砲丸王国。畑背中学校
4月の半ば頃。私は応援のため朝早くから寒い中駅の前で待っていた。今日は地区大会と言うのに先輩が遅刻。しかもその遅刻した先輩は部長。ありえない。
『おはよーございまーす。』
のんきな声が聞こえる。
『遅いです!!!』
私はかなり怒った感じの声で言った。
『ごめん、ごめん。助希はオッサンやから寒いのは嫌やな(笑)』
こんな言い合いをしながら私達は競技場についた。初めに始まる競技は砲丸投げの女子だ。西中中学校は私以外には砲丸投げの選手はいない。
しかし私は来年の地区大会に向けて見に行くように、先輩に言われた。私はぼんやり選手達を見ていた。はっきり言って私の方が遠くまで投げていると思いながら見ていた。
『おっす、松谷。』
声をかけてきたのは藤瀬だった。
『おっす。藤瀬うちになんか用け?』
めんどくさそうにわたしは返事をした。
『そうお前に用。お前、ぼんやりと見すぎな。俺らの地区には毎年絶対って言うほど全国大会に出てる畑背中学校おるんやから、しっかり見とかな損やぞ。』
『はーい。』
藤瀬に声をかけられてから、私はちゃんと一人一人の投げ方をしっかり見ていった。一投目の最後の選手は藤瀬が言っていた畑中中学校の2年の選手だ。
『いきます。』
その一言を言った瞬間だった。砲丸は速く高く遠く空を飛んでいった。他の選手とは比べ物にならないくらい遠くまで飛んでいった。私は驚いた。それと同時に怖さを感じた。私は他の人よりは遠くまで飛ばせると思っていた。でも、今わかった。私は井の中の蛙だったことを知らされた。
『松谷。今どんな気持ち。』
私は返事をしなかった。返事をする前に今の選手のフォームが頭の中で、何回も何回も繰り返し必死に頭に焼き付けたかった。
『そうやでな。あんなん見たあとは何にも言われへんよな。返事する前にその選手のフォームが頭の中回って覚えようとするでな。俺も、男子の畑中中学校の砲丸投げ見たときそうやったもん。』
私は言葉では、返事をせず首だけを縦にふった。
藤瀬は満足そうに微笑んだ。
『俺、そろそろ先輩の応援行ってくるからさいなら。』
私は、藤瀬を気にせず、ずっと頭の中でフォームを繰り返した。私がフォームを覚えた頃にはもう女子の砲丸投げは結果を発表していた。