刀使い
ホワイトアウトと呼ばれる最強ギルドが有った。しかし、そのギルドの団員はたったの八人。
たったの八人だけで、一日に国を五つ滅ぼした事から、最強などと呼ばれるようになった。
ギルドマスター、マグナ・コリンズの傍付き侍に近いワイズは、その名を"黒犬"とまで呼ばれるようになり、世界で一つしかないその細身の武器を携えて地を駆ける。
どうしたものか。
ワイズ・ケトーこと、僕は道をさまよっている───気がする。
ここら辺では珍しい黒髪の後ろで結ったお下げを揺らしながら国ってどうやって渡るものかと考えた。とりあえず、えっちらおっちら歩いて来たものの、丸二日経っても着きはしない。それどころか、森をさまよっている風にすら思えなくもない。
「ここは何処だ」
責任者はどこか。
これは一度、責任者に問い正してみるべき問題である。責任者はどこか。
僕は二日もご飯を食べていない。水はの川で、顔を突っ込んで飲んだのだが、もうそろそろお腹はまた鳴ってくるのだろう。
獣が居れば、この刀で一閃とばすのだが、何せここは整備された安全道。
安全道にしては、草や木が生え放題だ。僕以外の人っこ一人歩いてないためいささか虚しい。
何もないことに虚しいのではない。腹が減っているのに音もない道で腹の音も鳴らないことが虚しいのである。半人工半自然の道を見るに安全であるのだろうが、本来は国横断に用いられない道なのだと推察される。
すると、道から外れて草むらの視界右端から、たいへんケモケモした生き物が姿を表す。
僕は長年の癖で、既に愛刀の不知火に手を掛けていた。
不知火──本来はしらぬいと読むらしいのだが、僕がふちかと読んだ事から、この刀の作り主はふちか と付けてくれたものだ。
静かに息を吐きながら、ケモケモに意識を集中する。やがて、不知火に手を掛けていた僕の手は自然に降ろした。
ケモケモの背中には、武器が二つ吊られていたのだ。それも柄がとても長い。
今まで見た事の有る獣は、せいぜい調教されて片手武器を握らされている獣しか見た事が無い。
このケモケモはその武器と、革製の肩掛けや着ている服やらで、野性の生き物や盗賊の類いではないのではないだろうか。そう思えたのは、向こうが武器を少し抜いて、わざと音を立てる様に戻し納めたからだ。
今は任務中でないため、刀は抜いても殺めはしないつもりだったのだが、良心的なケモケモで助かる。
「青年、ちと場所を伺ってもいいか?」
ケモケモは振りかえって言った。
「言ってみろよ、人間」
人間....まぁ、違いないが。
「任務でスジャ国へ向かっている途中なのだが、この方向で道は合ってるのだろうか。はたまた僕は迷ってはいないだろうか」
たいへんカオスな質問である。
「合ってる。人間、名は何だ? 実は俺もそこへ向かっているんだ」
僕はケモケモの正体がドワーフだとたった今気付いた。わりと小さい生き物で、とても力持ちで重い武器を容易く扱うと訊いた事がある。
「ワイズだ、君は?」
「俺の名はガイだ、共にスジャへ向かおう。宜しく」
ガイとは、なかなかいい名だな。
あぁ、宜しくと言って笑顔で手を差し出しに寄るガイに僕も手を差し出す。
そんなに背は小さくないな。僕と同じくらいの背で、僕よりも手は大きい。
ふと、僕が他人よりも背が低いんじゃないかと思ってしまった。
歩きながら、さっきの疑問をぶつけてみる。
「ところで、ガイはさっき何をしてたんだ?あんな草むらで」
「さっきまで寝てたんだよ。夜はこの道に人が通らなかったから、朝まで寝てても大丈夫だろうと思ってな。ワイズこそ、何でこんな早朝にこんな道を歩いてるんだ? スジャの回りは国が無いから、相当遠い所から夜通し歩いて来たんじゃないか?」
さまよってたなんて言っていいものか。
それ以前に、一瞬だけ貴方を狩ろうとか思ってました、なんて口が裂けても言えないな。
腹が減りさまよい、故郷から二日かけて歩いて来たと言うのが現実だ。
「僕はな、走って来たんだ。お腹が空いて倒れそうだよ」
「........着いたらまずは、飯にするか?」
顔まで毛が生えた顔が、心配そうな顔をする。もしかしたら呆れているのかも知れない。
「そうしてくれるとありがたい」
──こうして二人は安全道を渡ってスジャを目指すのだった──
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