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Blade And Hatchetts  作者: 御告げ人
第一章 ─黒犬─
14/59

remain

色々と書き直していると遅れてしまいました。

申し訳無いです。

今回は長めなので、ごゆるりとお楽しみ下さい。

骨竜を葬った僕は、刀に目を凝らしてからぼやく。


「魔法耐性が有るから、こういう現象が起きるのかな?」


不知火は今だに銀色を帯びつつ、赤くなっているのだ。

少し、火の粉を飛ばしてる気もするが────。


武器に相手の攻撃を宿らせるのは

耐性魔法のかかり方による、

とマグナが言っていた気がするが、

どうやら僕の刀にはしばらく、

炎属性が付加しているようだ。


"耐性魔法が現象を内包することで、

この刀は現象そのものや属性を帯びる事が有る"


そう言っていたな。


骨竜の事を思い出して下を見る。

何か、骨竜の形見になりそうなものを

探したかったのかも知れない。

最早、灯り同然の不知火を地面に向けて辺りを見回す。


だが、それはいとも容易く見つかった。

しゃがんでそれを拾う。


鋭い────小骨?────否。


牙だ、銀色の─────傷一つ無い綺麗な牙。

割りと手に収めると大きい事から、

奥歯だと推測されるが、

これをフールに持っていってやろう。


立ち上がって、刀を納めようとして手を止める。

今は暗いが もう夕刻である。しかし刀は明るい。

これでは黒い外套を着ている意味がない。


では、遠くから僕を見る人には

僕がどう映るのだろう。

刀を試しに納めてみるも、

鞘から目映い光を放っている事から、

納めていても見付かりやすいのは明らかだ。


いっそ、もう堂々と歩いていて

不審な輩に声を掛けられたら

切り捨ててしまっていいのではないか?

いや、切り捨てるのはまずいな。

何事も諦めが肝心だ、とガイが言っていた気がする。

しかし

───ホワイト・アウトの皆は

そんな事一言も言った事なかったな。

彼らは僕より強くて、優しくて

皆 割りと仲がいい。

僕だけ別世界にいるみたいで、

会話に入れた事なんてあまり無い。


そんな事はどうでもよくて───

彼らは一度も どんな戦局でも諦めた事は無かった。

確かに、ほとんど圧倒してきた僕らだが、

任務で苦戦した事だって少なからず一度は有ったのだ。


"どんな状況下でも、千変万化臨機応変だ。

ワイズのその 研ぎ澄まされた冷静沈着な判断力で、

どんな苦況でも乗り越えて見せろ。そして勝て。"


ここへ来る前にラガルが僕に向けて言った言葉だ。

尊敬する人間の言葉だ、一語一句 (たが)わずに覚えている。

訊いたのはその一回だったが。

真剣な口調で、真剣な眼差しだった。

赤く、燃えるような炎色の瞳で見ていた。


しかし敬語を使う気にはなれない、

少なからず、

"僕はあれより手練(てだ)れだ"と

思いたくなる抵抗観念が有るからだ。


そんな事を考えながら、暗闇の森を

不知火で照らしながら堂々と歩く。



──スジャ──


今朝 歩いていた商店街は、

夜に合わせて灯りをつけている。

それは骨竜の銀炎に比べて、とても儚い。

時間が経つだけで夢が覚めるように、

この灯火も時間が経てば、

すぐに消えてしまうのではなかろうか。

骨竜の吐いた、銀色に輝く炎は今尚、

僕の刀が(まと)う 銀の光へと姿を変え、

目映い光を放ち続けている。

刀身は赤い炎のような色だ。


───ギルドの前にはフールが居た。

長くて綺麗なダークブラウンの髪を、

夜の風になびかせながらフールは静かに口を開いた。

目は不安そうな顔に見えるし、

静観しているようにも見えれば、

どれも当てはまる気がするような複雑な表情だ。


「一人で────狩ったのか?」


骨竜のことだな。

僕は今尚、鞘口から溢れ出る光を手で押さえながら、


「ああ、任務遂行(ミッションコンプリート)だ」


そう言ってから、思い出したように、

外套の内ポケットに手を突っ込んで、先程の牙を出す。

するとフールは僕の手に乗った銀色の牙を見て、


「それは?」


「骨竜の牙だ。骨身は果てたが、

これだけが地面に落ちていたんだ、

フールが持っていろよ」


もう一度差し出すと、今度はフールの手が

僕の手を押し返し、

枯れ葉や栗を思わせる色の髪を

揺らしながら首を横に振って拒んだ。


「私にそれを受け取る資格は無い。

私よりも、君が持っておくといい」


僕がそれに反論しようとすると、

フールは優しそうに微笑んだ。


「大人には色々な

深入りしてはならぬ事情が有るんだ。

気兼ね無く踏み込まないことね。それと、

マグナの部屋にはよく入っていたみたいだけれど、

易々と女子棟には近付かないことだね」


今それを言いますか。

まあ、近付きませんがね、御命令と有らば。


女が青棟(あおとう)に入るのはいいんだな、

そう思いながら、牙をポケットに仕舞い込む。


御意(ごい)のままに」


僕は自然と、そう答えていた。

つまりは、

本格的にフールが

マスターだと脳が覚え始めたようだ。


ただ従うだけの僕にとって、

指揮官(マスター)は肝要な存在。

僕はいつも、ただ従って、斬り続けるだけなのだ。

なんの躊躇も、取り留めも無く。

取り留めが有るのは、むしろマスターの方である。

僕はマスターの刃となり、盾となる。

そこでマスターは僕の目となり、脳となる。

お互いに守り合っていると言うと、

聞こえはいいかも知れないが、

実際は"従順・主従"と"完全支配"の関係である。

僕は命令されれば何とでも動くから、

皆殺しに出来るし 必要と有らば、

自分の腹だって斬る。


─────それが(マスター)の命ならば。


僕はそのまま青棟に戻るも、

僕らの部屋にはガイの姿は無かった。

扉が開いていた上に、鍵は僕が座っていたソファ

の上に置いてあったので、本当にこれで開くのか

確かめてから、ポケットに仕舞い込んだ。


────晩御飯か?


食堂には少人数のギルドメンバーと、

その他 ここへ食べに来た部外者達で賑わっている。


ガイ達の姿が見当たらないのだが───?


すると遠くからの男達の会話が耳に入った。

その内容が頭に響いた後、僕は自分の気配を消して

食堂内の物陰に隠れた。

部屋の隅だが、人があまり寄り付かない上に、

座っている者全員からは ここは死角になっている。


雑音から訊きたくない音だけを切り離して

その声に集中する。


「─────は捕らえたか?」


男の声だ。しかも訊いた事有るな。


「はい、少々手こずりましたが───」


こいつの声は知らない。


あの────」


もう一人居るのか───。

その、もう一人の声に集中すると、


「獣人には逃げられました」


訊いた事有る男が声を上げた。


「何っ!?」


すると、その話をしていた三人組が

座っていた椅子をガタガタッと音を立てて

一斉に視線がこちらへ向いてくる。


────気付くと僕は立ち上がっていたのだ。

まずい、と思うが早いか

聞いたこと有る声の主の、

僕らをフールの元へ案内していた朝方の男は、

なに食わぬ顔で僕に話し掛ける。


「なんだ、ワイズ君か。

どうした、解らない事でも有ったのかい?」


どうやら聞き耳を

立てていた事に気付かれていないらしい。


「無い。ガイ達を見てないか」


「よく君の隣にいた獣人君の事かい?」


「ああ、昼から見てないんだ」


「────僕は、見ていないね。

ひょっとしたら、君達に言い渡された

任務を遂行しているのではないかね?」


────まさか、骨竜は僕が倒したんだぞ?

だが、それを僕は まだガイ達に知らせていない。


僕は男に、そうか、

とだけ返事をしてそのまま食堂から去る。


やはりユウリだけには言っておくべきだったか?


────しかし、

"獣人"というフレーズで

頭に浮かぶ事はただ一つ。


"ギルド:ホーン・ブルのメンバーに

獣人はガイのただ一人"だと言うこと。


先程、気配を消す前に

聞こえた台詞をもう一度思い出す。

最初は───そう、案内してくれた男だったな。


「世間知らずの餓鬼(がき)にいっちょ

思い知らせてやろうぜ。可愛らしい新人二人が

先輩の手で汚されて帰って来たら───

男二人はどう思うんだろうなあ?」


次に 少々手こずった、と言った男の声だ。


「獣人は"汚れ"の象徴ですぜ、

憤りも起きないんじゃねえですか?」


次に、獣人が逃げた、と言った男。


「────やっぱり、監禁なんて止めま──?」


ここから五秒程の会話は、

とっさに隠れた事で入ってこなかったのだった。


"監禁"────

つまり物を何処かに隠す、

という事なのは何となく解る。

では、その場所の目星は?


───もう一度入るとなると、

警戒される事はこの上ない。

それに、もしかすると僕が聞き耳を

立てていた事に気付かれているのかも知れない。

用意周到な事に、男達の席は窓に近くない。

窓から聞くのは無理そうだ。

それに、周りには酒に酔った人達が集まっていて、

耳が良くなければ

あのトーンの会話は聞こえなかっただろう。

誰も、あそこで監禁の話をしていると

思う者は居ないだろう────。


"もう一度聞き耳立てる"線は駄目そうだ。

近場を走ってみるか────?


すると、商店街を歩く、

魚屋らしい男が何となく目に入った。


─────魚か。


そう言えば、港には"コンテナ"と呼ばれる

鉄製の板で作られた積み荷箱が沢山有ったな。

あそこはよく、闇市の解散任務に駆り出された時に、

夜遅くに港で張り込んだ事が何度か有った。

コンテナは、相当固くて重い武器でないと

鍵無しでは開けられない。

何せ構造的に、振動や衝撃には

物凄い耐性が備わっているからだ。


だが幸い、スジャに港と呼ばれる場所は一つだけ。

万事、備え有れば憂い無し だ。行こう。




忍び寄るように、港に足を踏み入れてからは、

ひたすら影が射した所だけを選んでは、

そこに滑り込み、何度か周囲を伺った。


そこには人があまり見られなかった。

いや、人は見えた。


見ると、コンテナを閉めて、

扉に鎖を巻いている男二人の姿。


あれは────

ホーン・ブルのマークじゃないのか?

二人の男がコンテナに

大きくて錆びた茶色の鍵をかけていた。

その背中を見ると、

威風堂々と長い角を突き出す雄牛が描かれた

コートを着ていたのが目に入った。


あれらが何かを隠しているように僕は思える。

───そして何より、彼らが手に持つものに

見覚えが有った。

きちんと研ぎ磨かれた二本の短剣、

黒鞘の片手用直剣。


ここかと言う予想は当たったのか。


あれはミーシャとユウリの物に違いない。

では、奴らが立ち去った後で

あそこをこじ開けるか。


理由は二つしかない。

あいつらを殺してしまえば、

殺人が判明した時に、

僕はギルドから追放されるということ。

もう一つは、剣だけ奪っても

男達を逃がしてしまえば、

主犯格の男達に連絡がいくだろう。

そうならないように、まずはあいつらを遠ざけて

最初に二人を救出、後にガイと合流してから

コンテナに戻る男達を叩く。


男達が振り返って立ち去り始めたので、

僕は一旦、顔を引っ込めてから影と一体化する。

流石に一人で叩くには、かすり傷程度じゃ済まない。

だから今の僕には、相棒と呼ぶべき

大事な あの獣人が必要なのだろう。


男二人はもう立ち去っただろう、

そう思ってもう一度コンテナの方を見ると、

周りをチラチラ見回しながら、

そのコンテナに忍び寄る変た...い....否。


背中に二本のハチェット、

顔も手もブラウンの毛並みだが、

体毛よりも毛の長い頭部には

ダークブラウンの毛が生えた、

人間には程遠い生物が、

先程のコンテナにゆっくりと近付いていた。


一瞬だけ、魔物かとも思えたが間違いない。

あれはガイだった。生きていたんだな。


そう思いつつも、

僕はガイの元へ静かに駆け寄る。


「ガイ、生きていたのか」


ガイは僕の声に驚いてハチェットに手を掛けたが、

僕の声だと気付いてその手を引っ込めた。


「ワイズ、あの男達を尾行してたのか?」


「いや、してないけど。

物を隠すならここかなって」


「俺はずっとつけてた。備前だ」


「ビンゴだよ」


何回目だよ。


すると、僕が返事したと同時に、

コンテナの中から、

悲鳴じみた高い女の声が小さく聞こえた。


「っ!?」


「っ!?」


僕らは同時に驚いて一歩引いたのだった。


僕はガイに視線を送る。

中に居るんだな?


ガイは頷いて、

ああ。


保持魔力の少ない上に

魔法をろくに覚えていない二人は同時に、

武器に手を掛けるのだった。

だって、鍵は無いし 他に方法が

有るとすれば これしか無いのだから。

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