漆黒の侍
骨竜は飛び去ってしまった────
審査判定は合格だと、後になって知ったが、
これで僕たちは見事、
ホーン・ブルに入団出来た訳だ。
僕はこれから、このギルドに貸し出される五年の間に
ホワイト・アウトのギルドマスターこと、
マグナから言い渡された任務を遂行しなければならない。
ガイがこの任務の邪魔者にならなければいいがな。
ガイは僕の仲間になってくれないのだろうか──
関係 無え、まだ"地図に無い町"への入口すら
掴めていないのに──
そんな甘い考えは捨ててしまおう
そう思いふけって、ふと肌寒い事に気付いて
黒髪の少年は漆黒の外套を羽織る───
朝か────?
体を上から包むようにかけた外套を
めくらせながら、体をゆっくりと起こす。
まだ夜か。否、もう朝なのだが
太陽が昇っていないだけだった。
深緑の森の中で目を覚ました
黒髪の少年は、その漆黒の瞳を擦りながら大欠伸。
そのまま大きく伸びをしていて初めて、
こちらを見ていた存在に気付いた。
「起きていたのか」
短く切られた緩やかな流線形の金髪を
小風になびかせる少女は、
存在を認識されて、慌てて俯く。
「ええ、何故か早く起きてしまいました....」
僕は立ち上がって、
木に立て掛けていた刀の鞘を手に取り、
抜いて刀身を確かめてから納めて、
腰のベルトに差す。
新しいギルドはかなり向こうだったな。
ここから元来た道を戻るのは難しくない。
僕はここを知っているからだ。
さて、何故僕らはここで寝ているのかと言うと
僕と相棒のガイが、骨竜との死闘を繰り広げてから
まだ、五時間しか経っていないのだ。
故に、合格を言い渡された僕とガイ、
そして僕が気まぐれで応援をしていた少女コンビ
────金髪の髪の少女はミーシャ、
藍色の髪の少女はユウリと名乗った。
僕らの死闘が有ってから、
残っていた受審者は誰一人として居なかった。
彼女らを除いて。
審査員────というか、ホーン・ブルの
ギルドマスターこと、フールさんと名乗る女の人が
立っていた。彼女は骨竜が飛び去った瞬間、
「君達はいいコンビだな、同じギルドの者か?」
ガイがそれに答えた。
「いえ。今朝、安全道で会ったばかりです」
「そうか、もしかしたら仲が良いだけなのかもな。
まぁ、入団テストは合格だよ。これからは
ホーン・ブルの為に尽力しておくれ」
そう笑って、長くて綺麗なダークブラウンの
髪を翻して美麗に去ってしまった。
僕とガイは、そのまま森の獣を勝手に狩って、
ガイの携行炭火焼き器具で丸焼きにして、
余りをミーシャとユウリに渡して、
肉をがっついた後、
とっととその場で眠ってしまったのだ。
それから今に至る。
後ろで頭をこちらに向けて
眠っていたガイが目を覚ました。
ガイはむくりと起き上がり、
「─────離れてんな、随分」
それは僕達とミーシャ達との距離の事だろう。
勝手に眠ったから、
まさか彼女らをがそこで寝てるとは思わなかった。
ちなみに、木が五本分離れている。
朝日昇り、照る朱色の光を反射させながら、
朱色に負けないくらい眩しい金髪の金を反射させて
ミーシャは口を開いた。
思わず目を細める僕。
「野宿なんて初めてですが、
意外に外敵から襲われないものですね」
────僕らは勝手に寝たが、
ミーシャ達の存在を知らなかっただけであって、
僕らは二人で交互に起きて、周りに意識を張っていた。
張っていたにも関わらず、
彼女らの存在に気が付かなかったのは、
多分二人共、女の人に面識があまり無いからだ。
僕は立ち上がって外套を羽織り、ミーシャに返す。
「まぁ、ここはモンスターが少ないんだろう」
それを聞いてガイが静かに吹いた。
僕は話を合わせてくれよ、と目線を送る。
はいはい、
と言った風な顔で今尚も笑いながらガイは、
「ああ、だいたい昨日狩ったからな」
それ言っちゃう?
ミーシャは成る程、といった風で会話を切り、
僕と同じく立ち上がって、背伸びをする。
その華奢な体は、驚く程小さくて細く、
少女の美貌は、美しいものだった。
見たことの無い見事な金色で流線形の髪、
ピンクで艶の有る、サクランボのような唇、
ギルドでは見なかった布製の
丈の短いズボンや外国的だが着飾らない服。
思わず声が出ていた。
「綺麗だ───」
それを聞いていたガイはすかさず。
「アンタ、女の人 見た事ないのか」
ミーシャがギョッとするのを尻目に、
「流石に見た事は有るよ、
でも、ミーシャの外観が綺麗で驚いただけだよ」
ミーシャは仄かに顔を赤らめながら俯いている。
あれ、どうしてだ?
ガイは皮肉そうに口を開く。
「俺から言わせれば、
昨日のアンタはさぞかし格好良かったけどな。
黒犬にして、
唯一無二の"漆黒の侍"さん....ぐはっ!」
僕はガイに肘打ちをかまして、
ミーシャの前まで来て右手を出す。
「僕はワイズだ、宜しく」
ミーシャは慌ててお辞儀し、
「こちらこそ!宜しくお願いします、先輩!」
「僕は多分、先輩じゃないんだが──」
「そうお呼びしては────駄目ですか?」
断る理由なぞない、しかし────
「せめて敬語は止めておくれ、
僕には普通に話してくれていい。
君が何か困っていたら僕は助けに駆けつけるから、
君は僕が困っていたら助けて欲しい」
ミーシャは頷いて
また顔を赤らめ、こくこくと頷いた。
「はい....」
ミーシャは今だ眠るユウリを揺すって起こして、
その後四人で話しあいながら、
笑顔でギルド:ホーン・ブルへと
歩いて戻って行くのだった。
───いきなり困難なミッションを
与えられる事を知らずに。
僕らは打ち解けたのだろうか───。
例え難攻不落な任務が来ようとも、
僕はこの相棒と遂行していこう。
読んで頂き、誠に有り難う御座います。
週一で書いていこうと思います。
ここからは、ギルド:ホーン・ブルでのお話しで、
徐々に、
本来ワイズの所属するギルド:ホワイト・アウトが
一日で五国を滅ぼした理由が明らかになってゆきます。
どうぞ続きをお楽しみに。ではまた。




