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天空の地  作者: 香川景全
4/5

第4章 塩飽諸島

登場人物

 山本勘助

 山本勘兵衛

 香川頼景

 香川之景

 河田伝兵衛尉

 山地孫左衛門

 お初


___________________________

☆今までのあらすじ☆

山本勘助がいままでの追憶を子供に語り明かして行く。



___________________________

第4章塩飽諸島


 嘉吉の乱が収束を見た当時、在国守護代の香川頼景は西讃地方へ独自の支配権を確立していた。同じ守護代と言えども在国の香川氏と在京している東讃守護代の安富氏とにおいては讃岐における支配力の強弱があった。

 翌々年の文安2年(1445)細川勝元は香川氏の強勢を押さえる意味もあって守護所である宇多津支配を西讃守護代香川頼景から東讃守護代安富智安に替えた。

 それに伴い塩飽は御料所であり宇多津の支配を受けていたので安富氏に代わった。

 その代替え地として香川氏は大内氏への押さえとして同じ御料所の弓削島を管理させ、香川氏は塩飽の山地氏へそれを命じていた。

 しかしながら在京している安富氏には代官を置くだけしか案は無く、実質塩飽支配は山地氏を通じて香川氏が続けていた。


 さて弓削島は安芸国に位置するも、御料所となっていたので安芸国の小早川少泉、讃岐白方(香川氏の領地)の山地、伊予の能島両村の四人が管理していた。その一人であった村上治部進書状には小早川と山路は細川殿様御奉公の面々と記されている。

 西讃岐守護代香川氏はこれをきっかけに山地氏を通じて安芸、村上水軍との関連を持った。


「治部どのよう、わしが配下で意気の良い若者が一人おるんじゃが、お主のとりなしで大内へ放り込んではくれまいかのう。」

 ある日、山地孫左衛門が海賊仲間としての言葉で村上治部に話した。

「ほう、それはまたどういう話じゃ。」

 村上治部は大きく興味を持ったようにして聞き返した。

「いやいやそう大げさな話ではのうて、その若造がどこで聞き覚えたのか大内の名前を知ってのう。殿様にするなら大内がええとぬかしおるんじゃ。」

 山地孫左衛門は一段と声を落としてささやく様に言った。

「別に誰がおるゆう訳でもないのじゃから、普通に話せばよかろうって。じゃがお主からすれば声を落とさねばならない話じゃのう。細川の殿様に聞こえたらこれじゃからのう。」

 首の付け根を叩きながら話す治部に少々の嫌悪感を覚えながらも山地孫左衛門は言葉を続けた。

「まぁそういう事じゃ。じゃがのう、わしは細川の殿様から碌を貰おてはおらんのじゃが。まぁそれは良いとしよう、その若造のことじゃが、一応の事は仕込んではおいたので働きは人一倍出来るのじゃよ。」

「お主が言うのなら、かなりの者じゃなぁ。どうや顔は美形かのう、お屋形は美形を好むからどうじゃ。」

「ははは、そりゃ言うもおろか。」

「と言うと、そうとうなものか。」

「いやいや、その逆じゃよ。顔なんてもんじゃない。ありゃ下駄じゃ。」

 山地孫左衛門が大仰に言った。

「なんじゃそりゃ。そんなんでは大内様へは無理じゃよ。」

「ははは、まぁそう言うな。そもそもお主が考えているような側近衆へ送り込む訳では無いのじゃ。奴は水軍を学ばせたからのう。お主の下でも十分に手先として使える程の者じゃ。実際は離したくは無いのじゃが香川の御屋形様からの話じゃからのう。じゃからお主の手下として大内様へ話を持ちかけて欲しいのじゃよ。」

「そりゃ大変だ。さすれば天霧様は大内へとなびこうとなさっておられるのか。」

「しっ。」

 急に大声になった治部の言葉を押さえるように、口に手をあてて山地孫左衛門が言葉をつなげた。

「まぁそこまではお考えでは無いと思うのじゃがのぅ。安芸の武田様ではこの先どうなる事やら、三好はあのようなお人じゃし、天霧様も先代の満景様をついこの前に亡くし当代の清景様はまだまだお若い。筆頭寄子衆も先を見ておられるのじゃとわしは思うておるがのう。」

「よし、なら任せて貰おう。ところでその者は幾つになるのじゃ。」

「まだ若くて今年で18歳になるかのう。」

「そうか、お主がそれほど買っている者なら話してみるか。じゃがのう、、、」

「おう、頼めるか。さすれば、お主の配下として早速連れて行ってもらおうかの。」

 治部がどのようにとしたものかと考え出したのを受けて、山地孫左衛門が言った。

「そうじゃな、わしの手の者として大内様へ渡せばいいのじゃな。名は何と言うのじゃ。」

「おお忘れておったわい。勘助と言うのじゃよ。」

「よし判った。任せてもらおう。」

 治部も腹をくくった様子で思わず右手で腹帯を叩き言葉を続けた。

「それは判ったが、それをすることでわしにはどんな利をくれるのかのう。」

「ははは、そう来ると思った。まぁ今はこれとて手は無いが、うまく行けばお主にとっても利に為る事じゃて。孫左衛門の借りとして今は頼む。」

 山地孫左衛門が笑いながらも軽く頭を下げるのを見て、これは少々話が大きくなりそうじゃわいと考え、村上治部は目先の利を言うより自分の先を見る方が良い様な気がしてきた。

「よし判った。その若造、勘助と言ったか。いつ連れて来るのじゃ。」

「おうそうかそうか、引き受けてくれるか。ありがたい。なら早速にも連れてこよう。この前の塩飽からの船で2日程前からここへ来ておるからのう。」

「なんと、手回しのええ事じゃのう。」

「そりゃそうじゃ。塩飽と讃岐だけでは目が小さくなるでのう、早速この島の隅々まで見せておったのじゃよ。」

「隅々までとな。わしが所もかや。」

「ははは、まぁそう言うな。あれは素破も仕込まれておるからのう。海だけじゃ無く、山も陸も思うままじゃ。走らせるとお主でもかなわんぞ。」

 山地孫左衛門が身振りを交えて笑顔で言った。

「なるほどのう。そうか天霧様のお考えも大体飲み込めたわい。されど大内様か、もっとええ処も在るんじゃないかえ。」

「ほほう、それがお主の気持ちとすれば、天霧様へも耳打ちせねばなるまいのう。お主が言うのは東国のお人じゃな。」

 村上治部のちょっとした迷い言葉から山地孫左衛門は一瞬で察し、声を潜めて言った。

「まぁそれはそれで、聞き流してくれ。わしの身内として送り込む以上はそれなりの覚悟もわしにいるからのう。ま、おうてみるかの。」

 治部が言ったと同時に床下で小さくねずみの鳴き声が聞こえた。

「おう、そこまで来ておる様子じゃ。早速におうてもらおうか。」

 山地孫左衛門は言って軽く拍手を打った。

「はい、こちらに。」

 しわがれた低い声がきざはしの下から聞こえた。

 村上冶部が振り返るとすぐうしろの白砂に手を突いた若者が居た。

「おう手回しのいいことよのう。孫左衛門、こ奴は使えそうじゃな。」

 自分にすら気配を気づかせなかった若者に感を受けた冶部はすぐ孫左衛門を振り返って言った。


____________________________

第4章 了



作者から・・・

9月に脳梗塞で倒れ、現在リハビリ中です。

次話は来年になります。お楽しみに。

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