表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REVENGER  作者: ナイトカイザー
異世界から来た男
2/2

訪れた終わり

 そして、校門をくぐった瞬間、俺の視界が変化した。

 いや、視界だけじゃない。音も空気も、何もかもが変化した。

 まだ朝だというのに夕闇に染まる景色。登校中の生徒の声が消える。春先のちょっと冷たい空気も何もない。あるのは肌にまとわりつくような気持ち悪い感覚だけ。しかも、誰かにずっと見られているような気さえする。

 まるで、異世界に迷い込んだような――

「おーい、悠季。なにボーッとしてんだ? 遅刻するぞ」

「あ、ああ、悪い。すぐに行く」

 辺りを見渡すとすでにいつも通りの景色に戻っていた。さっきまでの異変の名残は何一つ残っていない。まさか、朝っぱらから白昼夢でも見てたっていうのか?

 さっきの事が全くもって理解できないまま時間だけが過ぎていった。ホームルームが終わり、授業が初まり、授業が終わる。そして昼休みがやってくる。いつも通りの日常。何一つ変わらない俺の日常。

 そのはずだったのに、俺の世界は朝と同じ夕闇に染まっていた。

「なんだよ、これ……」

 俺はそう呟いてみんなと昼ごはんを食べていた屋上を飛び出して学校の中を駆け回る。

 上履きと廊下の擦れる音すらしない。なのに、荒くなる俺の息遣いだけははっきりと耳に届いている。明らかに異常だ。

 自分以外の全てが存在しなくなったような、そこには確かにあるのに何もないような奇妙な世界。気持ち悪すぎる。

 走って走って走り続けて、胃の中の物がせり上がって来た。

 気持ち悪い。嫌だ。なんだよこれ。笑えねぇよ。意味分かんねぇ。

 そんな時、視界の片隅に人影のような物が映った気がした。

 俺はその影を追手全力で走り出した。俺の見間違いかもしれない。ただ俺の願望が生み出した幻想かもしれない。だけど、俺はその希望にすがるしか無い。

 走って走って走り続ける。階段を駆け下り、影を追い続ける。気付けば俺は、校庭の中心ぐらいにまで来ていた。]

 必死の思いで周囲を見回す。だけど、周りには人影どころか生き物の気配一つ無い。風も無く、音も無い。さっきまでよりも不気味さが増していた。

 走り回ったおかげか、外に出たおかげか頭が少しばかり冷えて落ち着きを取り戻せた。

 目を閉じて息を整える。

 いったいどういう状況なのか。これが今ニュースになっている神隠しと関係があるのか。少しでも今の状況を理解しようとするが情報が少なすぎて何一つ説明が出来ない。

 いつも通りに教室で昼ごはんを食べ終え、いつも通りに早苗たちと一緒に図書館に向かおうとしていた。そして、図書館に向かおうと教室を出た瞬間、この世界にやってきていた。全てが唐突過ぎて理解が出来ない。

「意味わかんねぇよ……ッ!」

 そう悪態をついた俺の司会を何かが掠めた。

 それが何だったのか確かめるために地面を見る。すると、そこには一点のシミがあった。まるで、雨が降った後のような。

 そう思った次の瞬間、スコールのように激しい豪雨が降り始めた。肌に突き刺すような雨。だけど、なぜか冷たさは感じない。

 顔を拭おうと腕を持ち上げ、俺はようやくその雨がただの雨では無いことを理解した。

「赤い、雨?」

 まるで、この世界の夕闇のような色の雨。

 無意識に空を見上げると、俺は思わず凍りついてしまった。空から落ちてくる雨。そして、雨が落ちるたびに色を失って闇のように暗い色になる空。そして、なにより信じ難かったのは、俺の頭上の空がまるでスライムのような粘性の液体になって落ちてきている事だった。

 反射的に逃げ出そうと足が動いた。しかし、足は思った通りに動かず、俺は転けてしまった。

 その時、俺の目に飛び込んできた物は、俺を円で囲むように広がる光輝く線。そして、その線の内側に描かれるファンタジーに出てきそうな奇怪な文様。

 目の前の物を信じたくないために目を逸らした先に飛び込んできた物は、俺の足にまとわりつく光る何か。まるで植物の蔦のような、触手のようなそれは俺の足を絡みとり、俺の全身を拘束しようと体を這い登ってきていた。

「あ、あああああッ!!!」

 喉がはちきれんばかりの奇声を上げて俺は這って逃げようともがく。しかし、触手の高速は全く緩む気配が無い。

 落ちてくる空。俺を拘束する存在。湧き上がる恐怖が言葉にできないまま、俺は空に呑み込まれた

 そして、次に目が覚めたとき、俺の世界は一変していた。

 目の前に広がるのは見覚えの無い無機質な空間。しかも、どうも俺はこの空間で仰向けに倒れているらしい。背中の服越しに感じる冷たく硬い感覚からそうだと判断できた。

 脳裏にいくつかの質問が浮かび上がる。ここは一体どこなのだろうか。なぜ俺はここにいるのだろうか。そもそも、なぜ俺はこんなところで寝ていたのか。

 その答えはすぐに分かった。というより、思い出した。

 突然自分の周囲から人が消え、夕方のような色に染まった世界に閉じ込められた事。突然空が落ち始め、謎の光に拘束され、空に呑み込まれた事。

 思い出して、一つだけだがハッキリとした事が分かった。この場所について、やはり俺は何一つ分からないということが。

 あまりに現実離れしたことが立て続けに置きすぎたからなのか、それとも一度意識を失ったからなのか。俺の頭は自分でも不思議なほど冷えていた。

 一つ息を小さく吐き、改めて周囲を見渡してみる。

 まるで小さい頃に行ったことのあるドーム球場のような広さの四角い空間。天井はビルを見上げているかのように高く感じる。そして、壁や床は岩やコンクリートではなく鉄に近い材質のもので覆わえれていた。

 目を凝らさずに済む程度には明るく、光源を維持するだけのエネルギーは生きているらしい。だけど、それにも関わらず、この空間には人の気配というものが何一つ無かった。

 込み上げてくる不安と恐怖から逃げるため、俺は立ち上がって壁伝いに歩き始める。

 少し歩くと遠くからは分からなかった扉を見つけることが出来た。取っ手のような物は無く、そばにカードリーダーや暗証番号を入力するようなパッドも見当たらない。

 諦めて先に進むか。

 そう思って進もうとした瞬間、空気の抜けるような音ともに扉が横にスライドして開いた。次いで、まるで俺を扉の先に誘うように点灯する灯。

 額から汗が吹き出し、喉が渇く。

 少し迷った後、俺は扉の先に足を踏み出した。

 さっきまでいた場所と違って通路の先は暗くなっていてよく見えない。空気は冷たく肌を少し粟立たせる。鼻腔をくすぐる埃っぽさが、この場所がかなり長い間使われていないことを感じさせる。

 通路はただまっすぐに奥に伸びているだけ。途中にいくつか扉があったけど触っても、殴っても、お決まりの呪文を唱えても、全く反応が無かった。

 そんな扉達を通り過ぎ、この通路の最後……通路の突き当たりにある扉に辿り着いた。

 見た目は今までの扉と何も変わらない。

 どうせ今度もダメだ。そんな諦めた気持ちで手を伸ばし、俺は目の前の扉に触れた。

 すると、最初の扉で聞いた空気が抜けるような音が聞こえ、目の前の扉が当然のごとく開いた。

 そのことが俺の頭をさらに混乱させる。

 どういうことだ。今までの扉は単にダメになってただけなのか? なんで最初の扉とこの扉だけ開いた? これじゃあまるで最初から俺をここに連れてこようとしていたみたいじゃないか。

 そんな考えが俺の頭に浮かんだ瞬間、自分で自分が情けなくなった。いくらなんでも漫画の読みすぎだろう。俺は漫画の主人公たちみたいに選ばれた存在とかじゃないんだ。どこにでもいるただの一般人なんだ。

 俺は改めて扉の奥に視線を送る。

 目の前の空間はまるで異世界のように暗い闇に覆われていた。通路から差し込む光は入り口のすぐ近くだけを照らしていて、それが目の前の空間の異様さを際立たせる。

 しかし、なぜだろうか。俺はこの部屋に入らなければいけない気がする。誰かがこの部屋の中から俺を呼んでいるようなそんな感じがしてしまう。

 息を吸い、大きく吐く。

 一歩足を踏み出した瞬間、俺の目を激しい閃光が突き刺した。

 反射的に目をかばったがそれでも間に合わず、目が霞んでしまっている。

 時間が経過するとともに視力が回復していき、目の前の光景がはっきりとしてくる。

 そして、目の前の光景がはっきりした瞬間、

「な、なんだ……これは……ッ!?」

 俺は思わずそう声を上げてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ