嘘つき(フール)
今朝に入れるようになったスジャに入る───。
入るといきなり、商店街が立ち並ぶ一本道を
並んで歩く。
僕は見慣れてるが、
ガイは陳列された食べ物に興味津々だった。
ミーシャは馴染んでるのか、町の人々に
よく声を掛けられては、
「ミィ、その人たち誰だ!」
と笑顔で言われている。
ミィ────とは、愛称だろう。
気付くとユウリもそう呼んでいたな。
商店街を越えると、そこには
一際目立った、
屋根に二本の角が生えた建物が有る。
獣人の相棒はそれを見て、
「ここがホーン・ブル、
見ての通りデカいギルドだな」
ミーシャが気付いたように口を開く。
「ワイズ先輩はここのギルドマスターと
お知り合いなんですよね」
「ああ、でも僕はあまり話した事がないんだ。
よく話してたのはマグナの方だよ」
ユウリが首を傾げる。
「マグナ───さん?」
ミーシャも続いて首を傾げた。
それを見たガイが僕に肘打ちしながら笑って、
「ワイズの本来所属するギルドのマスターだよ」
ミーシャが成る程、
と頷くと同時にギルドの方から声を掛けられる。
一斉にそちらを見ると、一人の男が立っていた。
恐らくこのギルドのメンバーなんだろうが。
「やぁ、君達が新人かい?」
ユウリが「はい。」と言って会釈すると、
「じゃあ、まずはマスターに会っておこうか」
もう会ってるんだが────
そんな答えを無理矢理飲み込んで、
僕らは四階建物の一番上、
扉が一つしか無い廊下の前まで案内される。
案内してくれた男は笑顔で、
「僕は部屋へは入らないから、
ノックした後に入っておくれ」
入らないのでなく──────
これは多分、入れないのだ。だいたい
この手のマスターは上級貴族か傲慢な人間だ。
そうでないとしたら────
掴み所が無くて、性格の読めない謎な人。
男が扉に歩み寄ってノックする。
コンッコッコンッ───コンッ
これは暗号か?
しかしあれが暗号だとすると、
さっきの
わずかに二秒空けた間までが暗号だと言う事になる。
徹底してるな。
──どうやら中の人は謎な人のようだ。
入るとその人物は目の前に立っていた。
──────笑顔で。
僕がそれを認識するが早いか、
急に視界が暗転する。
暗くて見えなくなった視界の上の方から、
澄んで少し笑いを含んだ女の人の声。
「フフフッ、いらっしゃい。君がワイズ君ね。
あら、三人もそこに立ってないで入って?」
後ろでガイが返事する声がくぐもって聞こえたのは、
僕がマスターこと、フールに抱き締められてるからか?
扉を締める音、僕は抵抗しないでいる、何となく。
すると僕は抱き締められたまま自己紹介。
「私はフール、ここのギルドマスターです。宜しく」
これは三人への挨拶か。
するとフールの腕が緩んで、
その、整って皺一つ無く綺麗な顔が間近に迫る。
「どうして直ぐに来ずに入団テストなんか受けたの?
もしかして、
そんなに そこの獣人君が気に入ったのかしら?
招待状には、真っ先にここへ
来るように書いてあったはずだけれど」
僕は呆然とその顔を見詰める。
フールは首を傾げて、少し微笑む。
「そんなに熱い目線で見詰められ続けたら───
猛烈な恥ずかしさで抱き締めちゃうよ?」
僕は目を見開いてからゆっくりと口を開く。
「ああ、ここへ来るようには、
ラガルに言われてたの忘れてて──」
「あの少年にはお仕置きが必要ね。
マグナに言っておこうかな」
マグナに何させる気だこの人は───。
僕は思考を凝らしつつ、続きを告げる。
「この獣人、ガイは安全道で会った。
地図と要項をラガルが捨ててしまって、
僕がここへの道を尋ねると、
テストを一緒に受けないかと言われたんだ」
フールはまた微笑んでから返す。
「へぇ、いよいよそのラガル君には
調教が必要かも知れないわね。
で、貴方はガイ君に
頼られてテストに参加したのね?」
ラガル─────済まない───
僕は悪くない。
従って反省も悔恨する気も、毛頭無い。
あわよくば何をされるのか解らないまま
潔くその調教を受けてくれ給え。
僕は笑いを堪えながら、
「ああ、違いない」
フールは笑いながら僕の首の
後ろへ回した手を離してお腹を抑えながら、
「フフッ、まあいいわ。
幸い四人の新人が入ったんだから───
貴方たちに任務を命じるわ、最初の任務よ」
そう言って僕らの目を見回す。
僕の方へ指をさして、
「四人をパーティとして組んで、
ワイズ君をリーダーとし貴方たちが
痛めつけたグレイヴ・ドラゴン────
あの子にとどめを刺して頂戴」
僕は直ぐに返事する。
「御意」
フールは頷いて、
「フフン、いい返事ね」
するとガイが口を挟んだ。
「待って下さいマスター、何故逃げた竜にとどめを?
アイツはもう飛ぶ以外では動けない、
寿命で死なせる方がいいのでは?」
ガイの目は真剣だった。
それに僕は静かに答える。
「いつ復讐に飛んで来るか解らない、
こちらから先に息の根を止めるんだ」
ガイは牙を見せながら声を張る。
「ワイズ、
アンタがあんなにズタズタにしたんだろう!
もうアイツは飛ぶしか出来ない、片足砕いただろう。
マスターはどの位か解らないだろうが、
アンタが一番解ってるんじゃないのか?」
僕は直ぐに答えられなかった。
しかしフールが一歩前に出て答えた。
「私もあの場に居たわよ、
あの子は今まで人間に倒された事が無かった。
一度人間に打ちのめされた、プライドの高い性格の
竜はもう二度と立ち直れないの。
それに、人間が怖くて何も狩らなくなるわ」
その先を僕が告げる。
「狩りをしなくなった竜は、自ら何も摂取しなくなり、
孤独にも誰にも見つからない
場所を探してそこで死ぬんだ、一人で。
そんな事にならないように、せめて手厚く
葬れるように、
今のうちに探し出して殺すんだ。僕達の手で」
ガイは俯いて牙を納めた。
悲しそうに目を細めて、
「成る程、骨竜はここで飼い慣らされていた訳か。」
僕はフールに向き直る。
フールは頷いてから、
「ええ、私の使い魔よ」
僕はその使い魔を、
死ぬ寸前の深手を負わせて
その上プライドを
ズタズタにして逃がしてしまった訳だ。
フールは一息ついてもう一度口を開ける。
「頼めるかしら?」
ガイが静かに頷いた事を確認してから、
僕はそれに答える。
「頼まれた」
「任務期間については言わないわ、
気持ちが整い次第
あの子の命の灯火を消して─────。」
僕は静かに頷いた。
「御意」
───それを聞いて、フールは静かに微笑んだ。




