここで切り捨てて

血の華を咲かせてやろうか────っ!


握っていた刀を振り上げて、

片手 大上段に構える。


だが頭の中に、

昔マグナに言われた言い付けを思い出す。


斬っては駄目だ、

例え"殺してはいけない"だけの

"斬るのはいい"みたいな下種(げす)

思考や誤った解釈が頭にちらつこうとも、

守るべき常識は守らねばならない、

君が男で─────侍ならな。

それが僕の中に長年根付く"自制"だ。

マグナから学んだ

それだけが僕の守るべき規則(ルール)

僕自身が規則破壊(ルールブレイク)

絶対に許さない。


─────しかし、


まったく違う年に生まれてきたのに

どうしてこうも戦力差が生まれるのか、

僕には予想もつかない。

今度マグナに訊いてみよう────




そう言えば、

─────今は傍に居ないんだったな。

寂しさから震えを(こら)えるように、

僕は正面の男達を()める。



そして、無心に刀を振り抜 く。

その瞬間だけ、僕は時の停止を感じた。

斬ったものの一つ目は、

リーダー格の男が"先端に針の付いた棒"を

握り僕の居たところへ突き出していた腕。

二つ目は、

下っぱの一人が出していた"吹き矢"の筒。

三つ目は、

もう一人の下っぱの背後に回った僕の刀が、

首元に当てられ、

皮を薄く斬り一滴の鮮血を垂らさせる。


リーダー格の男の、僕が斬り飛ばした腕が

血を飛ばしながら地面に落ちた。


そして時が動き出した。

僕は口を開く。


「それがアンタの答えか」


再び刀を振り抜こうとしたその途端、

やたら柄の長くて刃の

デカい斧が空から飛んできた。

それが大回転しながら地面に突き刺さる。


僕のしようとする事への否定と見た。


それを見た下っぱ二人が

気絶してその場に倒れ込んだ。

まあ、

このデカい斧の持ち主は知っているのだが。


「ワイズ、そこまででいいだろう、帰るぞ」


止めはガイが躊躇ったものだ、

ユウリとミーシャが無事に

見つかってからでも良いだろう。


「ああ、結局この男の

したかった事が(かい)せなかったがな」


「大方、後輩への威圧とかだろう。

やっぱり、この国の者じゃないにしても、

人には敬意を払うべきだったんじゃないか?

ミーシャやユウリが

俺達の代わりに被害に有ったんだからな」


僕は相棒の言葉に、素直に頷いた。

そうだ、未然にそれを

防げなかったのは僕達なのだから。

反省すべきは、僕だ。


「先輩殿よ、僕は世間知らずだがな」


男が顔を上げた。僕は続ける。


「僕自身が何者なのかをよく知っている。

おそらくアンタは僕を

知らないだろうから名乗るぞ。

僕はホワイト・アウトの黒犬、ワイズだ」


その名を聞いた途端、男は目を見開いた。


しかし、

僕の方は男の名に毛頭興味は無いので、

刀の峰を下にして握り直し、

その向きのまま、男の肩辺りの地面を

斬らないように一回叩く。


──僕の止めの斬撃は外れた──の合図だ。

侍の中でこれは、

敵をわざと逃がす時の暗黙のルール。

斬撃をした瞬間、

斬撃の後、

攻撃前の呼吸

などは基本的に"隙"と呼ばれる。

それを、"攻撃を外す"という行為を用いて、

敢えて意図的な隙ならぬ隙を作って見せて

昔の侍は興冷めを表したのだ。

こんなものは誰でも知っている───はずだが?


その動作に男は

びくりと跳ね上がった、だけだった。

しかし逃げ出す気配は────無い。


─────こいつらは気違いか────?


人が斬らないから去れ、と合図しているのに

逃げないとは、よっぽど斬られたいのか?


僕は低めのしゃがれた声音(こわね)で言い放つ。


「興が冷めた、───とっとと去れっ!!」


腕を前に組んでいたガイは、


「最後だけ声を荒くなってたが、

迫力あって逃げたな」


僕はガイに背を向けて刀を納める。

同じく、ガイも投げたハチェットを地面から

抜いて後ろのショルダーベルトに納める。

男は二人の下っぱの後ろ襟を掴んで猛ダッシュ。

斬られるとでも思ったのだろうか───。


するとガイは渋い表情で唸る。


「あの、刀を峰にしてから

肩の近くの地面に叩きつけるのは

何かの合図か?峰では斬れないしなぁ」


アンタも知らないのか。


時として、他人に常識が通じない事も有る。

そう学んだ僕は、

自分の中のルールを他人に

押し付ける事だけは止めよう、と心に誓った。


その後、

ミーシャとユウリは直ぐに見つかった。

監禁されていた後から姿は見なかったが、

怪我は無かったようで、

傷物にはなってないようだ。


二人の武器も難なく取り戻した事で、

武器を持っていた男達を気絶させて

その場に置き去りにし、

静かな夜の港町を

再び四人でギルドへの帰路を歩くのだった。

ユウリはゆっくりと口を開いて、


「有難う御座いました。また、

助けられてしまいました、

ワイズ先輩とガイ先輩のお二人に。」


「礼には及ばん。」


僕が短くそう答えるとミーシャは驚いて、


「そんなっ。

では、何かお礼をさせて下さい。」


ガイが紳士に、直ぐ対応した。


「お礼?

恩に着せたい訳でもないんだよ。」


アンタ今、凄く輝いてるぜ。いや本当に。

ガイは僕を見て口許を緩ませて見せた。


「お暇が出来たら、外出しませんか。四人で。」


ミーシャが恥ずかしそうに、そう言った。

そしてユウリは僕への止めの一言を付け足す。


「わ、私 海老天作ります。」


「皆で行こうか ガイ、遠慮すんなよ。」


「えっ。」


僕の即答にガイが素の驚き。

何故か、僕も誘っていたかのような

立ち位置にすり変わっている。


ガイが'餌付(えづ)けされたなぁ?'と言う視線を

向けてくるが、

僕は敢えてそれを無視して、先を歩くのだった。

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