規則破り(ルールブレイク)─SIDEガイ─
友人から、会話文が判りづらく、
読みづらいと指摘を受けたので、
地の文や会話文との間隔を空けていこうと思います。
「このように、です」
確かにこの方が読みやすいですね、
他の方々の書かれる作品を読んでて、
皆がそうしていた事に 今更気が付きました。
自分が書いたものを
読んで貰いたくて書いているので、
何か指摘やご要望、
変換ミスや誤字などが御座いましたら、
是非ともお教え下さい。
また、自分でも誤字に
気付いたら改稿していきますので、
五話くらい連続で"改稿済"と出ていたら
「あ、こいつ またやりやがったな」
と思って頂けたら幸いです。
それでは、
今回はガイ視点のお話です。
ごゆるりとお楽しみ下さい。
隣にいる黒髪の少年の合図に合わせて、
二本の愛斧を勢いよく振り抜いく。
「────どッ!!───せいっ!!」
俺の掛け声に続いて、ワイズの短い呼気。
「ッ!!」
重いハチェット達は硬質の雄叫びを上げながら
扉を深く凹ませ、
何と───絶対不折で
魔法製の唯一無二の刀 不知火の斬撃は
大量の火花を散らしただけで、
呆気なく浅い斬り口を残した。
素早い振りかぶりから放たれた
刀の反射光が描いた軌跡の形に
網膜の裏に焼き付いただけだった。
「おいおい、黒犬とあろう御方が
捕らわれた仲間を目の前にしてその程度の攻撃かよ」
俺がそうぼやくと、ワイズは、
「刀は本来、こんな堅物を斬る
ためのものじゃないんだよ。重さなら、
確実にアンタのハチェットが勝ってんだから、
アンタが叩いてこの扉を砕けよ」
俺は何度か耳をひくつかせてから、
「まぁ、やってみなくもない」
俺の斧は確かに重いが────二本だし。
アンタの武器のように不折って訳じゃないんだが。
俺は後ろに跳んでからコンテナに距離を取り、
腰を落としてから大きく息を吸う。
「─────ぬんっ!」
重い気合いと共に、
全力で二本の斧を別々にさばいてみる。
右斧で上から打ち抜いて、
手首を返しつつ今度は右側から強撃。
更に右手を引っ込める反動を利用して
左斧を右斜め下に振り下げ、右斧も
同じように振り落とす。
これまでに数えきれない程の火花が散った。
だが、
扉は最初に凹んだまま不変なので、
次のモーションを描く。
振り下ろされた右斧を左から平行右払い、
続いて左斧で左斜め下から突いて打ち抜く。
両手が平行───体の回転の向きは完璧に右。
無駄な力が入っていない分、
このまま叩き込んだら
扉もかなり凹んでくるだろう。
最後の二斧平行薙ぎを
全力で叩き込む。
手応えは有った。だが、それに見合った結果は
最初の時よりも少しも得られなかった。
扉は凹んだまま、
びくともしなくなってしまったのだ。
それに先に気付いたワイズは、
扉に近付いて金属肌を
ゆっくり撫でながら口を開いた。
「魔法がかけてあるみたいだな、相棒」
「そうなのか?」
ワイズは、気付いてなかったのか、
といった呆れ顔でこちらを睨めたが、
扉に向き直ってから解説する。
「耐性上昇魔法の類いだろう。
この類いの魔法は、魔法攻撃に対して劇的な
弱点を見せる──────」
するとワイズは刀を右肩に担いで、
「──────っ!!」
これは何と形容するべきだろうか、
風のよう、いや。砂嵐のよう、否。
まるで、絶え間なく降り次ぐ雨のように
ワイズは斬撃を連打し始めた。
しかも、それは徐々に加速し始める。
やがて現象は起きた。
何故か赤いな、
くらいに思っていたワイズの刀の刀身が、
銀色の炎を帯び始めたのだ。
それも 海の沖で漂う波のように、
まるで それ自体が生きているかのように、
蠢き煌めいていた。
ワイズの使う魔法ではないだろう。
何となく、それだけは確かだと思う。
銀色の炎を帯びた刀は、
鋼の扉を縦横無尽に叩き続け、
最後の一撃で
その扉は真ん中から溶けて崩れ落ちた。
刀を払ったワイズは、
寂しそうな目で刀身を見ていた。
まるで、
"この炎よ、あわよくばまだ消えてくれるな"
とでも言うように。
とても、とても悲しげな目だった。
下ろされた刀身から徐々に炎はかき消えていった。
俺はタイミングを見計らって静かに問うた。
「アンタの魔法か?」
「いや、今は亡き骨竜の銀炎だよ。
僕が奴のブレスを受けて、
刀の魔法はしばらく あの炎を内包していたんだ」
それは、俺にとっては、驚きの返答だった。
コイツは何と言った?
骨竜の────炎────?
「骨竜って───
アンタが弱らせた奴か?──倒したのか、一人で?」
少年は刀を振り抜いた体勢のまま、
ゆっくりと体を上げてから
こちらに振り返って、静かに頷いた。
「悪いが、アンタの葛藤を訊いている暇はまだ無い。
まずはユウリとミーシャを─────!?」
俺は少し唸ったが、やがて諦めてから首を縦に振る。
「────ああ、ん?空か?」
コンテナの中には、
俺たちが助けに来た少女達の姿は無かった。
ただ、コンテナ反対側の扉が開いているのみ。
─────まずい、逃げられたか。
でもいつだよ、
仮に逃走から時間が経ってないとしたら────。
そう思い、
コンテナの山を重ねた高い所へ目をやる。
相棒は同じ考えに至ったのか、
ワイズは俺の目を見て頷いた。
「僕を投げてくれないか、あの山の一番上へ」
どうしてそうなった。
いや、今は迷っている時間はない。
刀を納めたワイズの小さな体を
右肩に担ぐ。
────おお?軽いな、人間。
こんな体でよくも
そんなに固い武器を振れるもんだ。
「よし、不知火を取ってくれないか」
「ああ」
俺は頷いて、ワイズを易々と肩に担いだまま、
左手で、地面に置かれたワイズの刀を掴む。
「ほら─────よ───っ!?」
なんて重さだ。
瞬時に力を込めたから上がったものの、
予想以上の重さに、左手首が熱を帯びだした。
というか、これでワイズが普通の
人より重くなってること間違いないぞ!!?
「ありがと」
ワイズは易々、右手だけでそれを受け取ると、
鞘を左手で掴み直してから、軽く右手を
刀の柄に添えた。
やっぱり普通の人間よりも重くなってるよな?
それ以前に、
ワイズよりも刀の方が重くないだろうか。
そう、思いながら右肩に確認をとる。
「上に着いたら、下の怪しい人間を見回せ。
見付けたら、勢いよくその刀を抜いて
その方向へ走れ。俺もその方向へ走る。
準備はいいか───?」
「御意、いつでも投げてくれ」
"ギョイ"って────何だ?
そんな疑問を残しつつも、腰を大きく落として
投球フォームに入る。
と言っても、こんな重いものを片手で放ったら
確実に関節が砕けるので、両手で─────
「うおぉおおおお───っらああぁぁあああっ!」
重っ!!!
投げ飛ばされたワイズは、暗い夜の中では
黒過ぎて球状の黒い飛行物体にしか見えない。
黒い外套の裾をはためかせて
回転しながら飛んでいる姿は、
何だか迷傀儡者に似ている。
見事着地したワイズは
辺りを見回す事もなく、刀を鞘から抜き放って
俺が投げた位置から左前の方へ全力で駆けた。
────回転しながら見てたな────?
なんて器用な奴だ。
そう思いつつ、俺もそちらへ走って向かう。
ホーン・ブルの規則によると、
仲間の監禁や無意味な暴行は
許されざる仲間への裏切り行為だ。
例えそれが、どんな理由であろうとも。
先輩方はいわゆる、
規則無視している
と言える。
いくら先輩であろうと、
こんなことは絶対に許されない。
あ、あれ────?
まずい、見失った。
ワイズを追っかけていたつもりが、
なんと言うことか、先程ワイズを投げた
コンテナの前に来てしまった。
俺はコンテナの山を見上げて────
「登って、見るか」
コンテナは俺よりもデカいのは当然だが、
ジャンプして手を伸ばせば、何とか
コンテナの上部に手が届く程の大きさだ。
しかし、なかなか高い。
あと十何段くらい有るのだろうか。
今頃ワイズは──────?
やっと着いてみると、
そこから見た光景は複雑。
迷路か、ここは。と言わせる程に、
複雑な地形をしていた。
ただでさえデカいコンテナが、まるで
通る人を誘導するかのように入り組み、
ある一点だけは、
知っていなければ入れないだろう、
空間が有った。
そこから血の匂いが漂ってくるのは、
そちらの方向から潮風が来ているからだろうか。
俺は気付くと、足に全力を入れて駆けていた。
飛び降りるようにコンテナ山を走って
その空間の方へ駆ける。
広がった空間に近いコンテナの影に隠れた。
人間よりも良過ぎる獣人の目を凝らすと
そこには─────
歪、と形容するに相応しい、
血生臭い光景。
ワイズは、武器を片手
あるいは両手に持つ多勢の男達に囲まれていた。
────あれ、俺は今 何が歪に見えたんだ?
円に囲まれたワイズに目を凝らすと、
既に戦闘を始めていた。
ワイズは囲まれているため、
退路は無い上に、
前後、左右からどんどん
男が武器を振り込んで来る。
全てを一撃で捌いている。
斬り込む男は次々に血飛沫を上げて倒れ込む。
そうだ、歪に見えたのは、
あの状況で、
明らかにワイズが優勢に見えているからだ。
男達の表情は焦りに満ちている。
対してワイズの表情は─────
"無"だ。そこに表情は無くて、
ただかかって来る者を一掃する一人の侍の姿。
殺す事に何の躊躇いも無い。
ワイズの身体や服には、血一つ無かった。
ワイズの攻撃は常に単調。相手の攻撃を
刀で受けたり反らしたりして、
空いている隙目掛けて、右腕を高速で光らせる。
一方取り囲む男達はワイズの後ろへ回り込んだり、
三人同時にかかって、更に四人目が
空いている隙目掛けて後ろから切りかかるも、
ワイズは無表情で全てを切り捨てた。
俺は思わず呟いていた。
「攻防自在戦術─────!」




