第3章 水者
☆今までのあらすじ☆
天霧城香川氏の家老山地孫左衛門の配下で色々と学んだ山本勘助がそれまでの追憶を子供に語り明かして行く。
登場人物
山本勘助
山本勘兵衛
香川之景
河田伝兵衛尉
山地孫左衛門
お初
____________________________
☆今までのあらすじ☆
天霧城香川氏の家老山地孫左衛門の配下で色々と学んだ
山本勘助がそれまでの追憶を子供に語り明かして行く。
____________________________
第3章 水者
「わしゃ海は嫌じゃ、わしは山で育った。猪やキジや熊が友がきじゃで。島に連れられて来ただけで、友がきどもがおらず気が滅入っているというのに、その上、、、海で働けでは、わしは、、、わしは、、、」
目に涙を浮かべ勘助はお初に言った。お初は山地孫左衛門配下の清家又次郎の娘である。少し頬骨が張ってはいるが愛くるしい細面を持ったお初は、勘助より2歳年下で小柄だがいつも勘助には姉のごとく振る舞っている。
勘助にとってお初は直属の頭の娘だという意識もあり、何を言われてもただうなだれるだけであった。
しかし、今日だけは勘助は我を通そうとお初にかみついた。
「今日までおまえ様とは毎日毎夜親父殿の調練を受けては来たが、あれは山や町での事ばかりじゃ、土の上のことならわしは文句もいわなんだ。毎日飛んで、走って、刀の使い方や鉄砲の撃ち方、字の読み書き、全部身には付けた。山しか知らなんだわしに、国がどうじゃとか、その国がどこそこにあるとか、そこの殿様は誰それじゃと、今の世の中の流れまでも教えてくれたのがおまえ様の親父殿じゃ。親父様が船乗りじゃと言うのも判る。じゃが、わしはあかん。船の中では走る事はできん。飛ぶこともできん。飛んだら土の上に降りるのじゃ、海の上にはよう降りん。そもそもあんな重たい物が海に浮かぶのがわからん。大筒まで積んどるんじゃぞ。重たいんじゃぞ。」
お初はいい加減にしろと言いたいところだが、勘助の剣幕から、今はしゃべらせておいた方が無難と、いつもと違って聞き役に回っている。
勘助が塩飽本島に連れてこられてから既に2年の歳月が流れていた。
その間、勘助は山地孫左衛門の命を受けた清家又次郎の手元で諜者としての訓練を受けた。
島が狭く思える程勘助は走り回った。
字も書ける様になった。勿論読むことも出来る。
戦の仕方は本村介左衛門から指南を受けた。
事実、勘助は山地孫左衛門が考えていた様に諜者として仕上がっていた。
勘助の言葉が少し途切れたところでお初が言った。
「親父様はのう、おまえの為を考えて水事もお教えくださるのじゃ。おまえは字を習う時に同じ事を言ったのう。じゃが見てみい、今じゃ読み書きは出来るじゃ無いかえ。どうじゃ。それに金山の時もお前は何と言うたか覚えておるかのう、お天道様の下でなけりゃあかんと言い張ったのう、わしゃモグラじゃねえとな。それらとおんなじじゃ。じゃがまあええわい、わしのほうから親父様におまえの考えを話してやるから、そう泣くな。」